【本編完結】瓦解

星の書庫

文字の大きさ
上 下
3 / 54

勉強会(1)

しおりを挟む
 六月。俺と茉莉は、入学した頃よりは仲良くなった。と言っても、喧嘩が減っただけだが。
 帰りのホームルーム中、担任が期末考査の話をしている。
「定期考査か……」
俺は元々進学校を目指していただけあって、成績は学年でも上の方だ。定期考査で赤点を取ることなんてないだろう。
「期末考査……」
隣の席で唸る茉莉は、普段の授業態度から見るに、あまり頭が良くないのだろう。入学してすぐのテストでは下の方だったと聞いている。
「お前、今度のテスト大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫よ。最悪補習だけれど」
目が泳いでいる。相当危ないのだろう。
「大丈夫じゃないのか。どの教科だ?」
「う、うるさいわね!あんたには関係ないでしょ」
「そうか。後で泣きついてきても知らないぞ」
「だから大丈夫だって言ってるでしょ。私だって本気を出せば……」

「神林さん。ちょっと良いかしら?」
「は、はい……」
その時、茉莉が担任に声をかけられた。成績のことだろうか。そのまま職員室まで連行されていった。
 しばらくして、戻ってきた彼女は、いかにも不機嫌といった感じで俺に詰め寄ってきた。
「……ちょうだい」
「え?なんて?」
「勉強を……教えてちょうだい!」
一体何を言われたのか、今までにないくらい屈辱的な表情だ。瞳にうっすらと涙を浮かべ、目の周りは赤くなっている。
「な、なんでだよ……」
「私だって本当は嫌よ。でも、成績が悪すぎて……」
「悪すぎて?」
「赤点取ったら、補習も受けさせてもらえないって……」
泣きそうな顔の茉莉を見て、俺は楽しくなった。
「そうかそうか。で、何が言いたいんだっけ?」
「さっき言ったでしょ!」
少しからかうと、茉莉は泣きながら俺を叩いてくる。
「おいおい。それが人にものを頼む時の態度かよ」
「ぐ……。教えてください……」
「え?勉強を教えてもらうのに、土下座の一つもできないのか?」
「う……。ど、土下座すれば良いんでしょ」
だんだん楽しくなってきて、俺は調子に乗ってそんなことを言ってみた。すると彼女は、泣きながら床に両手をつき、土下座をしようとする。
本当にやると思っていなかった俺は、慌てて彼女を止める。
「ま、待て待て!わかったから!土下座しなくて良いから!泣くなって!」
クラスメイトの視線が痛い。ようやく彼女を宥めると、恨みがましい目で俺を睨め付けてきた。
「覚えてなさい……」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだぞ」
「それはこっちのセリフよ」
どうやらもう平常運転のようだ。

 地獄の勉強会が始まる……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。 リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。 しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。 もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。 そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。 それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。 少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。 そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。 ※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...