20 / 186
1章 幼少期編 I
14-1.藁紙 1
しおりを挟む王宮の食堂で朝食を取り終えると、私とベール兄さま以外の家族は執務棟へ向かうのが日常である。
私は自由行動。
ベール兄さまは自室に戻り、訪問する教師たちとのお勉強が待っている。
ベール兄さまの授業には前に何度か乱入したことがある。
意味が分からない教師の単語に質問に質問を繰り返し、程度の低い私のための授業にスライドしてゆき、また、一を聞いて一を聞いて一を聞いて、聞いた傍から頭からこぼれていく不毛の時間に、最初は我慢…根気よく見守ってくれていたベール兄さまも堪忍袋の緒が切れたらしく、授業中は二度と来るなと厳命され追い出されてしまった。
実はベール兄さまは本気で怒ると結構怖い。アルベール兄さまの半分ぐらいは。ええと、もうその半分くらいかな…………あれ? そんなに怖くないかも。ほとぼりが冷めた頃また突入しよう…(※喉元過ぎれば熱さを忘れるタイプ)
ということで今、朝食を終えたファミリーは食堂の大扉を出てそれぞれの予定のために散ってゆくところである。
「シュシューア、離れなさい。危ないですよ」
「いーやー」
私は今、お母さまのドレスにまとわりついている。
今日のお母さまのドレスはギャザー寄せがたっぷりで、体を絡みつかせることができるほど布地をふんだんに使った超贅沢品なのだ。サラサラしていてとっても気持ちがいい最高級品なのだ。
品質はさておき、お母さまは歩行中であった。
私も追いかけつつ絡みついていた。
間の悪いことに、最高潮に巻き付いたところで私の足がお母さまの足の甲に乗った。
歩を進めて前に浮かせた母の御御足である。当然私も一瞬浮かんだ。そして私は巻き付いていたドレスから解かれることで勢いがつき、軽快に転がった。万歳ポーズで三回転はしたであろうか。
面白かった。
「もういっかい!」
「ダメだよ、お転婆さん」
ガバリと起き上がった私を後ろから抱き上げたのはルベール兄さまだ。
「もういっかいだけ~! おかあさま~!」
クスクス笑いながら通り過ぎようとするお母さまに手を伸ばすも叶わず、あきらめきれずに目で追うと「ロッド、今の見ましたか?」と、はしゃいだ声のお母さまは遠ざかっていく。そして娘をネタにお父さまとイチャイチャしだした。今はもう無理っぽい。
──…ふふふ、でも、私はあきらめない。夕飯の時に再チャレンジする所存!
ベール兄さまと目があった。
私が何を考えているか見抜いたベール兄さまは口パクで「ばーか」と半眼でチラ見しながらスタスタ行ってしまった。
──…ぬぅ、ベール兄さまだって面白そうだと思ったくせに! もう一回やらせてもらって見せびらかしてやる!
「う~ん、僕のお姫さまはどこに行っちゃったのかなぁ?」
お姫さまらしくないと言いたいらしい。
「ルベールにいさまが、いま、だっこしていますよ」
いちおう主張しておく。
「僕が抱っこしているのは、お転婆さんだよ?」
「おひめさまですよぅ」
ルベール兄さまの両頬をペチペチ叩き、寄せて上げてグニグニする。
アルベール兄さまには決してできないおふざけである。
──…コロコロが出来ないなら、イチャイチャに変更だぁ。
「やめないか」
アルベール兄さまの邪魔が入った。
「シュシューアはこれから離宮へ連れていく。ルベールはこれから視察が入っているのだろう? 早く行くといい」
そう言ってルベール兄さまの腕から私をもぎ取る。
「あぁ、もう馬車が待っているかも……それじゃぁ僕は行くけど、シュシュ、お行儀よくね」
「はぁぃ、いってらっしゃい」
いってきますのほっぺにちゅうを残し、ルベール兄さまも手を振って行ってしまった。
残るはアルベール兄さまと私だけとなった。
「今日の付添人はミネバだ。面倒を掛けないように良い子にしていなさい」
「アルベールにいさまは?」
「来客が多くて、今日は予定が立たん……ミネバ、頼む」
おっと、ミネバ副会長がいた。
廊下の端とはいえ王宮に立ち入ることを許されているとは、かなりの信用を得ていると見える。
私をポンと預けてしまえるのだから、これはもう相当のことだ。
アルベール兄さまは私を下におろし、昨日のリボンくんの様に服の乱れを直して「行ってこい」と送り出してくれた。もちろんお返事は「いってきます」だ。
「おはようございます、姫さま。今日はよろしくお願いいたします」
「おはようございます、ミネバふくかいちょう」
ミネバ副会長の顔は無表情だけど、こちらに手を伸ばしてきたので迷わずキャッチする。指一本にぎにぎ戦法で父性を爆上げするのだ。──…ぬぅ、表情に変化なし。
けど、私は挑み続ける。いずれ、そのうち、いつか、たぶん、攻略……は無理そうなので観賞だけに留めておく。クールマンは一歩引いて眺めるのが正解なのである。
214
お気に入りに追加
1,823
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる