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1章 幼少期編 I

28.つるんと剥けた

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茹でた枝豆は一発で受け入れられた。
ひとくち食べたらもう止まらなくなっていたものね。

レストランに出せるものではないけれど、味に癖はないし、色どりにも使えるし、今後はチギラ料理人がいろんな料理に入れて美味しく食べさせてくれることでしょう。

スイーツで考えたら宮城名物・ずんだ餅かな。
あ~、白玉粉がないや。

ふむ、白玉粉はもち米からできているものだ。
お米の種類を一通り見ないといけないな。見比べれば多分わかるはず。

★うるち米(食卓ご飯)は半透明。
★もち米は、白くて不透明……なのです。

「コメは甘液作り以外でも活躍しそうですな。多様な標本があるか知り合いに当たってみましょう」

やっぱりシブメンがいると便利…いや、重宝…違う。助けになる……これっ!



☆…☆…☆…☆…☆



「いや~、気持ちいいくらい簡単に剥けましたよ」

木皮が3種とも剥けたと、ランド職人長が楽しげに報告に来た。

剥ける種類を採取してもらったのだから剥けるのは当然なのだけど、ちゃんと剥けてよかった。

別々に束ねてある木皮は、間違えないように木名を書いた藁紙が被せておいてあった。
木名の下の細かい文字はランド職人長が書いた記録だ。蒸した時間と剥きやすさの順番などを、紙と照らし合わせてルベール兄さまに報告している。

報告を聞いて少し考えたルベール兄さまは、扱いやすい順に木皮を並べ替えた。
……うん。ルベール兄さま、ブレないね。

木皮の匂いを嗅いでいるシブメンの謎行動はスルーしておこう。


「姫さま」

先ほどの丸椅子に座って良い子にしている私の前に、ランド職人長が跪く。

「次は外皮の面を削っていきますんで、とりあえず見ててください」

え? 水にさらす工程を飛ばしてますよ。

「作業がひとつ抜けているよ」

ルベール兄さまからも指摘が入った。

「いや~、出来そうな気がするんですよ」

ランド職人長の目が光る。

──…そんな都合よく……

でも既に、まな板と菜切り包丁のようなものが用意されている。ランド職人長はやる気だ。

──…まぁ、止めません。やっちゃってください。

「いきます」

ちょっと板前風に包丁を構えるランド職人長。

茶色い外皮に刃が当てられる。

最初は弱い力で少しずつスライドする。

内皮が千切れない力加減とコツをつかむと、ざかざか刃を動かした。

茶色い部分に摘まめる箇所ができる。

……摘まむ。



シュルーーーッ。



──…ちょちょちょちょっと、あるぇ~?


摘まんで引っ張ったら簡単に剥がれた。

内皮の黄色い部分のみがランド職人長の手に残った。


──…都合よくなっちゃったよ!


「ど~ぅですか?」

ランド職人長がすごいドヤ顔になった。

「この黄色い木皮が紙になるんだね」

ルベール兄さまは興味深そうに覗き込む。

「藁が紙になるくらいです。これが紙の素なら品質の高い物になりそうですな」

シブメンは剥かれた木皮を指先でもみ込む。


今起きている微奇跡に誰も気づいていない。いいけど。


「おひさまのひかりにあてると、しろくなるのですが、しさくでは、はぶきます。きいろいかみでも、がっかりしないでくださいね」

「しないよ。黄紙でも充分だと思うけど、白くなるならそれがいいね」

私とルベール兄さまは顔を見合わせてニッコリ笑った。



シャッ、シャッ。この音は外皮を剥ぐ音。

ポコン、ポコン。この音は混合具のペダルを踏む音。



厨房ゾーンではチギラ料理人が豆乳作りに励んでいる。

昨日から半日かけて水に浸して膨らませた大豆に、水を加えて混合具にかけているところである。
混合具の中を見せてもらったが、もうしばらく時間がかかりそうだ。

この後、混合具で滑らかになったところで、弱火で10分。
布で濾し絞った液体が豆乳。
濾し布に残ったものが、おからである。


ポコン、ポコン……チギラ料理人が額に汗して頑張っている。


う~ん。
混合具はもっとこう、電動ミキサーのように高速回転できないかな。

「ゼルドラまどうしちょう。こんごうぐの、なかのかなぐを、すごいはやさでかいてんさせる、まどうぐは、つくれるでしょうか」

「ふむ……」

チギラ料理人が懸命に踏むペダルを、ジッと見る。


見る。

見ている。

閃いた!…と視線が外れた。


「もう、ありますな。用途は違うものですが改良してまいりましょう。君、新しい混合具の大きさに希望はあるかね?」

「料理用ですから、このくらいの小ぶりのものがあると助かりますが」

チギラ料理人は足を止めずに答える。

「ゼルドラまどうしちょう。まほうで、はやくかいてんするどうぐを、つくれるなら、あわだてきを、こう……」

泡だて器が欲しくて手をフリフリしたらチギラ料理人が手渡してくれた。
泡だて器を下に向け、グリップを手のひらで挟んで、竹トンボのように回転させる。

「生クリームを簡単に早く作りたい……という事ですな」

(そんな便利なものが出来るのか!?)

チギラ料理人の心の声がだだもれである。

「回転の魔法構築は完璧に出来上がっています。金具の形を変えて中心を固定すれば出来ないものはありません」

「かいてんそくどの、ちょうせいも、できちゃったりは……」

「可能です」

「いろんなまぜかたができるように、かなぐをとりはずして、こうかんすることは……」

「可能です」

「きゃぁーーーっ! アタッチメント交換で自由自在! ミキサー、フードプロセッサー、ミルもいけちゃうかなーーっ?(日本語)」

ルベール兄さまが私を抱き上げ、シブメンの前に差し出す。
シブメンは事も無げに私の額に指先をつける。

「×××××× ×× ×××」

すん。

「ありがとうございました」

ぺこり。鼻血セーフ。

「シュシュ、それは絵に描ける?」
「はいっ」
「魔導士長。妹の絵図が出来上がったら話を詰めましょう」
「そうですな。では、私はこれで……(クルリ)保温具を忘れていました」

……わぁ、置いてある。
冷蔵庫・冷凍庫と同じ箱だから気づかなかった。

「使い方は冷蔵庫と同じですが、王女殿下が使いたい温度に固定しておきましょう」

「わたくしは、なんどがどのくらいのなか、わからないので……あせをかくきせつの、おんどにしておいてください。さとうみずにつけたくだものを、ハッコウ……くさるのではなく、からだにいい、こう…」

腐敗ではない、発酵の説明ができない。

「茶葉の香り出しの『発酵ニール』のことですな?」

「たぶんそうです! おちゃのはっこうより、すこしたかいおんどに、してください」

紅茶の発酵は20~25度。天然酵母の適温は28度。
やっぱりシブメンがいると、ええと何だっけ、助かる!

「調節の摘まみはこのあたりにしておきますか。起動するときはこの魔石をここに入れてください。では」

行っちゃった。

ファンタジーあるあるの魔石はこの世界の電池のようなもので、充電も可能な便利グッズである。
街の電気屋まどうぐやさんで普通に売っている物だそうだ。価値の程はわからない。あんまり興味もない。



チギラ料理人から大豆の様子見の声がかかった。
いい感じになっていたので、火にかけてもらって手順通り豆乳とおからに分けてもらう。

粗熱を取ったら冷蔵庫にいれて今日は終了です。
明日必要な食材のメモはルベール兄さまにもらってください。あ、明日の豆乳作りのために大豆を水に漬けて置いてくださいね。豆乳はいくらあっても足らないのです。

では、お疲れさまでした。


……帰らないで、ランド職人長の皮剥ぎを手伝っていくそうです。


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