5 / 184
1章 幼少期編 I
2.乙女ゲームの世界
しおりを挟む波打つ金髪は艶やかに輝き、紫の瞳は宝石のように煌めく。透けるような白い肌は柔らかく潤い、瑞々しい唇が弧を描くと……しなやかな指先は……細くくびれた腰は……母の美しさを謳う賛辞は数知れず。
ただ、私の耳に届くのは父の惚気がほとんどである。
そんな母の美貌を受け継いで『人生勝ち組!』とか浮かれている、転生者のシュシューアです。
まだ3歳なので腰はくびれていません。
☆……☆……☆……☆……☆
『異世界に行っても困らないように知識を蓄えておこう!』
……などと、ネットで検索しまくっていた覚えがある。
きっかけは社員旅行で行った北海道の雪乳工場見学だ。
”昔は生クリームをこうやって作っていた”…という道具を紹介されたら『この知識は役に立つ!』などと恥ずかしい確信を抱いちゃったわけだ。
役に立てようと思っている。
今まさに、その時が来た!
「いしぇかいの、おかちを、ちゅくる、たいの、れしゅ。プインゆーの。にゃまクリームをのしぇるして、とってもおいちーの。だかりゃ、おしゃとう、ちょうらい」
……【訳】プリンアラモードを作りたいので、お砂糖を買って下さい。
『娘は前世の記憶持ちである』と、お父さまが唯一相談した男が目の前にいる。
黒髪と黒いローブ姿の大人の男だ(推定年齢35歳)
魔導士だと紹介されたけど……まぁ、それはどうでもいい。
今は砂糖が重要だ。
「おしゃとうが、ほしいの」
執務机で書きものをしていて、こちらを見ようともしない。
「ねぇ、おしゃとう、ちょうらい」
魔導士は深く眉間にしわを寄せたが、ようやく顔を上げてくれた。
さぁ『そうでしゅか~』と、可愛い姫にメロるのだ!
「……そうですか」
きたきたーーーっ!
「お父上にお願いしてはいかかですかな?」
「おしゃとうは、たかいかりゃ、おままごとに、ちゅうかう、しちゃダメって、ゆーの。れもね……」
「お父上が正しい」
最後まで聞けい!!
首根っこつかまれて、カッカッカッ。キーッ。ポイッ。パタン。
「…………」
思考停止──再起動………はっ!
仮にも王女たる私にこの仕打ちですかーーーっ!?
「もうプインあげる、ない! みしぇびらかして、ほえじゅらかかしぇてやりゅんだかりゃ!(一部日本語)」
……【訳】出来上がったプリンアラモードを見て悔しがるがいいわ。おーっほっほっほっ!
……そんな平和な日々は昨日まででございました。
朝食の席で家族の顔を見ていたら、さらなる記憶に目覚めて、人生観が一変してしまったのでございます。
…………………………………
お父さま ロッド国王
お母さま トゥーラ王妃
お兄さまたち……
第一王子 アルベール(15)
第二王子 ルベール(13)
第三王子 ベール(7)
…………………………………
こっここここの名前は、まさか…………
乙女ゲーム 《 秘密の国の秘密の恋 》!?
兄さまたちって『攻略対象』じゃないのーーーっ!!
はっ! 私は?
…………名前さえ出てこないモブか。むぅ。
このゲームは大変後味の悪いハッピーエンドだった覚えがある。
ヒロインが選んだ王子が王太子になる……それはいい。
恋に破れた他の兄弟は傷心の旅に出る……まぁ、それもいい。
最後のナレーション『二度と帰ってくることはなかった』で、あっさり行方不明になってしまうのは如何なものか! 悲しすぎるではないの!
確か、兄弟仲が壊れないエンドは逆ハーレムしかなかったはず。
でもでもでも……逆ハーを迎えると、隠しキャラの第四王子と出会ってしまうのだ。
二年後に産まれる可愛い弟も、食われるの?
美形王子四兄弟、食い散らかし?
ねぇ、ヒロインちゃん。
私の兄弟たちに何してくれちゃうわけ? あ~ん?
悪役令嬢の役目、私がやっちゃってもいいのよ? いや、むしろやりたいんだけど?
いやいやいや、その前になんとか回避しなくちゃね。今できることはあるかな……え~と。
ぴん!…『弟の名前を変えちゃおう!』
まずは小さな一歩から。
「どうした、シュシューア。お父さまの顔に何かついているか?」
「おとうしゃま……おとーとのなまえ、ルーは、ダメれす。ティシュトームのおーじは、どんどん、ちゃりなくなりゅって、わらう、ちゃうの」
……【訳】私の弟に「ルー」と名付けるのはやめてくださいね『ティストームの王子は下に行くほど足りなくなる』と笑われるのは可哀そうですわ。
『ル』という音には『才能』や『特技』などの意味がある。
才能に付随する他の音がない名前に、密かに傷ついていた繊細なルー王子は──
ヒロインに癒されて恋に落ちちゃうのだ!
ゲームにそういうエピソードがあるのだ!
チョロいよ、ルーちゃん!
「手遅れだよ、シュシュ。僕はもう揶揄われているよ」
「ルベールにいしゃま」
「シュシュ~。俺が産まれた時にどうして言ってくれなかったんだよ~」
「むりいわないれ、ベールにいしゃま」
「この件に関しては、長男でよかったと素直に思えるな」
「アルベールにいしゃま」
「私は反対しましたよ」
「おかあしゃま」
「面白いと思ったのだがなぁ」
「父上~」← ベール
洒落で名前を付けられちゃたまりませんよね。
ルベール兄さまはまだしも、ベール兄さまは一生お父さまに愚痴っていいと思います。
「おとうしゃま。ベールにいしゃまは、かわいそうね。だかりゃ、おかしをちゅくって、いいこいいこ、すりゅの。おしゃとうと、たまごと、ミルクをくらしゃい。おままごとじゃ、ないのれしゅ。りょうりちょうに、ちゅくってもらうの。ベールにいしゃまの、らの。わたくちは、がまんする、しましゅ。ね?」
……【訳】ベール兄さまをお慰めするためにお菓子を作りたいと思います。砂糖、卵、ミルクを分けて下さい。
菓子作りとちぃ兄には、なんの因果関係もないことにお気づきだろうか……
作ってしまえばこっちの物なのだよ。ふふん。
「シュシュ、僕の分は作ってくれないの?」
「ルベールにいしゃまは『ル』が2コちゅいてるから、いいの」
「え~~~」
そこで大笑いしたお父さまから、なぜか砂糖使用のお許しがもらえたのだった。
やった! 厨房にレッツゴー! ベール兄さまも手伝ってくださいね。
「べふっ」
「………」
はしゃぎすぎて廊下で転んだ私を抱き起したのはベール兄さま。なぜ無言?
「なんで俺が……実験台? 生贄?」
ん? 何か聞こえた?
……………………………………………………………
シュシューアの『でちゅ言葉』は4話まで続きます。
暫くお付き合いくださいませ m(__)m
……………………………………………………………
265
お気に入りに追加
1,801
あなたにおすすめの小説
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
まさか転生?
花菱
ファンタジー
気付いたら異世界? しかも身体が?
一体どうなってるの…
あれ?でも……
滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。
初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……
令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜
三月べに
ファンタジー
令嬢に転生してよかった〜!!!
素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。
少女漫画や小説大好き人間だった前世。
転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。
そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが?
【連載再開しました! 二章 冒険編。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる