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第4章
129.兄との雑談
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とはいえ、お兄様の言葉を聞くと少しだけ心配になる。
いくら留学先が遠いとはいえ、長期休みなのにも関わらず婚約者のいる母国に戻らないなんて。
もしかして、とよからぬ勘繰りをしてしまうのは仕方ないことではないかとも思う。
だが、当のお兄様とはいえば窓からくる風に髪を揺らしながら窓の外を眺めているのだからなんとも思っていないようだ。
「大丈夫なのですか。お姉さまに限ってそんなことはないのでしょうが、アプロ―チしてくる殿方がいないとも限らないでしょう?」
「なんだ? 何が言いたい?」
理解していないように聞き返すお兄様に心底呆れてしまう。
なんでこんなに余裕そうなんだろう。
普通遠くの地に婚約者がいるのなら、心配になるはずなのに。
それとも意外と冷めた関係なのかしら。
むむぅ、と唸っているとようやく私の質問の意図を把握したのだろう。
短く息を吐くと、どうでも良さそうな様子で私の質問に答えた。
「安心しろ。月に1度手紙のやり取りをしているし、彼女もそこまで変わった様子はないみたいだしな」
「はっ」
はぁ?!
なに阿保なこと言っているんだこの兄は⁉
手紙だけでやり取りしてるなんて、それだけで相手の事がなんでもわかるわけないのに。
そもそも何かあったら手紙でなんて書くわけないじゃない。
お兄様って女の人の心わかってなさそうだし。
「というか、手紙で月1のやり取りしかしていないなんて。魔法とかで連絡とればよろしいではないですか」
お兄様もお姉様も普通の貴族以上の魔法の使い手だ。
それならば手紙でやり取りなんかせず、魔法でどうにかできそうな気がするのに。
そんな私に飽きれるように、深いため息を吐いた。
「あのなエスティ。魔法にだってできることとできないことぐらいある。万能の力じゃないんだ。いくらお前が魔法を使えないからといって、いつまでも魔法に対して無知のままでいるのはどうかと思うぞ」
「うぐっ」
確かに、魔法学は学院での授業があるため一通り勉強はしているが、私に魔法の知識はあまりない。
そもそもそこまで魔法に対して魅力を感じていないのだ。
だって私、魔法使えないし。
使い道のないものに対して魅力を感じないのは当然のことだと思うけど。
「使える、使えないの問題じゃないからな。何事も知っていて損をすることはないってお前だってちゃんとわかっているだろ」
「え、ええ。まぁ、はい。そうですね」
心でも読まれていたんじゃないかと思うほど適格な指摘に言葉がでなくなる。
さすがは私のお兄様、妹の習性をよくわかっているようで。
「それに、お前の好きな歴史学なんて、それこそ使う機会のない代物じゃないか」
確かに、お兄様の言う通りである。
歴史学なんて政治に関わる男性であればまだ使い道があるのだろが、私たち女性にとっては使い道のないものだ。
でも好きなことに理由があるわけじゃない。
それに、私の歴史学が好きなのには前世の事が大きく関係しているのだと思う。
「歴史を見ていると、たくさんの方々に出逢えるのです。だから私は好きなんだと思います」
「たくさんの人?」
「ええ。いつだって歴史を動かすのは人ですから」
外に出ることが容易にできなかった私には、本を読むことで人と出会うしかなかった。
当時、物語なんてものは俗物的だという考えが今よりも根強かったために、読み物で人を感じるためには歴史の本を読むのが一番だったのだ。
いつ、誰が、どのような考えをもってその国を動かしたのか。
それを読み、当時の情景に思いを馳せるのは人と出逢うのと同時にその場所に連れて行ってくれるものだった。
「前世の時からそんなに知り合いがいませんでしたから。もしかしたら、本を読むことで誰かと出会うことができない寂しさを埋めていたのかもしれないですね」
少し、しみじみとした気持ちになりながらも心は凪いでいた。
前世の事を思い出してもこんなに穏やかな気持ちになるのは珍しい。
きっとこの列車に乗っているおかげだろう。
風が頬を撫でる。
涼し気な風が髪を揺らし、それが心地よかった。
「なぁ、エスティ。リヴェリオという人物は一体どんな人だったんだ?」
「え?」
お兄様は私の家族の中で唯一私を否定しないでいてくれる、貴重な存在だ。
しかし、それは私の前世を受け入れている、というわけではない。
ただ、恐ろしいものに触れないでいるだけというような感じであった。
そんなお兄様が、前世の事を聞いてくるのは初めての事で驚いてしまう。
「お前の話や行動を見ていると、父上から伝え聞いた話とは全く違う人間のように思えてならないんだ」
それは、昔の私とおそらく同じ感覚なのだと思う。
恐ろしい人物だと聞いて前世の自分に恐怖を抱いていた私が戸惑ったときと同じ。
もしかしたら、そこまで私に偏見を持たないお兄様ならミリアと同じように私の前世を受け入れてくれるかもしれない。
少躊躇いながらも、お兄様が向ける強い眼差しに圧倒され、私は思わず口を開いた。
そして口に出たものは遠い遠い昔の、私の前世の話だった。
いくら留学先が遠いとはいえ、長期休みなのにも関わらず婚約者のいる母国に戻らないなんて。
もしかして、とよからぬ勘繰りをしてしまうのは仕方ないことではないかとも思う。
だが、当のお兄様とはいえば窓からくる風に髪を揺らしながら窓の外を眺めているのだからなんとも思っていないようだ。
「大丈夫なのですか。お姉さまに限ってそんなことはないのでしょうが、アプロ―チしてくる殿方がいないとも限らないでしょう?」
「なんだ? 何が言いたい?」
理解していないように聞き返すお兄様に心底呆れてしまう。
なんでこんなに余裕そうなんだろう。
普通遠くの地に婚約者がいるのなら、心配になるはずなのに。
それとも意外と冷めた関係なのかしら。
むむぅ、と唸っているとようやく私の質問の意図を把握したのだろう。
短く息を吐くと、どうでも良さそうな様子で私の質問に答えた。
「安心しろ。月に1度手紙のやり取りをしているし、彼女もそこまで変わった様子はないみたいだしな」
「はっ」
はぁ?!
なに阿保なこと言っているんだこの兄は⁉
手紙だけでやり取りしてるなんて、それだけで相手の事がなんでもわかるわけないのに。
そもそも何かあったら手紙でなんて書くわけないじゃない。
お兄様って女の人の心わかってなさそうだし。
「というか、手紙で月1のやり取りしかしていないなんて。魔法とかで連絡とればよろしいではないですか」
お兄様もお姉様も普通の貴族以上の魔法の使い手だ。
それならば手紙でやり取りなんかせず、魔法でどうにかできそうな気がするのに。
そんな私に飽きれるように、深いため息を吐いた。
「あのなエスティ。魔法にだってできることとできないことぐらいある。万能の力じゃないんだ。いくらお前が魔法を使えないからといって、いつまでも魔法に対して無知のままでいるのはどうかと思うぞ」
「うぐっ」
確かに、魔法学は学院での授業があるため一通り勉強はしているが、私に魔法の知識はあまりない。
そもそもそこまで魔法に対して魅力を感じていないのだ。
だって私、魔法使えないし。
使い道のないものに対して魅力を感じないのは当然のことだと思うけど。
「使える、使えないの問題じゃないからな。何事も知っていて損をすることはないってお前だってちゃんとわかっているだろ」
「え、ええ。まぁ、はい。そうですね」
心でも読まれていたんじゃないかと思うほど適格な指摘に言葉がでなくなる。
さすがは私のお兄様、妹の習性をよくわかっているようで。
「それに、お前の好きな歴史学なんて、それこそ使う機会のない代物じゃないか」
確かに、お兄様の言う通りである。
歴史学なんて政治に関わる男性であればまだ使い道があるのだろが、私たち女性にとっては使い道のないものだ。
でも好きなことに理由があるわけじゃない。
それに、私の歴史学が好きなのには前世の事が大きく関係しているのだと思う。
「歴史を見ていると、たくさんの方々に出逢えるのです。だから私は好きなんだと思います」
「たくさんの人?」
「ええ。いつだって歴史を動かすのは人ですから」
外に出ることが容易にできなかった私には、本を読むことで人と出会うしかなかった。
当時、物語なんてものは俗物的だという考えが今よりも根強かったために、読み物で人を感じるためには歴史の本を読むのが一番だったのだ。
いつ、誰が、どのような考えをもってその国を動かしたのか。
それを読み、当時の情景に思いを馳せるのは人と出逢うのと同時にその場所に連れて行ってくれるものだった。
「前世の時からそんなに知り合いがいませんでしたから。もしかしたら、本を読むことで誰かと出会うことができない寂しさを埋めていたのかもしれないですね」
少し、しみじみとした気持ちになりながらも心は凪いでいた。
前世の事を思い出してもこんなに穏やかな気持ちになるのは珍しい。
きっとこの列車に乗っているおかげだろう。
風が頬を撫でる。
涼し気な風が髪を揺らし、それが心地よかった。
「なぁ、エスティ。リヴェリオという人物は一体どんな人だったんだ?」
「え?」
お兄様は私の家族の中で唯一私を否定しないでいてくれる、貴重な存在だ。
しかし、それは私の前世を受け入れている、というわけではない。
ただ、恐ろしいものに触れないでいるだけというような感じであった。
そんなお兄様が、前世の事を聞いてくるのは初めての事で驚いてしまう。
「お前の話や行動を見ていると、父上から伝え聞いた話とは全く違う人間のように思えてならないんだ」
それは、昔の私とおそらく同じ感覚なのだと思う。
恐ろしい人物だと聞いて前世の自分に恐怖を抱いていた私が戸惑ったときと同じ。
もしかしたら、そこまで私に偏見を持たないお兄様ならミリアと同じように私の前世を受け入れてくれるかもしれない。
少躊躇いながらも、お兄様が向ける強い眼差しに圧倒され、私は思わず口を開いた。
そして口に出たものは遠い遠い昔の、私の前世の話だった。
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