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1章 幼少期編 I

22.お父さまの執務室1

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お芋の品種改良が終了し、アルベール商会から新野菜として『ジャガ』が商業ギルドに登録された。

じゃがバターから取って付けたような品種名が適当すぎて笑えた。

ジャガイモっぽかったのが大きくなって
『黄ジャガ』が、男爵芋っぽいの。
『平ジャガ』が、メークイーンみたいなの。
まん丸になったサツマイモっぽいのは『甘ジャガ』

この3種をこれから一般に広めていくことになる。



☆…☆…☆…☆…☆



中庭でケンケンパ遊びをしていたら、お父さまから『菓子を食べにおいで』と誘われた。

もちろん喜んでお呼ばれした。

招かれたのは、普段は入れてもらえない国王陛下の執務室だ。
王妃・王子・大臣クラスの執務室にはゴネれば遊びに行けるが、王さまの仕事部屋だけは特別厳重なのだ。
ここで「おかしい」と思わなければいけないのだろうが、私は応接テーブルのナッツクッキーに目が釘付けになってしまっていた。

クッキーは美味しいし、お父さまは優しい。

だから不意を突かれた。

「芋…ではなく『じゃがバター』を食べたよ」
「おとうさまも? おいしかったですか?」
「あぁ、美味しかった。あの味なら皆に受け入れられるだろう。よくやったな、シュシューア。そなたは自慢の娘だ」

うふふふ~、褒められた~。

「芋…ではなく『ジャガ』は、痩せた土地でも育つそうだね」

お父さまはまだ芋感が抜けないらしい。

「はい。ジャガはやせたとちでも、さむいとちでもそだつのです。しゅうかくは、ねんに2かいできるし、てまもかからないのです。おいしいし、ね?」

「あぁ、美味しいな……それで、食料危機対策とはどういうことかな?」

……え?

「北方の領地を助けなければならないことが、起きるのかな?」

……はえ?

「お父さまは国王なのだ。民を守るのが仕事だ……わかるな?」



「………はい」



北方の大飢饉のことを知らせなければならない……とは思っていた。

思ってはいたが、ゲームというものをどう説明すればいいのか考えているうちに、伸ばし伸ばしになってしまっていた……いや、そうではない。本当は逃げていたのだ。できれば言いたくなどない。飢饉なんて起きないかもしれない。

「…………」

いやいやいや、嘘です。正直に言います。忘れていました。まだ3歳なのよ。子供なのよ。許してちょんま…げふっ。
自分で自分を脳内で仕置きしておきましたので、お許しを~。


◇…◇…◇


まぁ今思えばなのだが、一国の王子たちが家畜の餌を口にするという行為はどう考えてもおかしかった。
お芋が美味しいと分かっている私はパクパク食べられたけれど、王子さまたちには相当抵抗があったはずなのだ。
1cm角のふかし芋を、覚悟を決めた様子で食べたアルベール兄さまの顔は、今でも鮮明に思い出せる。
私だってトウモロコシや大豆だったとしても『飼料用の穀物を料理しました』と言われたら食べたくないもの。

では、なぜ、王子たちは家畜の餌である芋を口にしたのか?

お父さまからの命令があったからだ。

ワーナー先生のもとで私が漏らした『しょくりょうきき、たいさく』が、ルベール兄さまからアルベール兄さまへ報告が上がり、それがお父さまにまで届いた。
もうひとつ、甜菜のアピールで言った『きたのほうの、りょうちのたすけ』も報告されていた。

「ルベールは聡い子なのだよ」

お父さまが今そう言っているのだから、間違いない。

「前世の記憶を持つそなたの言うことであるからな。参考までに聞いておきたい」

危機回避できればと、私も思います。

「ティストームのきたがわで、2ねんご。ききんがおきて、ひとがいっぱい、しんでしまいます。おとうとが、うまれたとしです。ききんのげんいんは、わかりません」

「産まれるかもしれない弟に『ルー』と名付けるのを止めたのは、改変……違う未来を望んだからだな? では、それらをどのようにして知ることができたのか、話しなさい」

「ええと、ゲーム…ゲーム……」

どう説明したらいいか。ゲームは何に例えたら理解してもらえる?

「その手つきは……本かな?」

あ、手…ピコピコしてましたね。

「ふむ……予言の書でも読んだか?」

そう! それいい! それにする!

「でも、ちがうことがあるのです。アルベールにいさまは、しょうかいのうんえいはしていませんでした。ルベールにいさまも、りゅうがくしていて、いまはがいこくにいるはずなのです。それと、ベールにいさまの、ひとみのいろは、おとうさまとおなじでした」


う~ん、どうなっているのか。

う~ん、お父さまも考えている。


「……その書を書いた予言者は、この世界の一部を覗き視たのではないか?」

「のぞきみた……のぞく、みる、このせかい」

「そなたの様に前世の記憶を持つ者は、稀にいると前に話したな? 他にも、遠い国や異界の情報を受け取る者もいるのだ。そなたの前世の世界にも、そうした者がいたのかもしれぬ」

私が転生したのは《秘密の国の秘密の恋》の世界ではなく、この世界を何らかの事象で知ったゲーム作家が《秘密の国の秘密の恋》を制作したのだと………


目から鱗が何枚も落ちまくった。


そうか~、ゲームはこの世界を参考にして作られたのか~。

そうかそうか~、ゲームの中に転生なんて出来すぎだものね~。


「………」


んじゃ、マジで『予言の書』を読んだようなものじゃん!

途中でプレイするのをやめたのは誰だ?
ネット情報とファンブック&グッズだけで満足したのは誰だ?

私だ!

全ルート網羅しとくんだったーーーっ!


(ぐやじぃぃぃ~っ!)


兄王子3人の逆ハー後、数年の蜜月を経てから出会う第四王子。
大人の美しい女性に憧れるルー……
少年王子を理想的に育てるゲームの2章が始まる。

育成ゲームは好みではなかったのだ。
2章の成長したキャラたちの年齢も微妙だったし。

アルベール  28
ルベール   26
ベール    20
ヒロイン   21~25
第四王子   11

この時のモブ王女は何してたんでしょうね。
シュシューア 16


「よげんのしょでは、アルベールにいさまは、28さいで、どくしんでした」
「ははっ、有り得んな」

「ルベールにいさまも、26さいで、どくしん……」
「有り得ん」

「ベールにいさまも、20さいで、どくしん」
「それは有り得るな……そなたは?」

「わたくしのことは(モブすぎて)書かれていませんでした。おとうさまと、おかあさまは、ずっとイチャイ…… いえ、えと……あ、むらさきいろのかみかざりを、おとうさまがふんでこわしてしまったのが、こいのはじまりなのですよね。おもいでが、かいてありました」

「あれは、紫だったか? 粉々になって色などわからなかったが」

「あのかみかざりは、おかあさまのひとみのいろにあわせてつくられた、おかあさまのおじいさまからの、おくりものだったのです。おかあさまは、やさしいから、いえなかったのです……わぁ、わたくしがいってしまいました。ないしょです」

お父さまのニヤリ顔。ハンサムだ。

「あぁ、内緒だ。いきなり紫の髪飾りを贈って驚かせるとしよう」

まぁ、増々ラブラブに! いつ贈るのかと聞くのは野暮だろうか。喜ぶお母さまを見てみたいぞ。

「2年後か……」

そんなに先!? いや、飢饉の話題に戻ったのか。
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