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第5章
248.白い小さな花束
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「驚きました。まさかあんなところでお会いできるなんて」
彼女に誘われるがまま、小さなカフェへと入っていた。席に着いた時、やっと我に返った私はどうして自分が彼女と一緒にいるのか理解できていなかった。
ただ、いつもの遠慮がちな彼女とは違い強引に連れられたような気がする。
記憶が曖昧であんまり自信ないけど。
笑顔で私にメニューを差し出す彼女の気迫に気圧される。
何も考えず適当に紅茶を選ぶと、同じものを彼女も頼んだ。
注文を取りに来た店員さんが去ったところで、何か話さなければと焦りが込み上げた。
目の前の彼女の持つ白百合の花束が自然と目に入る。
「その花、綺麗ね。自分用に買ったの?」
似合っていると言おうとした瞬間、遮られるように彼女が私に花束を差し出した。
「差し上げます」
「え? でも……」
突然目の前に迫った白百合にも、そして譲ると言ったセイラにも若干引きつつ距離を取ろうと体を後ろに引いた。しかし、すぐに背もたれにぶつかってしまう。
「私の部屋には、別の花がありますから」
じゃあなんで持ってたんだろう。
もしかして、貰ったとか?
確か小説で可愛いヒロインがおまけでお店の人に何かを貰う描写があったっけ。
それか彼女に気のある男性から貰ったとか、そういう感じの事?
でも、それならやっぱり受け取れない。
だって彼女にあげたくてあげたものなのだろうし。
「セイラ様に必要だと思ったから、その花は貴方の元に来たのでしょう? ならやっぱり、貴方が持っておくべきよ」
ぽかんとした表情のまま彼女は固まってしまった。
私、おかしなこと言っちゃったかな?
セイラは口をキュッと結ぶと睨みつけるように私を見つめた。
「エスティ様の理屈が正しいのであれば、この花は貴方の元へ来るべきだったものです」
「へ?」
潤んだ彼女の目じりには僅かに雫が溜まっている。
なんだかよくわからないけど、このままじゃ彼女を傷つけてしまう。
私の直感がそう告げたため、花束を受けるとことにした。
「あ、ありがとう。大事にするわね」
「はい」
途端に表情が綻び笑顔になった。
ホッとするものの、今の状況を考えてみるとやっぱりおかしい。
何で私、セイラと一緒にいるんだろう。
彼女を見るのに気が引けた私は、自然と視界が下に下がった。
俯くと受け取った白百合が視界に入る。
やっぱり綺麗。
花には興味がないから好きな花とかももちろん詳しくないけど、百合はなんとなく好きだった。確か母上が好きだったような気がする。だからかもしれない。
白百合を見つめていると、まるで花と目が合っているかのような感覚を覚える。
真っ白な花弁が本当に綺麗。
どうしてこんなに綺麗な物を彼女は私に渡したんだろう。
顔を少し上げ、チラリとセイラを見ると私に向かって微笑む彼女がいた。
「やっぱり貴方にはその花が似合いますね」
「え?」
小さく呟いた彼女の声は、なんとか聞こえるほど微かなものだった。
でもその言葉は酷く引っかかるもので、聞き逃せるようなものではなかった。
今、なんて言った?
やっぱりって、まるで前にも私が花をもったところを見たことがあるかのような……。
もしかして誰かと勘違いしているのかしら。
でも、私と勘違いする人物なんている?
どうにも腑に落ちないが、それを彼女に聞き出せるほどの関係性はもう私たちの間にはない。
もやもやとした居心地の悪さを感じながら、早く頼んだ紅茶が来てくれることを願っていた。
ふいに彼女が口を開ける。
「エスティ様は、どうしてあんなところにいたのですか?」
「べ、別に……。ただの観光よ」
「観光、ですか」
警戒しつつ答えると、なぜかセイラは寂しそうに頷いた。
やっぱり今日の彼女はおかしい。
1カ月ほど前の出来事とはいえ、散々いじめていた私に気軽にお茶に誘うのもこうして何もなかったかのように会話しているのも。
この状況自体が非常におかしいのだ。
彼女の意図をなんとか掴もうと、私も同じような質問を返す。
「セ――メドビン様こそ、どうしてあそこに?」
「……別に名前で呼んでくださって構いませんのに」
セイラは私を試すように、妖艶に笑った。
ゾクリと、背中に悪寒が走る。
やっぱり、今日のセイラかなりおかしい。
あの可憐な彼女がこんな惑わすように笑うわけない。
あれ?
でも待って。
思い返すと以前、彼女はこんな風に不思議な気配を感じさせていた事が一度だけあった。
教室ではコンタクトを取ることは全くなくなってしまったため、普段の彼女が今と同じ雰囲気を纏っているのかはわからない。
しかし、最後に会話をした彼女は私の知っている彼女とは若干違っていた。
私が彼女をいじめている真犯人だと判明して少し経ったとき。
昼休みの時間にナタリーが私を訪ねてきたときだ。
あの時、ナタリーを迎えにきた彼女は今の彼女のように普段とは違った雰囲気を纏っていたと記憶している。
もしかして、これがセイラの素だとか言わないわよね。
いや、本当にそうかもしれない。
ただ私の知っている彼女も今目の前にいる彼女も、どちらも本物なのではないかと思えて仕方なかった。
彼女に誘われるがまま、小さなカフェへと入っていた。席に着いた時、やっと我に返った私はどうして自分が彼女と一緒にいるのか理解できていなかった。
ただ、いつもの遠慮がちな彼女とは違い強引に連れられたような気がする。
記憶が曖昧であんまり自信ないけど。
笑顔で私にメニューを差し出す彼女の気迫に気圧される。
何も考えず適当に紅茶を選ぶと、同じものを彼女も頼んだ。
注文を取りに来た店員さんが去ったところで、何か話さなければと焦りが込み上げた。
目の前の彼女の持つ白百合の花束が自然と目に入る。
「その花、綺麗ね。自分用に買ったの?」
似合っていると言おうとした瞬間、遮られるように彼女が私に花束を差し出した。
「差し上げます」
「え? でも……」
突然目の前に迫った白百合にも、そして譲ると言ったセイラにも若干引きつつ距離を取ろうと体を後ろに引いた。しかし、すぐに背もたれにぶつかってしまう。
「私の部屋には、別の花がありますから」
じゃあなんで持ってたんだろう。
もしかして、貰ったとか?
確か小説で可愛いヒロインがおまけでお店の人に何かを貰う描写があったっけ。
それか彼女に気のある男性から貰ったとか、そういう感じの事?
でも、それならやっぱり受け取れない。
だって彼女にあげたくてあげたものなのだろうし。
「セイラ様に必要だと思ったから、その花は貴方の元に来たのでしょう? ならやっぱり、貴方が持っておくべきよ」
ぽかんとした表情のまま彼女は固まってしまった。
私、おかしなこと言っちゃったかな?
セイラは口をキュッと結ぶと睨みつけるように私を見つめた。
「エスティ様の理屈が正しいのであれば、この花は貴方の元へ来るべきだったものです」
「へ?」
潤んだ彼女の目じりには僅かに雫が溜まっている。
なんだかよくわからないけど、このままじゃ彼女を傷つけてしまう。
私の直感がそう告げたため、花束を受けるとことにした。
「あ、ありがとう。大事にするわね」
「はい」
途端に表情が綻び笑顔になった。
ホッとするものの、今の状況を考えてみるとやっぱりおかしい。
何で私、セイラと一緒にいるんだろう。
彼女を見るのに気が引けた私は、自然と視界が下に下がった。
俯くと受け取った白百合が視界に入る。
やっぱり綺麗。
花には興味がないから好きな花とかももちろん詳しくないけど、百合はなんとなく好きだった。確か母上が好きだったような気がする。だからかもしれない。
白百合を見つめていると、まるで花と目が合っているかのような感覚を覚える。
真っ白な花弁が本当に綺麗。
どうしてこんなに綺麗な物を彼女は私に渡したんだろう。
顔を少し上げ、チラリとセイラを見ると私に向かって微笑む彼女がいた。
「やっぱり貴方にはその花が似合いますね」
「え?」
小さく呟いた彼女の声は、なんとか聞こえるほど微かなものだった。
でもその言葉は酷く引っかかるもので、聞き逃せるようなものではなかった。
今、なんて言った?
やっぱりって、まるで前にも私が花をもったところを見たことがあるかのような……。
もしかして誰かと勘違いしているのかしら。
でも、私と勘違いする人物なんている?
どうにも腑に落ちないが、それを彼女に聞き出せるほどの関係性はもう私たちの間にはない。
もやもやとした居心地の悪さを感じながら、早く頼んだ紅茶が来てくれることを願っていた。
ふいに彼女が口を開ける。
「エスティ様は、どうしてあんなところにいたのですか?」
「べ、別に……。ただの観光よ」
「観光、ですか」
警戒しつつ答えると、なぜかセイラは寂しそうに頷いた。
やっぱり今日の彼女はおかしい。
1カ月ほど前の出来事とはいえ、散々いじめていた私に気軽にお茶に誘うのもこうして何もなかったかのように会話しているのも。
この状況自体が非常におかしいのだ。
彼女の意図をなんとか掴もうと、私も同じような質問を返す。
「セ――メドビン様こそ、どうしてあそこに?」
「……別に名前で呼んでくださって構いませんのに」
セイラは私を試すように、妖艶に笑った。
ゾクリと、背中に悪寒が走る。
やっぱり、今日のセイラかなりおかしい。
あの可憐な彼女がこんな惑わすように笑うわけない。
あれ?
でも待って。
思い返すと以前、彼女はこんな風に不思議な気配を感じさせていた事が一度だけあった。
教室ではコンタクトを取ることは全くなくなってしまったため、普段の彼女が今と同じ雰囲気を纏っているのかはわからない。
しかし、最後に会話をした彼女は私の知っている彼女とは若干違っていた。
私が彼女をいじめている真犯人だと判明して少し経ったとき。
昼休みの時間にナタリーが私を訪ねてきたときだ。
あの時、ナタリーを迎えにきた彼女は今の彼女のように普段とは違った雰囲気を纏っていたと記憶している。
もしかして、これがセイラの素だとか言わないわよね。
いや、本当にそうかもしれない。
ただ私の知っている彼女も今目の前にいる彼女も、どちらも本物なのではないかと思えて仕方なかった。
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