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第4章

184.黒魔術

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食堂へと足を運ぶと、昼時だというのに人がまばらだった。

それもそのはず。
今日は始業式のみで午後の授業などない。
終わり次第早々に帰宅する生徒がほとんどである。

空いている席の中でも、一目に付かなそうな席を選び彼が座った後、私も向かい合うように座った。

「それで? 話というのはどういったことでしょう?」

座るや否や早速本題に入り出す。
彼女以外の女性に興味がないのは知っているが、相変わらず仲の良い私には敵意を向けてくるから面倒だ。

おちおち世間話もしてられない。
仕方がないので、相手に合わせて話を進めることにした。

「エスティ様の事について、殿下にお聞きしたいことがありまして」

「聞きたいこと?」

どうしてこうも回りくどく聞いてくるのだろう。
先ほどまでの直球さはどこへいったのか、まるで察しの悪いふりをしているのがますます気に食わない。
だから彼と話しをするのを避けていたのに。

しかし、このまま彼女への疑念を放っておくわけにもいかない。
もし、何か起きてからじゃ遅いのだ。

「実は、エスティ様について気になることがあるのです。特に、彼女の前世について」

驚くと思っていた。
前世の話を彼としたことはなかったから。
しかし、彼はどこかどうでも良さそうに窓の外の方を見ている。

おそらくエスティでも見ているのだろう。

やっぱり、彼女以外に興味はないのか。
私が彼女の事を言っているのに。

「エスティ様の前世については以前から疑っていました。しかし、彼女が話さない以上、言及するのもどうかと思い聞かずにいたのですが」

「それを放っておけない事態になった、と?」

「ええ」

なんだろう。
いつも、彼は私に全く興味なさげではあるけれどここまで無碍にはしない。

それに、私の話に興味がないというよりも、どこかぼうっとしていて、心ここにあらずといったような印象を受ける。

もしかして、何かあったとか?
エスティに関することよりも、重要なことが。

でも彼にとって彼女以外にそんな重要なことあるのかしら。

「……知っていたのですね。エスティが前世を偽っていたこと」

「はい」

やはり、彼も気づいていたのか。
まぁ、私よりも頭が良く長い付き合いの彼が気づかないわけないか。

「彼女の前世については、あまり話題にしないでください。
休みの間にエスティの兄上に会う機会がありまして。そこではっきりと、前世の事をあまり話さないようにと釘を刺されてしまいました」

は?
エスティの兄と会った?
しかも、話をしないようにと釘を刺されただって?

益々怪しい。

それは、まるで彼女の前世が疑わしいものだと言っているようなものじゃないか。

「殿下はそれで良いのですか? 彼女の本当の前世を知りたいとは思わないのですか?」

「確かに許嫁の事ですから、気にはなりします。しかし、それを彼女に聞き出すのも……」

この歯切れの悪さは、一体何を懸念してくるものなのだろう。
そんなに気になるなら、彼女に直接聞き出せばよい話のはずなのに。

彼の優柔不断な行動に、少しイライラしてしまう。

「一体、何を躊躇っているのですか?」

このままでは埒が明かないと、直球で聞き出す。
彼はどこか迷うように視線を泳がせたものの、観念したのか真意を口にした。

「彼女が傷つくと言われました。前世では相当辛い目にあっていて、生まれ変わった後でもそんな目に遭ってほしくはないのだと」

なるほど。
これなら、殿下でも容易に彼女から聞き出すことはできなくなる。
だって、彼は彼女を傷つけるのに、とても臆病なのだから。

でも、本当にそうなのだろうか。
エスティの兄から直接聞いたわけではないから、どういった意味でその言葉を口にしたのかはわからないが、前世の話を聞き出して傷つくような繊細な心をエスティは持ち合わせていただろうか。
本当は、彼女の前世を明かしたくない理由があるから、それを探られないために吐いた偽りなのではないだろうか。

彼女が前世を偽っていたのも、それ相応の理由からでは?

そう思えてならない。

「殿下、私思ったのですが。もしかして、それも全て嘘だという可能性はありませんか?」

「うそ? なぜ嘘だと思うのです? そんなもの吐く理由などなではないですか」

捲し立てる彼は、少し興奮している。
どこか切羽詰まっているような彼の様子をみると、さすがに心配になった。

「以前、私が拷問について調べているとお話ししたのを覚えていますか?」

「え、ええ。確かに」

「その延長で黒魔術についても調べたときがあったのですが、とある記述を見つけたのです。とても恐ろしいモノではあったのですが……」

そこで一呼吸おいて、彼の様子を伺う。
これは、今までの常識を覆してしまう途方もないもの。

それをいうかべきか、私もまだ迷っていた。

いや、それでも。
やはり、これは告げるべきだろう。

もしかしたら、この疑念が真実かもしれない。
その疑いの心が日々育ってしまっている。

今の私は、彼女の事を信じられる自信がないのだ。
だからこそ、誰かとこの疑念を打ち消したかった。

「どんな人間でも生き返ることができる方法があると、書かれていました」
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