いつか灰になるまで

CazuSa

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一番大切だった人2

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「どうやって?」

縋るような目が夜尋を見つめる。

「俺の力を幾島さんに一時的に移す方法を行います。絶対に成功できるかは……保証できませんが。きっと兄ならあなたのために会いに来てくれるはずです」

悠灯の正面に立つと、目を閉じるように指示をする。

目を閉じたのを確認すると、悠灯の両手を自分の両手で手に取ると、夜尋も目を閉じた。

(千尋兄さん、お願い。幾島さんと会って、言葉だけでも聞いてあげて!)

そう強く願った。
準備は簡単だが、ここからが難しい。

相手の霊が応答してくれない限りは見せることも感じさせることもできないから。
でも夜尋は兄を信じていた。

あんなに悠灯を思っていたのなら、きっと現れてくれる。
それに、あんなに悲痛な思いをしている悠灯を放っておけるほど冷たい人間でないことを信じていたから。

兄を強く思いながら、呼びかけたものの、1分経っても、2分経っても兄は現れない。
これは先に兄を見つけ出した方が良いかもしれないと思い始めたときだった。

兄の気配が薄いベールがかかったようのにほんのりと感じた。
夜尋はゆっくりと目を開ける。

悠灯の後ろに、千尋が立っているのが見えた。
しかし、先ほど見た兄の形とは大きく異なっていた。

皮膚はただれ、現れた内部も焼けたように変色している。
顔はというと、もう誰かも認識できないほど皮膚が剥がれ落ちていた。

普通の人が見たらきっと悲鳴を上げて気絶する人が出てくるような程ひどい有様だった。
死んだままの姿で出てくる霊を時折見るような夜尋でさえも目をそむけたくなるような惨状。

(こんなにひどい姿でしか、この人の前に出てこれなかったのか)

きっと兄はこの姿を悠灯に見せたくなかったのだろう。
だから、ここまで時間が掛かったのかもしれない。

『ゆう、ひ』

兄から発せられた声は、なんとか聞き取れるほどのものだった。
喉が焼かれ、擦れ擦れになった声は、聞き取れるだけましなほどにも思える。

「千尋…!」

それでも、ちゃんと千尋の言葉は悠灯に届いていた。

(良かった、成功した)

泣き出しそうなほど感動している悠灯の様子に安堵した。

「目を開けちゃダメです!」

動揺する悠灯に静止を掛ける。
今ここで目を開けて、千尋の姿を認識してしまえばおそらく悠灯はさらに罪の意識を持ってしまうだろう。

それに、こんな姿を好きな人に見られたら、きっと千尋もショックを受けるに違いない。
こうこれ以上2人の関係がこじれるのは見たくなかった。

「目を閉じたままで、お願いします」

諭すように告げる夜尋の忠告に、悠灯は黙って頷いてくれた。

「千尋…俺、本当はずっと不安だったんだ。離れ離れになったらきっと千尋には俺よりもっと大切な人ができるだって。だからあの時、あんな突き放すようなこと言ったんだ。でも、いなくなって分かった。そんなに不安なら、もっと千尋と長く繋がっている未来を考えればよかったんだって。ずっと千尋が好きになってくれるように努力すべきだったんだって!だから……、だから」

泣きながら、それでも伝えた思いは悠灯がこの4年間で積み重ねた千尋への愛情だった。

『ありがとう…悠灯。ずっとずっと、俺のこと想っていてくれて……でもね悠灯、俺はもう死んだんだ。だから、俺に囚われないで。幸せになってほしい』

悠灯が大好きだから。
何かが兄の瞳から流れているように見える。
それはきっと、ボロボロととめどなく流れる悠灯のものと同じものなのだろう。

顔をくしゃくしゃにしながら、千尋の言葉を刻み込むように悠灯は何度も頷いた。

「千尋っ…。おれっ、俺もっ、千尋の事大好きだよ……。だから、だからっ……!」

その先を、どうしても悠灯は言えなかった。
嗚咽とうめき声にも似た声しか出てこない口を悠灯は呪った。

後ろから何かが、悠灯の頬を撫でる感触がした。
千尋の手が、悠灯の頬を愛しそうに撫でていた。

『悠灯、愛してる』

その声は、擦れてもいない、生前の兄と同じものだった。
優しく、囁きくようなその声には、兄が持っているすべての愛情が込められていた。

その言葉でもう駄目だった。
悠灯は膝から崩れ落ちると、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。

「あぁ、ああぁぁぁぁぁぁっ!あああぁぁぁぁぁっ、ああぁぁあぁぁぁぁぁっ!」

夜尋は泣き叫ぶ悠灯の体をきつく、きつく抱きしめた。
腕の中で泣く悠灯の体は細すぎて、今にも壊れそうな程に繊細だった。

見上げる兄の姿はもう、家で見た時と同じ、夜尋が知っている生前の姿に変わっていた。
不安そうに見つめる夜尋に優しく微笑む。

『夜尋、悠灯をお願い』

その声には、悠灯へ、そして夜尋への慈しみで溢れていた。

「うん、必ず」

その言葉に安心したのか、千尋はスゥと姿を消した。
もうそこには千尋の気配は無くなっていた。

改めて夜尋は、強く悠灯を抱きしめた。
いまだ泣き叫ぶ悠灯の思いが、どこかに消えてしまわないように。
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