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もう、戻れない。
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俺と能海は、玲に隠れて頻繁に会うようになった。玲も「試験の勉強」と言って帰ってこない日が多くなり、二人とも家を空けることもあった。
二人の時はお互いのことを想っているよう演じているが、裏では浮気相手の事ばかり考えている。そんな生活が続く。この数か月で、俺と玲の間には深い溝が出来上がってしまったように感じた。
俺と玲の関係は、既に修復不可能だった。
能海とのデートの日。今日は玲も勉強だと言って朝から出かけていた。彼女は輝樹と会っているのか、それとも本当に勉強しているのか。そんな事はもう、どうでも良い。
「……おはよう」
待ち合わせ場所のカフェで時間を潰していると、能海が向かいの席に座って挨拶してきた。もう何度もこうして会っているのに、恥ずかしさが抜けないようで、赤面している。
「おはよ、何か飲む?」
「飲まない。それより……今日、可愛い?」
前まではなかった前髪の触覚を指先でくるくると巻きながら、能海は期待のまなざしで俺を見る。髪の色も明るくなっていて、褒めてもらいたいのが前面に出ていた。
「イメチェンしたのか」
「……うん、頑張った」
能海はどう?と聞いて下を向く。恥ずかしさに耐えられなくなったらしい。
「可愛いと思うぞ。待ち合わせに遅刻してくるところ以外はな」
素直な感想を言うと、能海は複雑そうな顔をした。
「それ、褒めてるのか貶してるのか分からない」
「褒めてるよ。三十分も待たせておいて謝れない能海の神経をな」
「う……ごめん」
能海は、今度は落ち込んで下を向く。縮こまって両手の人差し指の先を合わせだしたので、流石にかわいそうだと思いフォローを入れた。
「冗談だよ。ちゃんと可愛いから、安心しな」
「ほんと?今の彼女とどっちが良い?」
能海は途端に息を吹き返して、調子に乗り始める。もう玲の事は好きだと感じなかったが、俺はからかうために能海に嘘を吐いた。
「……ギリギリ玲が可愛い」
「あ、そんなこと言っちゃうんだ。ひどいなぁ」
彼女もふざけて、俺の頭を小突く。
息の詰まるような玲との生活の中でこの時間だけが唯一、俺の心を癒すものだった。
だがそんな時間も、唐突に終わりを告げることになる。
能海と談笑していると、入店音が店内に響いて一組の男女が仲睦まじそうにカフェに入ってきた。二人とも、俺の見覚えのある顔だった。
彼女達は店員に、俺たちの横の席に促される。腕を組んでいた二人は驚いた様子の俺の顔を見ると、真っ青になった。
「……よ、よう」
笑みを引きつらせながら、輝樹は手を挙げて挨拶してくる。
「……何してんの?」
「いやぁ……何してんだろ」
輝樹はすぐさまその場から逃げようとするが、玲と腕を組んでいたためうまく走り出せず、二人とも転んでしまった。
「まあ、座れよ。話をしようぜ」
俺は能海の横に席を移動し、二人を向かいに座らせた。
二人の時はお互いのことを想っているよう演じているが、裏では浮気相手の事ばかり考えている。そんな生活が続く。この数か月で、俺と玲の間には深い溝が出来上がってしまったように感じた。
俺と玲の関係は、既に修復不可能だった。
能海とのデートの日。今日は玲も勉強だと言って朝から出かけていた。彼女は輝樹と会っているのか、それとも本当に勉強しているのか。そんな事はもう、どうでも良い。
「……おはよう」
待ち合わせ場所のカフェで時間を潰していると、能海が向かいの席に座って挨拶してきた。もう何度もこうして会っているのに、恥ずかしさが抜けないようで、赤面している。
「おはよ、何か飲む?」
「飲まない。それより……今日、可愛い?」
前まではなかった前髪の触覚を指先でくるくると巻きながら、能海は期待のまなざしで俺を見る。髪の色も明るくなっていて、褒めてもらいたいのが前面に出ていた。
「イメチェンしたのか」
「……うん、頑張った」
能海はどう?と聞いて下を向く。恥ずかしさに耐えられなくなったらしい。
「可愛いと思うぞ。待ち合わせに遅刻してくるところ以外はな」
素直な感想を言うと、能海は複雑そうな顔をした。
「それ、褒めてるのか貶してるのか分からない」
「褒めてるよ。三十分も待たせておいて謝れない能海の神経をな」
「う……ごめん」
能海は、今度は落ち込んで下を向く。縮こまって両手の人差し指の先を合わせだしたので、流石にかわいそうだと思いフォローを入れた。
「冗談だよ。ちゃんと可愛いから、安心しな」
「ほんと?今の彼女とどっちが良い?」
能海は途端に息を吹き返して、調子に乗り始める。もう玲の事は好きだと感じなかったが、俺はからかうために能海に嘘を吐いた。
「……ギリギリ玲が可愛い」
「あ、そんなこと言っちゃうんだ。ひどいなぁ」
彼女もふざけて、俺の頭を小突く。
息の詰まるような玲との生活の中でこの時間だけが唯一、俺の心を癒すものだった。
だがそんな時間も、唐突に終わりを告げることになる。
能海と談笑していると、入店音が店内に響いて一組の男女が仲睦まじそうにカフェに入ってきた。二人とも、俺の見覚えのある顔だった。
彼女達は店員に、俺たちの横の席に促される。腕を組んでいた二人は驚いた様子の俺の顔を見ると、真っ青になった。
「……よ、よう」
笑みを引きつらせながら、輝樹は手を挙げて挨拶してくる。
「……何してんの?」
「いやぁ……何してんだろ」
輝樹はすぐさまその場から逃げようとするが、玲と腕を組んでいたためうまく走り出せず、二人とも転んでしまった。
「まあ、座れよ。話をしようぜ」
俺は能海の横に席を移動し、二人を向かいに座らせた。
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