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第4章

179.いじめ現場

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何をやっているのだろう、この不審者3人組は。
彼女らの装飾品や髪型を見て大体どこの令嬢かは把握できたが、信じたくない。

足を少し動かした瞬間、コトンと音がなってしまった。
瞬時にこちらへ顔を向ける3人。

うわっ、今の顔の動きまるで鳥みたい。

それまで中腰になっていた3人は、一瞬で令嬢らしい綺麗な立ち姿になるとなんでもなかったように挨拶をしてきた。

「あ、あら。これはこれはベルフェリト様ではございませんか。ごきげよう」

派手な赤毛をくるくるとドリルのように巻いて、さながら小説の中に出てくる悪役令嬢そのものの姿をした彼女。
マイリエス伯爵令嬢、ライリ様。
と、その取り巻きアペル・ドリエス伯爵令嬢とミクリ・ロイネル子爵令嬢。
2人ともこの国ではよくいる、ブラウンの瞳と髪の持ち主だ。

一見、取り巻き2人は大人しそうな見た目ではあるのだが、その実ライリ様と一緒にいると手に負えないほどの悪戯を仕掛けてくるで有名である。

まぁ、噂程度にしか知らないけれど。

そもそも他人とあまり関わってこなかった私でさえも、彼女たちの悪質さは耳に届いているのだ。
相当な問題児なのは目に見えている。

そしてその彼女たちが他人の靴箱を漁っているということは。

……いじめか。
それも、私のクラスの誰かが標的のようだ。

「ごきげんよう、マイリエス嬢、ドリエス嬢、ロイネル嬢」

3人に挨拶するため、わざわざ名指しで呼んだのだが名前を呼ぶたびにそれぞれがビクリと肩を震わせていた。

そんなにビクつくことなくない?
私、なんかした?

「ま、まさかベルフェリト様に名前を呼ばれるなんて思ってもみませんでした」

取り巻きAであるアペルが2人に聞こえる程度の小さな声で呟く。

ああ、そういうこと。
確かに社交界で一度挨拶をしたけれど、それ以来接点なんて一度こなかったものね。
クラスが一緒になることもなかったし。

まぁそんなことはどうでもよくて。

あることを確かめるため、3人の方へ歩み寄る。
しかし、私がそちらに足を進めるごとに彼女たちは後ずさりして距離を取ってくる。

心なしか怯えた表情をしているのは、気のせいかしら。

まぁ、退いてくれるのは丁度良いわね。

3人が先ほどまで立っていた場所まで来ると、左へと顔を向けた。
そこはもちろん、彼女たちが先ほどまで漁っていた靴箱の場所だ。

「……やっぱり」

<セイラ・メドビン>

靴箱には、持ち主の名前が書かれている。
彼女たちの標的はセイラだった。

社交界に滅多に顔を出さない、内気で面白みのない令嬢だとしても私は公爵家の令嬢だ。
それに加えて第2王子の婚約者となれば他の令嬢と一線を画すのは当たり前のこと。

いくら裏でこそこそと馬鹿にしていたとしても、表立ってそれを出すようなことはない。
それに、手を出せば後でどんな制裁が自分に降りかかるか想像できない彼女たちではないのだ。

だからこそ、私は今まで彼女たちからいじめや悪戯などの被害は一切受けず、ただ遠巻きに見られていただけだった。

今まで私とヴァリタスの間に割って入れる令嬢など、この学院にはいなかったのだ。
しかし、そんな常識を覆してしまったのがセイラだった。

当然、ヴァリタスを密かに思っていた他の令嬢たちは面白くない。
そして、それを黙って見ているほど、我が国の令嬢たちは大人しいわけではなかった。

夏休みに入る前、ナタリーが言っていたのはおそらく彼女らが仕掛けたことだろう。

とはいえ、夏休み明けの新学期早々悪戯を仕掛けるとはさすがに行き過ぎているとは思うが。

靴箱の名前を確かめ、顔を上げた私は少し離れたところで3人固まって震えている彼女たちを見やった。
私が動くたび、一々ビクついているからなんだかおもしろいわね。

彼女たちがこんなにも私を恐れるのは、なにもセイラと仲が良いというだけが理由ではない。
いずれ、この国の社交界を牛耳る時期王妃、フィーネ様の義理の妹となる私に目を付けられるのは今後相当の痛手となる。

社交界で良い印象を持たれていないというのは、それだけで貴族の女性の役割の半分が失われてしまう可能性があるのだ。

なんせ情報共有が主な目的の社交界にとって、相手に良く思われていないというのはそれだけで痛手だ。
夫婦連れだって出席するのが当たり前の社交界では、いつも隣には妻がいる。
しかし、目的の情報収集が妻の所為で阻まれてしまっているとしたらどうだろう。

夫はその妻を大事にするだろうか。
答えは否だ。

それがつまらない憧れのために起こした行動の末の結果だとしたらどんな罰が与えられるか知れたものではないだろう。

しかも、私のような位の高い人物に目をつけられたとあっては。
もし結婚前だったら婚約破棄だってありえるし、夫婦となった後だとしても最悪捨てられる可能性だってある。

そんな目には彼女たちだって遭いたくはないのだろう。

だからこそ、彼女たちはあんなにも怯えているのだ。

え? そうよね?

ただ本当に私自身が怖くて怯えているのではないわよね?
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