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1章 幼少期編 I

19-1.魔導士長と冷蔵庫 1

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お芋の試食会の次の日───


ルベール兄さまと離宮に向かうと、門の前に大きな箱を抱えたシブメンが立っていた。

「今来たところです。お気になさらず」

ルベール兄さまは何も言っていないのに、先に返事がかえされた。

「それはもしや冷蔵庫ですか? 重かったでしょう」

門の鍵を空けながら、ルベール兄さまは畑作業をしている男──畑人を呼び寄せる。

駆けつけた畑人に冷蔵庫を渡して『では、失礼』と踵を返したシブメンは『使い方を説明しておきましょう』と、もう一度踵を返して厨房へと歩いて行った。冷蔵庫を持った畑人も小走りでついていった…………私たち、まだ挨拶もしていない。

「面白い人だね」

ルベール兄さまは無礼を責めるでもなく、クスクス笑いながら門の鍵を閉めた。

この門は離宮の正門なのだが、アルベール商会は利用するつもりがなく、普段の出入りはもっぱら裏手にある通用門を活用している。
今の様に正門を使うのは私を連れた付添人だけで、その理由は私の活動範囲である王宮の庭園と隣接しているからだそうだ。

鍵を閉めている間にシブメンは見えなくなってしまった。
冷蔵庫を持った畑人は急ぎ足ではあるが、どうやら置いて行かれてしまったようだ。

歩くのが早い、そして人に合わせない……初デートで振られるタイプね。


──…あれ? アルベール兄さまもそうじゃなかった? 


ルベール兄さまと手を繋いで歩くのは楽だから、合わせてもらっているのがわかる。今もそう。
リボンくんのエスコートも優しかった。

アルベール兄さまと一緒の時は……ちょっと早歩き…走…どころじゃなかったな。
振り向いて、私がついてこれていないとわかると、掬って抱えて歩きながら片腕抱っこ装着……なんと、最初から並んで歩くことを放棄されていた! むむーっ!

「おんなの子とあるくときは、ゆっくりあるいてあげないと、いけません。アルベールにいさまは、しっているでしょうか」

「え? いきなり何の心配?」

「アルベールにいさまは、はやくあるいて、おんなの子を、おいてけぼりにして、いませんか?」

「そんなこと、ないと思うけど………ぉ…ぅん~?」

あぁ、声が裏返っている。思い当たる節があるんだ。

「パーティでのエスコートは完璧だったから、たぶん大丈夫。うん。兄上は完璧な王子だ。だから、大丈夫」

大丈夫を二回言った。

「ふつうの日は?」

子供の曇りなき眼でルベール兄さまを尋問する。

目が泳いでいた。

「ぁあ~、令嬢に話しかけられたら、多少立ち話もするし、歩きながらの会話も……会話を切り上げた…んだと………」

上を向く視線がスッスッと動いているから、認めたくない事例が何件も思い出されているようだ。
どうやら置いて行かれた令嬢は一人や二人ではないらしい。

アルベール兄さまがモテないはずはないけれど、本人にモテ自覚がないなら問題だ。
いわゆる女慣れは、攻略対象であるうちの王子たちには必要不可欠なのである。

害虫は走って追いかける、腕をつかんでぶら下がる、甘えた口調でうるさく鳴く。

虫の毒に耐性がないアルベール兄さまが「ふっ、面白い女だ」をかましたらどうしよう。

──…おのれピンク虫め!

怒りに打ち震えていると、察知したルベール兄さまは私を抱き上げて「大丈夫だよ~、大丈夫だよ~」とギューギューしてきた……また大丈夫を二回言った。不安だ。

「今度僕の女友達を連れて兄上を巻き込んでみるよ。だからシュシュは気にしな~い」

ルベール兄さまの女友達……そっちも気になるよ。

「さぁほら、お待ちかねの冷蔵庫が来たんだ。冷たいお菓子がこれからたくさん作れるんだよ。僕のために作ってほしいなぁ」

──…はっ! 冷蔵庫!

「はしれ! ディフィン!」

「ヒヒーン!」

ルベール兄さまは快く馬になってくれた。

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