37 / 184
1章 幼少期編 I
26.アルベール商会(side アルベール)
しおりを挟む【第一王子 アルベール視点】
アルベール商会のレストラン《アルベノール》
意味するところは『アルベールの味』だ。
『べ』に続く語呂の良さから父上が命名した。
舌でなかったことに、ほっとしたのを覚えている。出資者の案には逆らえないものなのだ。
いつだったか、シュシューアにこれを話したら腹を抱えて笑われた。
異世界ニホンでは、「舌」は「舐める」の擬音なのだそうだ……まったくもって不愉快な偶然である。
☆…☆…☆…☆…☆
王妃主催の茶会で出されたプリンアラモードの噂は、貴族婦人たちの間で瞬く間に広がった。
ティストームの菓子史上最高の大流行が巻き起こった……というのは大げさだが、砂糖が高価故に流行自体が起こらなかったのだと考えている。
しかし、流行は起こった。
プリンアラモードが食べることができるアルベノールの予約が、あっという間に3ヶ月先まで埋まってしまった程である。目論見通りではあったが……(3ヶ月より先は予約を受け付けていない)
元より予約席は安くない別料金だ。
プリンアラモードの値段も、敢えて高額に設定して暴利をむさぼっておいた。
消費者が金に糸目をつけないのは物珍しさが利いている今だけである。
次の商品開発のための資金が必要なのだ。どんどん金を落としていって貰いたい。
───プリンアラモードの人気は今でも上がり続けている。
時間がたつにつれ、レストランだけでは対応しきれず、料理人の派遣も始めてみた。
完成品を持ち込んで盛り付けるだけではあるが、その需要も相当のものになった。
同時にプリンアラモード専用の足つき皿も飛ぶように売れた。
決して品切れを起こさなかったのも、流行を衰えさせない計略のひとつではあった。
しかし、いささか成功しすぎた。
黄ヤギと玉鳥(卵用)が不足する懸念が出てきたのである。
おかげで門外漢の畜産にまで手を広げることになってしまった。
そういうことで、アルベール商会の傘下には牧場が加わり、同じ流れで契約農園の数も増えつつある。
──…どちらもシュシューア繋がりだな。
今後も必要なものは全て揃えてやるつもりではいる。
私自身楽しんでいるのもあるが、そして儲かるというのもあるが……こほん。
一方、砂糖は各方面から融通してもらい、代わりとしてカルシーニ蜂蜜を提供した。
それによって、一時高騰した砂糖の価格は、今はやや高値で安定している。
じきに甘液に切り替える予定であるから、砂糖の価値は徐々に下がっていくことだろう。
煩い砂糖利権団を黙らせるのは父上の領分だ。
商会では黍酒の輸入を大幅に増やすよう動くつもりだが………私に鎮圧の仕事を振られたら嫌だな。嫌な予感がする。甘液を譲ったんだから後は国で何とかしてくれ。頼むから。
ともあれ、プリンアラモードの人気は貴族婦人から社交界へ、社交界から裕福層へ、王都の外にも浅く広く伝わっていくという快挙が続いている。
それによって領地で隠居していた紳士淑女の耳にも情報は流れて行った。
噛まないという菓子が少なかったこともあり(歯のない)年寄りたちの反応が凄まじいものになったのだ。
社交界を退いていたとしても金だけは持っている。
ルベールが強く薦めてきた『調理法・泡だて器・絞り器』の組売りが功を奏した。分離具も併せて気兼ねなく吹っ掛けた金額で売りつけてやった。ふっ。
◇…◇…◇
調理法は人伝てに広まるのは承知していたので、組売りが落ち着いてきた頃に器具の方は単品販売も始めた。
泡だて器と生クリーム用絞り器は類似品が横行したが、それを取り締まり賠償金を徴収するのは商業ギルドの仕事だ。
賠償金の一部はギルドにも入る。ギルド職員たちは張り切って摘発していた。
このあたりでシュシューアの針金製造具が完成し、泡だて器の量産が可能になった。
泡だて器は菓子作りのみならず、料理には欠かせない基本的な調理器具になるはずだ。
チギラもそう言っていたし、調理現場を見ていれば嫌でもわかる。
なによりマヨネーズ作りに必要だ。
同時期に完成したゾウゴウ菌除去具は今のところ販売の予定はない。
開発者であるゼルドラ魔導士長が、他の有害物もまとめて除去できるよう改良したいのだそうだ。
試作品となったゾウゴウ菌の除去具はアルベノールの厨房のみで活躍中である。
最近は食品関係以外の外来商人が調理器具を大量に仕入れていく。
取り敢えず話題の物を購入したいという顧客が多いらしい。商人さえよくわかっていない。
『パソコンを持ってないのに、Win95ソフトを買うおじさんたちみたい』
シュシューアが前世の言語で言っていたが、何となく呆れているのはわかった。
現在のアルベノールではシャーベットも注目を集めている。
『期間限定』が消費者を熱くするのだと力説したシュシューアを信用して、収穫終了間近のシプードで宣伝したのは効果があったのかなかったのか。
プリンアラモードの人気もまだまだ根強い。
『預かった茶器にプリンと生クリームを詰める』という販売を始めるため、予てから計画していた傭人の寮として空き家を買い取り、その1階全体を仕込み専用の厨房に改築した。これでレストランの方は落ち着いていくことだろう。
次はレベだったか……忙しいことだ。
余談だが、商会の料理人が王宮の厨房にプリン作りの指導を受けに行った際のこと───
商会から持参した『泡だて器』と『生クリーム用絞り器』を見た王宮の料理人たちが目を剥いて『俺たちのあの苦労は~っ!?』と叫んだという笑える噂が、料理人たちの間で広まっているらしい。
発売前の調理具を持ち帰らず、そのまま厨房に寄付したのは言うまでもない。
もうひとつ。
妹が『リボンくん、リボンくん』と煩い。
リボンを昇進させて、しばらくあれから離すことにする。
185
お気に入りに追加
1,798
あなたにおすすめの小説
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる