転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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1章 幼少期編 I

13-1.離宮工房 1

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果報は寝て待てと申します……日本では。

実際にお昼寝から起きたら、離宮の準備が整ったとの嬉しい知らせが届きました。

リボンくんが迎えに来てくれて、離宮まで手をつないでエスコートしてくれるというオマケ付きです。



☆…☆…☆…☆…☆



王城の敷地を含む「王政区」は、人工川に囲まれた浮島のような形をしていると聞いている。

全体像はまったくわからないけれど、私たち王族が住む王宮の建物などは、広大な敷地のほんのちょびっとの面積らしい。

他にはきっと騎士団の訓練場とか、魔法の実験場とか、もろもろのファンタジーな物件がたくさん点在しているに違いない。
このあいだ行った魔導部の事務棟も大きな建物だったし、ワーナー先生にお願いして遊…見学させてもらった薬草課の調合棟も別の建物だったし……くすくす……その調合棟は事務棟の裏手にあるのだけど、薬草園にぐるりと囲まれた中心にポツンと建っているのです。これは理由がわかると誰でも笑うと思う。だって独特のニオイが漂っているのだもの……臭くはなかったよ。いい匂いでもなかったけど。

見学と言えば、アルベール兄さまの執務室には、やっぱりお許しが出なくてまだ行けていない。当分は無理そうである。残念。
でもまぁ、いいのだ。今こうして、リボンくんと手を繋いで離宮に向かっているのだもの。ララ~ン♪



デート気分で向かっている離宮は、王宮の庭園を突っ切った先にあるらしい。

「あかい、おはな!」

赤い花が咲いているとリボンくんに教えてあげる。
この庭園は私の遊び場なのだ。

「今の季節に咲く花ですね。ユーザンビという名前です」

リボンくんは柔らかく微笑んで花の名前を教えてくれた。

──…ん~、この笑顔すき!

「きいろい、おはな!」

──…もっと笑って!

「同じユーザンビですね。白い種類もあるのですが……ほら、あそこに」

「しろ! ゆーざんっぴ!」

「はい、ユーザンピの白いお花です。他にも違う色がありそうですね。見つけたら教えていただけますか?」

んきゃーーっ!  キラキラ笑顔いただきましたーっ!

「みどり!」

「それは葉……ですね」

「あお!」

「……はい、空ですね」

「ちゃいろ!」

煉瓦レンガですね」

たのしーーーっ! 

リボンくんの顔がちょっと困っているのは気のせいよね!




到着した。

今までの私の世界は狭かったのだと気づかされた瞬間だった。
目の前にそびえ立つ高い生垣が庭園の終わりだとずっと思っていたのだ。
まさかその向こうに建物があったとは……しかも、ものすごくわかりやすい門まである。
王宮のあちこちを探検し尽くしたつもりだった3歳児の目は節穴だらけだったということだ。地味にショックだった。

リボンくんが槍門の鍵をカチャリと開ける。
背の高い草が蔓延っているので、ここからはまだ建物は見えていない。
リボンくんに手を引かれて、獣道のような草のトンネルに足を踏み入れる。


草しか見えない! ドキワクだ! 冒険が始まりそう!……と思った瞬間に抜けてしまった。


出たのは開墾途中らしき荒れた場所だった。
そこには整地している男たちが大勢いて、私たちに気付くと微妙に並んで頭を下げてきた。
日本人だった頃の感覚が残る私も頭を下げたいところだけど、ダメなのだ。

──…こういう時、お姫さまはどうするんだっけ?

ちらりとリボンくんを見ると、作業を続けるようにさりげなく手を振って合図を送っていた。

──…微妙に指先を立てて手首にスナップを利かせる……こうかな? こう? なんか私がやると敬礼っぽくなってるような気がする。カッコ悪い。やめておこう。頭の上から『クスッ』と聞こえてきたし。


リボンくんに合図を送られた男たちは、もう一度頭を下げて根っことの格闘を再開した。

私たちはそれを横目で見ながら中道を通り過ぎる。

かつて花園だった場所はもう半分以上が更地になり、そのむき出しの土の上には刈られた木枝がまとめられ、いくつもいくつも積み上げられていた。
その木枝には盛りの過ぎた薔薇の花が、まだ点々と残っている。変色して萎れた様子がなんだかとても悲しげだ。

私は思わず手を合わせた……合わせようとしたけどリボンくんと手を繋いでいるので、片手で『ごめんよ』のポーズになった。

薔薇の精霊たち。これからそこは芋畑になるの。芋の精霊を悪く思わないでね。迷わず成仏してください。

そんな私の姿を見たリボンくんは、繋いでいる手をキュッと少しだけ強く握ってくれた。

「子供の頃に聞いたことがあります。植物や小さな生き物は、人の少しの想いだけで全てを受け入れてくれるのだと……姫さまのお気持ちも届いているはずですよ」

「……そうかな」

「ええ、きっと」

そう言って、リボンくんは先ほどとは違う極上の微笑みを私にくれた。




進む中道の先には、横に長い二階建ての豪邸がある。

屋根にも窓があるから、屋根裏を入れたら三階建てなのかな?

──…屋根裏か。ワクワクする響きだね。冒険の予感ふたたび!

いや、その前に外観を堪能しよう。


全相的に白っぽい洋館風で、ベージュ色の石と彫刻入りの漆喰を基本としたスタイリッシュな豪邸である。

──…ふぉぉ、憧れのアーチ窓だ!

細い白格子がお洒落だ。ロココ風の飾りがついた窓枠も素敵だ。
私の乙女心にズキュンときた。
王城や王宮は厳ついゴシック風でイマイチ可愛さが足りなかったのだ。

1階向かって左にはこれまた憧れの広いテラス。
右側には東屋があって見通せないけど、奥まで部屋が続いているはず。
中心の玄関はガラスとアイアンで出来ている両開き扉で『お帰りなさいませ』とセバスチャンが迎えてくれそうな雰囲気だ。
きっと扉を開けたその先には吹き抜けの玄関ホールがあって、ロマンチックな曲線階段から降りてくるドレス姿の貴婦人が……っと、今、妄想はやめておこう。

「こちらは先々代の王太后さまが過ごされた宮でございます。姫さまの曾祖母さまにあたる方ですね。建てられてからまだ40年ほどですから、新しくてきれいですね」

リボンくんの感覚では、40年前の建物は新しいのか。

でも離宮を見たら、王城周辺が古ぼけて思えてくるのもまた事実。
歴史があると言えば聞こえはいいが、蔦が這ってもっさりしていたり、苔が生えてたりしていて外観がいまいちなのだ。内装はそんなことないんだけどね。

「おうじょうは、いつ、できたの?」

「763年と3ヶ月前…(細かいね)…ティストーム建国の年に建設が始まりました。王城は完成に8年ほどかかったと言われておりますね。長い歴史がありますから、伝説や不思議な話もたくさんあるそうですよ」

へぇ、伝説かぁ。

「………」

──…伝説。

乙女ゲームのプロローグが伝説になってたらやだなぁ。



《秘密の国の秘密の恋》のプロローグは──…

激しい戦闘のアニメーションが流れて、
『西大陸を蹂躙していた魔王との戦いは終わった』…と、文字語りが始まる。

戦士たちはそれぞれの故郷に帰っていったとかなんとか。故郷を失った者たちが集って建国されたのが『ティストーム王国』なのだとかなんとか。

……ほにゃららと続いて、盛り上がる音楽と共にティストームの若き初代王(当然イケメン)の憂い顔が、画面にクローズアップされる。
共に戦い、支えあってきた愛する聖女の命が尽きようとしているのだ。

『泣かないで……私たちは、きっと、きっとまた…出会うことができるから……』

聖女は予言めいた言葉を震える唇にのせた。

そして儚く微笑み、恋人の頬を伝う涙を細い指でたどると……ぱたりと手が落ちるお馴染みのアレをして、お亡くなりあそばした。
なぜ死んでしまったのかは……覚えていない。

そんな恋人同士の悲しい別れのシーンが緩やかにフェードアウトし、タイトルが、タイトルが……あぁ、そういえばサブタイトルが『~聖女の帰還~』だったよ……つまらないことを思い出してしまった。


そして転生した聖女が再びティストームの地を踏むシーンが、ゲームスタート。


攻略対象の王子たちは『ティストーム初代王の子孫』である。
───初代王妃は聖女ではありません。

初代王の魂は『子孫たちに受け継がれている』とされている。
───どんだけ小分けされた魂なの?

ティストーム王家の男子は『全員聖女の恋人候補』である。
───女子は?

逆ハーレムありきの、とんでも設定である。
───…そうだね。


ねぇ、ヒロインちゃん。
何かを待っている素振りの王子はうちにはいませんよ。
自分が聖女だったと思うのは勘違いですよ。
大人しく出生国で人生を全うしてくださいね。


あ~、本当だったら入国制限とか予防策を立てておきたい。
だけどヒロインの情報が少なすぎて困っている。

まずヒロインの出身国の設定がない。
名前も任意でつけられるシステムだったから事前に探しようもない。
わかるのは『ピンク頭の美少女』ということだけ。


──…ピンクの髪……ありえるのだろうか。


なんにせよ、ヒロインがティストームに来るのは……え~と、ベール兄さまが年下ポジションだから、恋が芽生えそうな12~13歳になってからよね……最短で5~6年先というところか。
うん、まだ時間はある。お父さまに相談して、なにかしらの準備はしておこう。






「来たな、シュシューア」

──…はっ、アルベール兄さま? 私、トリップしてた?

「水場は裏だ。こちらから行った方が早い」

そう言うとクルリと背を向けて建物の脇に消えていった。
今日もせかせか……いえ、忙しそうですね。


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