8 / 186
1章 幼少期編 I
5.プリンの進化
しおりを挟む───あの後、私は泣き疲れて眠ってしまったようだ。
ベール兄さまがどうしても私から離れなくて、両親の寝台で4人一緒に寝たみたいなんだけど、そのまま起こされずに朝まで寝てしまったものだから、やってしまった……うぅ、盛大におねしょをしてしまったのだ。トホホ。
寝台の中で一番被害を受けたのは、可哀想にベール兄さまだった。
寝巻の肩のところがぐっしょり濡れていて、少し臭い(私のオシッコだけど)どんな寝相だったんだか……いや、申し訳ないっす。
……で、子供二人はお風呂へ直行となった。
お湯をちゃぷちゃぷしながらベール兄さまが言うことには、アルベール兄さまの執務室にいた面々は、訳のわからない私の嘆きにしんみりしちゃったそうだ。
そこでお父さまは初めて家族に打ち明けたのだった。
『シュシューアには前世の記憶がある』と……
だけどその場に居合わせてしまった料理長の号泣がすごくて、逆に冷静になれてよかったと言っていた。
『前世の記憶があるのに、なぜ人形遊びばかりしている馬鹿な子供のままなのか』
アルベール兄さまの疑問は全員が思うところではあったようだけど……失礼ね。
だけど自分でもそう思う……人形遊びの何が楽しいのか。
楽しいのだ……落ち葉を集めて、石を並べて、意味のない穴を掘る……くだらない遊びが訳もなく楽しいのだ。
『記憶は大人、頭脳は子供』……あれ? アニメと違うな。
『新しい命で、新しい人生を始めているのだ。そこに《記録の書》を持ち込んだだけの子供だと思おうではないか』…というお父さまの言葉に、取り敢えずみんな納得してくれたそうだ。
〈前世の記憶〉=〈記録〉
上手いこと言うね、お父さま。
おかげで《記録の書》から引っ張り出してきたプリンをスムーズに受け入れてもらえたみたい。
美味しいと褒めてもらえたようだしね。
でも、同情票もあったのではなかろうか……と少し疑っている。同情されているうちに次を急がなくちゃ……という心の声は内緒です。
続いては、お父さまが呼び寄せた”ゼルドラ魔導士長”が登場したそうな。
「今際の際の記憶が戻ったら、そういうこともあるでしょう。父親を頼って泣いたなら大丈夫です。そういうものです───で、新しい菓子の件ですが……」
無事にプリンに食いついたはいいが、彼は空気を読まない男だった。
───以上、ちい兄レポートでした。
☆……☆……☆……☆……☆
「シュシュ! 次はプリンアラモードだろ? 早く作ろうぜ!」
泣いた私はすっきりしたし、前世の孤独の記憶は封印することにした。今の私はめちゃくちゃ愛されていることを知っているから。
そういうのはベール兄さまにもわかるようで、今はまったく気を遣われていない。
私たちは前より仲良くなったし、家族の絆も深まった。
「とっても、おいしいしの、れす! いっぱい、つくって、もらいましょう!」
お菓子の名前は伝えたままのプリンに決まった。
プリンの進化系の話をしたら、お父さまからまた厨房使用許可をもらえた。
これはもうスイーツテロですよね!
───そうは言っても準備が必要なのだ。
お菓子作りで大切なのは『分量と時間を正確に』である。
そこで重さをはかる天秤、線を入れた計量カップ、タイマーとなる火時計を用意してもらった。
火時計は目盛りの付いた台にろうそくを立てて減りかたで時間を計るものだ。砂時計もあるらしいが、高価な装飾品で厨房に置くようなものではないと言われた。
……………………………………………………
【プリン本体】
前回はカップのまま食べたけど、プリンアラモードにするには型から出す必要がある。
プリン型の内側に前もって油を塗っておくと、ポンと型から出やすくなるコツなど、ひと手間を加えたプリンの作り方を料理長に伝えた。
カラメルソースは、水と砂糖を弱火でゆっくりと焦がさないようにね。
後は試行錯誤……してもらうほどの砂糖の余裕はないけど、ガンバレ厨房部隊!
……………………………………………………
……………………………………………………
【生クリーム】
厨房の外の小屋にいる黄ヤギの乳を使います。
残念なことですが『牛』がいないのですよ。
でも、この黄ヤギの乳を飲んでも違和感がないので牛乳と同じ扱いにします。
(ヤギの種類は他に、黒ヤギ、茶ヤギがいます。どちらの乳も癖があるので珍味に使われているそうです)
その黄ヤギの乳を殺菌のために火にかけて、しばらく放置します。
分離した脂肪の多い部分をクリームとして使うのですが、自然分離には物凄く時間がかかるので、そのうち手動の遠心分離機を作ってもらおうと思っています。
分離した脂肪乳は冷蔵庫で冷やして、すり鉢で細かくしておいた砂糖を加えます。
そして角が立つまで泡立てます。泡立てます。泡立てます。
とりあえず今回は木板を細かく裂いたものを代用してもらったけど……辛そうでしたねぇ。
……………………………………………………
泡だて器は今後のお菓子作りにも必要になってくるので絶対に作ってもらいます。
───で、構造を料理長に説明しつつ話を広げていくと、どうやら針金というものは装飾品に使われる物のようです。板状にした金属から丁寧に1本1本削り出すのだとか。裁縫用の針なども、その後に加工するらしいけど……
ふっ……
ふふふ、ふははは、あーっはっはっはーっ!
私は長~い針金の作り方を知っている!
熱して、槌で打ち、延ばして、棒状にして、線状にして、鉄板の小さい穴に通して、ロールに巻き取りながら伸ばーーーすっ! はぁはぁはぁ……
図解するよ!
「ベールにいさま、かくもの、くらさい!」
木板を出された。こっちの黒い棒は、木炭?
「かみとペンが、ほしいのれす。どうぐの、ずめんを、かくの、れす」
「……う~ん、どうしても必要か? 羊皮紙は砂糖よりも高いんだぞ」
羊皮紙?
植物紙がない?
そこからなの?
今後のレシピ欄は↓
…………………………
…………………………
↑の点ラインで挟みます。
読み飛ばしても問題ありません。
─────────────────
今話よりシュシューアのセリフが、
訳なしの”ひらがな表示”になりました。
31話から漢字を混ぜ込みますので、
暫くお付き合いくださいませ。
─────────────────
283
お気に入りに追加
1,828
あなたにおすすめの小説
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる