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1章 幼少期編 I

6.プリンアラモードの試食会

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厨房部隊の創意工夫により、生クリームと果物で飾られたプリンアラモードが完成した。

仕上がりを見せられた私は、生クリーム絞り器の存在を伝え忘れていた事に気付いたけれど、それにもかかわらず素敵にふわんと盛られていたのには感服いたしました。さすがプロですね。

そして、この完成品を見て食べたアルベール兄さまは『売れる』と太鼓判を押し《アルベール商会》のレストランで販売することを決めたそうです。

そう……なんとアルベール兄さまは自分の商会を持っていたのです。
商会名の通り、会長はアルベール兄さまです。

ベール兄さまが言っていた『プリンを売り出す』というのはそういうことだったのですね。



☆……☆……☆……☆……☆



即断即決……わずか3日後。

プリンアラモードの特許申請のための試食会が、王城で行われることになった。

参加しているのはアルベール兄さまを筆頭に───
王城に初めて来たと浮足立っている、商業ギルドの職員3名。
無言のゼルドラ魔導士長。
会議室に入る前にちょこっと紹介されたメガネ青年、アルベール商会のミネバ副会長(23)
そして私たちアルベール王子の弟妹3名だ。

通常の試食は販売する食堂や商会の建物で行われるそうだが、今回は幼い王女(私だ)が参加するということで王城の会議室が用意された。
時間貸しである。賃料は商会持ちである。
王子でも有料なのがびっくりだ。

ちなみに「王城」は今日の様に対外的に使われる建物で、私たち王族が生活している区画は「王宮」という別の建物である。

私とベール兄さまはつまらなそうな集まりには出たくないとごねたのだけど、ルベール兄さまの『プリンアラモードが食べられるよ~』のひとことで今ここにいる。王族だって甘いものは簡単には食べられない世の中なのだ……ん? シブメンと目が合った。シブメンがなぜここにいるのかは、知らない。


全員着席する中、アルベール兄さまが静かに立ち上がり、ギルド職員に向かって礼をする。

来てくれてありがとう的な社交辞令をすらすら述べるアルベール兄さまは本当に15歳でしょうか。凄く堂々としていて格好いい。
これは商会の会長職はお飾りじゃなさげですね。自分で起業した?

「さて、皆さんの前に置かれている新菓子は、プリン・生クリーム・果物を盛り合わせた『商品名:プリンアラモード』であります。今後の組み合わせは多様になると思われますので、あえてプリンアラモードではなく『プリンの製法』と『生クリームの製法』を分けて特許登録の申請を行います。黄色いものがプリン、白いものが生クリーム。まずプリンを最初に、次に生クリーム、そして二つを合わせてご賞味ください」

全員の顔を見つつ述べ終わると、椅子に座りなおしたアルベール兄さまは胸に左手を当てて目を閉じる。
この世界の ”いただきます” を行うためだ。

「万物に感謝を」

音頭を取った者に続き私たちも胸に手を当て、しばし黙とうする。

「では、いただきましょう」

さぁ食べましょう!
ぱくっ、むふーっ、美味しぃぃ~!

最初に作った時よりも格段に滑らかになってるね。も入っていないきれいな断面だし……私その方法知らないや。生クリームもクルクルしてて可愛いよ。凄いね厨房部隊。


……さて、他の人の評価のほどはどうかな?


ぐるっと面々を見渡すと、一番気になる商業ギルド職員は『なるほど!』『納得!』『大満足!』と、表情がみるみる変わっていく様子が見られた。うんうん。

ミネバ副会長の方は事前に何も知らされていなかったのか『これはっ!』って顔でアルベール兄さまを睨んだら、謎の黒い微笑みを返されていた。

シブメンはシブ顔のままだが、舌鼓を打っているのを私は知っている……ってか、みんな知っている。


「なぁ、シュシュ。次はシプードでなにか作らないか? これ凍らせたやつ、俺好きなんだよ」

プリンアラモードの皿に乗っているシプードはグレープフルーツのような味の柑橘で、ベール兄さまの大好物である。

「れいぞうこに、いれたら、こおるの?」
「氷の上に置けばカチコチだ」
「カチコチは、たべにくい~」
「じゃぁ、カチコチを料理長に砕いてもらって」

おっ? はちみつレモン風のシャーベットはどうだろう。

「ベールにいさま。ちいさいむしの、きんいろの、とろ~り、あま~い……」

蜂蜜ヌーロか?」

あったーっ! 蜂蜜はヌーロというのね!

「きヤギのちちも、こおらせて~、りょうりちょうに、くだいてもらって~、はちみつをたらぁ~り」

「あ~、いいな。混ぜたら旨そ~」

はちみつレモン風味のミルクシャーベット。じゅるり。

「プリンを凍らせても美味しいんじゃないかな?」

ルベール兄さまも参戦。

「りょうりちょうに、くだいてもらって~、はちみつをたらぁ~り」
「そこは生クリームにしよう」
「なまクリームをたらぁ~り」

アイスクリームもいいなぁ。


「ごらんの通り遊びで作る菓子ですが、弟妹が『こういうものが食べたい』という我儘が形になると、このようにプリンや生クリームが出来上がることもあります。あるかどうかわからない次回も含め、引き続きアルベール商会から販売しますので、くれぐれも弟妹とは交渉などしないようお願いします」

続けて『今しがたの会話の口外も控えていただくと助かります』と言ったアルベール兄さまの笑顔がまた黒くなった。

そんな凄まなくても……凍らせたものを混ぜるだけよ。

「……最後に、これまでアルベール商会の出資は、我が父上と、商会の副会長であるミネバが行っておりましたが、本日よりゼルドラ・カルシーニ伯爵が加わることになりました。商業ギルドには誠意を示して、先行しての報告と致します」

…………へぇ。

商会のバックにお父さまがいたんだ~とか、ミネバ副会長って若いのにお金持ってるんだ~とか、シブメンって貴族だったんだ~とか、投資関係はギルドに報告する義務がないのか~とか、いろいろな『へぇ』……でした。

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