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第4章

207.運命の手紙

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昨夜書いた手紙を丁寧に鞄へ仕舞うと、学校へ向かう。

玄関に入るとカツカツという靴の音が厳粛な朝に響いていた。

セイラの靴箱を開けると、以前と変わらず暴言の嵐がそこにあった。

いつも前日の放課後に 嬢の靴箱にいじめの内容を指示したメモを置いていき、次の日彼女たちがそれを確認して実行するのが決まりとなっている。
しかし昨日はナタリーとの騒動もあり、その用意をしていなかったのだが。

何も指示が無くてもこんなことをするなんて、律儀というかなんというか。

それを片付けても良かったが、別段する必要もないかと思いそれらには触れず鞄から手紙を取り出す。

綺麗に封をした封筒を彼女の靴箱に入れると、パタンと靴箱の蓋を閉めた。

あとは今日私がどんな目に遭うかによって今後の運命が決まるだろう。

できれば、できるだけ大きな騒ぎなってくれると良いのだが。
そう願いを込めてしばらく彼女の靴箱を見つめた。

気が済むまでぼうっとした後、私は靴箱棚に背を向け歩き出す。

さて、この後どうしようか。

あの手紙を読んでセイラが普通でいられるはずはないし、ナタリーはきっとすぐ気づくだろう。
もしかしたら朝すぐにバレることはないのかもしれないが、そんなたらればの憶測に頼るわけにもいかない。

私としては昼休みに言及されるのが一番都合がよい。
野次馬もいっぱい集まってくれるだろうし。

となれば、昼休みになるまでどこかで時間を潰した方が良さそうだ。

言及する本人が居なければ始まることはないだろうしね。

と、その前に。

いつもは絶対に向かうはずのない場所へ足を進める。
私が詰め寄られる場面には、どうしてもヴァリタスの存在が必要だ。

なんて言ったって、そういう事は人伝に聞くよりも目で見たものの方が何倍も衝撃があるだろう。

それに加え、私の醜い姿を見せつけることができる。
何という一石二鳥か。

さてさてSクラスの靴箱は、っと。
自分のクラスの靴箱棚から移動し、お目当ての棚へと移動する。

そういえば、Sクラスの靴箱ってどんな感じなんだろう。
別段他のクラスとどれも違うもののはずなのに、置いてある場所が違うだけで少しだけ自分たちのものとは異なって見えるのはなぜなのだろうか。

Sクラスの靴箱棚へ行き、ヴァリタスの靴箱を探していると、すぐに見つかった。

皆同じように名前が書いてあるから、探すのにもう少し時間が掛かるかとも思ったのに。

べ、別にこれは彼が特別な人だからとかそういうんじゃないから!

絶対に違うから!

とはいえ、まさかヴァリタスの靴箱に手紙を入れる機会が訪れるとは。
そこへしゃがみ込むと、彼の靴箱を開け1枚のメモを入れる。

別に恋する乙女がラブレターを入れるわけじゃあるまいに、ロマンチックのロの字もないような行為だけれど少しだけドキドキした。

「エスティ?」

「ひっ!」

後ろから突然話しかけられ、可笑しな悲鳴と共に体が飛び上がった。

思いきり振り返るとそこには。

「ヴ、ヴァリタス様……」

靴箱の持ち主が立っていた。
まだ早い時間だから来ないものと思っていたのだが。

まさかいつもこんなに早く来ているのだろうか。

「私の靴箱に何か御用ですか?」

「へっ? あ! ええっと……」

そう問いかけられ、どう答えようか悩んだ。
だって今しがた用事は終わったところなのだもの……。

まぁでも丁度良く本人に会ったことだし、直接言ってもいいか。
さきほど入れたばかりのメモを手に取り懐に仕舞うとすくっと立ち上がった。
気を取り直すためコホンと咳払いを1つすると、改めて彼の方へ向き直る。

そして何もなかったかのように話しかけた。

「ええっと……。お昼休みにお話ししたいことがございまして。できれば私の教室に来てくださいませんか?」

「話……ですか。いつもの場所では駄目なのですか?」

「それは……」

どうしよう。
どういう理由なら納得するかしら。

でも、ここで言い詰まるのは不自然だし。
ええい、適当に言ってしまえ。

「折角ですから、たまには教室でお昼を取るのも良いものではないかと思ったのです。Sクラスの教室に私たちが押し掛けるのも迷惑かと思いまして……」

微笑んでは見たものの、顔に冷や汗が流れる。
結構苦しい言い訳だとは思うけど。

でも、彼なら聞き分けてくれるだろう。

まだ、私を好きな彼ならば。

「……、分かりました。では、お昼に伺いますね」

少し不自然な間があった。
何かを見透かすような彼の瞳が私を射抜く。

まるで疑われているような視線に、身じろぎした。

しかしそんな不穏な空気も束の間、いつものように彼は微笑んだ。

それはいつもの微笑みのはずなのに。
どこか表面だけしか笑っているように思えて仕方なかった。

「ではヴァリタス様、お昼にまた」

「はい、また後で」

そう言って、お互いを見送る姿はまるで理想の婚約者たちに見えたかもしれない。

でも、私にとって彼はもうすぐ他人になる人。

そう思うと、今この瞬間も少しだけ名残惜しいような。
愛おしいような。

そんな風に思った。
まさか、こんなに彼に惹かれる日が来るとは。

きっと彼の前世を知ったときの私からは想像もできないことだった。
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