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勉強会(3)
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三十分ほど茉莉に勉強を教えただろうか。辺りはもう暗闇に包まれていた。
「もう外が暗いわね。今日はもうやめておく?」
「そうだな。じゃあ、俺は帰るとするか。さっき教えた所はきちんと復習しておけよ」
「分かってるわよ」
俺は、散らばっていた勉強道具を片付け始める。その横で茉莉は腰を上げ、見送りの準備を始めた。
「駅まで送って行きましょうか?」
「いや、大丈夫。一人で帰るよ」
「そう?じゃあ玄関先までね」
「はいよ」
二人で階段を降りながら、他愛もない話をするくらいには、仲が良くなったと思う。別に彼女に気があるわけではないが、嫌いだという訳でもないので、そこは素直に嬉しいと思うことにする。
「何ニヤニヤしてるのよ、気持ち悪い」
「別に普通だが?」
「ふーん。じゃ、気をつけて帰りなさいよ」
「言われなくても。また学校でな」
そう言いながらドアノブに手をかけ、ドアを開けた時だった。眼前に広がるのは、いつの間にか降り出していた豪雨だった。
「……」
「……」
今は梅雨の時期だった事を、すっかり忘れていた。
「あー……」
「ちょっと、これどうするのよ」
「これは……走って帰るしかないな」
勉強道具は濡れてしまうが、仕方ない。俺は覚悟を決める。
「ま、待ちなさいよ!風邪引くわよ!」
「でも、帰るしかなくないか?」
「泊めてあげるから、今帰るのはやめておきなさいよ」
「そんなわけにもいかないだろう?」
「でも、危ないわよ」
恋人でもない年頃の男女だ。そんな二人が一つ屋根の下で一晩過ごすなんて、何か間違いが起きてもおかしくない。
「とにかく!危ないから今帰るのはダメよ!もうすぐママが帰ってくるから、車で送ってもらいましょう」
「……分かった」
特に急ぎの用事もないし、幸いにも明日は土曜日だ。俺は茉莉の提案を受け入れることにした。
「じゃあ、勉強の続きでもしましょうか」
そう言って、彼女は上機嫌で二階へと上がっていった。嫌いな男と一緒にいる時間が長引くのに、なぜ嬉しそうなのか。俺にはよく分からない心情だ。
「はぁ……」
俺は、頭を抱えながら階段を上がった。
茉莉の母親が帰ってきたのは、午後八時になろうかという時間だった。
「まつりちゃんただいまぁ。外がひどい雨でね、遅くなってごめんねぇ。……あら、来客かしら?」
二階にいても聞こえるような大きな声が、玄関に響いた。
「ママが帰ってきたわね。一度下におりましょうか」
「そうだな」
部屋を出ようとするより、彼女の母親が部屋に入ってくる方が早かった。
「まつりちゃぁん、友達が来てるのー?あら、男の子じゃない。彼氏?初めまして。まつりちゃんのママの史乃って言いますぅ。よろしくね?」
部屋に入り俺の存在を認識したかと思えば、次の瞬間には流れるようなマシンガントークを繰り出してきた。
「は、初めまして。友人の島崎純です。彼氏ではありませんが、よろしくお願いします」
戸惑いながらも挨拶を返すと、史乃さんは微笑みながら俺の肩を掴んだ。
「友人だなんてそんな、隠さなくてもいいのよ。まつりちゃんをよろしくね?」
割と真剣な口調でそんなことを言うものだから、茉莉は耐えられなくなって間に割って入った。
「ちょっとママ!こいつは本当にただの友達だから!勉強を教えてもらってただけよ!」
「あら、そうなの?つまんないの」
口を尖らせる史乃さんの横で、顔を赤くした茉莉が恥ずかしそうにしている。
「つまらなくないわよ!雨で帰れなくなっただけ!送ってあげて!」
「えぇでも……。この雨だし、もう遅いし。明日休みなんだから、泊まって貰えばいいじゃない?」
「「……は?」」
彼女の何気ない一言で、俺は茉莉の家に泊まることになってしまった。
「もう外が暗いわね。今日はもうやめておく?」
「そうだな。じゃあ、俺は帰るとするか。さっき教えた所はきちんと復習しておけよ」
「分かってるわよ」
俺は、散らばっていた勉強道具を片付け始める。その横で茉莉は腰を上げ、見送りの準備を始めた。
「駅まで送って行きましょうか?」
「いや、大丈夫。一人で帰るよ」
「そう?じゃあ玄関先までね」
「はいよ」
二人で階段を降りながら、他愛もない話をするくらいには、仲が良くなったと思う。別に彼女に気があるわけではないが、嫌いだという訳でもないので、そこは素直に嬉しいと思うことにする。
「何ニヤニヤしてるのよ、気持ち悪い」
「別に普通だが?」
「ふーん。じゃ、気をつけて帰りなさいよ」
「言われなくても。また学校でな」
そう言いながらドアノブに手をかけ、ドアを開けた時だった。眼前に広がるのは、いつの間にか降り出していた豪雨だった。
「……」
「……」
今は梅雨の時期だった事を、すっかり忘れていた。
「あー……」
「ちょっと、これどうするのよ」
「これは……走って帰るしかないな」
勉強道具は濡れてしまうが、仕方ない。俺は覚悟を決める。
「ま、待ちなさいよ!風邪引くわよ!」
「でも、帰るしかなくないか?」
「泊めてあげるから、今帰るのはやめておきなさいよ」
「そんなわけにもいかないだろう?」
「でも、危ないわよ」
恋人でもない年頃の男女だ。そんな二人が一つ屋根の下で一晩過ごすなんて、何か間違いが起きてもおかしくない。
「とにかく!危ないから今帰るのはダメよ!もうすぐママが帰ってくるから、車で送ってもらいましょう」
「……分かった」
特に急ぎの用事もないし、幸いにも明日は土曜日だ。俺は茉莉の提案を受け入れることにした。
「じゃあ、勉強の続きでもしましょうか」
そう言って、彼女は上機嫌で二階へと上がっていった。嫌いな男と一緒にいる時間が長引くのに、なぜ嬉しそうなのか。俺にはよく分からない心情だ。
「はぁ……」
俺は、頭を抱えながら階段を上がった。
茉莉の母親が帰ってきたのは、午後八時になろうかという時間だった。
「まつりちゃんただいまぁ。外がひどい雨でね、遅くなってごめんねぇ。……あら、来客かしら?」
二階にいても聞こえるような大きな声が、玄関に響いた。
「ママが帰ってきたわね。一度下におりましょうか」
「そうだな」
部屋を出ようとするより、彼女の母親が部屋に入ってくる方が早かった。
「まつりちゃぁん、友達が来てるのー?あら、男の子じゃない。彼氏?初めまして。まつりちゃんのママの史乃って言いますぅ。よろしくね?」
部屋に入り俺の存在を認識したかと思えば、次の瞬間には流れるようなマシンガントークを繰り出してきた。
「は、初めまして。友人の島崎純です。彼氏ではありませんが、よろしくお願いします」
戸惑いながらも挨拶を返すと、史乃さんは微笑みながら俺の肩を掴んだ。
「友人だなんてそんな、隠さなくてもいいのよ。まつりちゃんをよろしくね?」
割と真剣な口調でそんなことを言うものだから、茉莉は耐えられなくなって間に割って入った。
「ちょっとママ!こいつは本当にただの友達だから!勉強を教えてもらってただけよ!」
「あら、そうなの?つまんないの」
口を尖らせる史乃さんの横で、顔を赤くした茉莉が恥ずかしそうにしている。
「つまらなくないわよ!雨で帰れなくなっただけ!送ってあげて!」
「えぇでも……。この雨だし、もう遅いし。明日休みなんだから、泊まって貰えばいいじゃない?」
「「……は?」」
彼女の何気ない一言で、俺は茉莉の家に泊まることになってしまった。
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