【異端ノ魔導師と血ノ奴隷】

嵩都 靖一朗

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第六章◆精霊王ノ瞳

精霊王ノ瞳~Ⅴ

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陰様かげさまで。
今日こんにちいたるまで、クロイツのイライラとお付き合いする事になりましたが。
どう落とし前つけてくれるんですかね。

とは言え。こうなったからには、やるしかないので。
いずれは増々請求ましましせいきゅうする気、満々まんまん

クロイツをはじめ、いきり立つ。
一同いちどう士気しきは高い。

すると、フェレンスもまた。
クロイツの言葉におうじるため、羽織りストールまとった。

目指めざすはアイゼリアの首都、イシュタット中心部。

城下じょうか支柱しちゅう破壊はかいした外敵がいてきの、
目的もくてき正体しょうたいき止めなければ。

ところが飛び立つ気配けはいうかがうカーツェルが、さきゆずろうとしない。
後ろから手を取り、残れと言っても聞く素振そぶりさえ見せなかった。

あんじょう

分かりきっていたはずなのに。
どうする事も出来ないのか。

悲痛概念ひつうがいねんの何たるかを知る思いがする。

やる瀬無せなく、にぎった手を強く引くフェレンスはさらに。
きかけた彼のほほに手をえ、言い聞かせた。

Miuwaits La Rourica ... Fileique Auver Riu Lederdia ミュウェイス ラ ルーリカ ...    フイル イーク オーヴェル リウ レダーデャ ... ... 」

 私の愛しい人 ... 今度こそ、言うことを聞いてくれ ... ... 

聞いたことのない言葉である。
おそらくは、故国シャンテにつたわる古代言語こだいげんごだろう。

という事は、グウィンにたいし言っている ... ... ?

一部、吹き飛んだかべかげに身をかくし。
やりごすしかなかったエルジオのうでの中で、チェシャは思う。

真相しんそうは不明だが。

自失じしつしているはずのカーツェルが悲しげにうつむいたのは、きっと、そのせい。
心臓が鼓動こどうするごとに。
彼の視界は二重にじゅうにも三重さんじゅうにも散乱さんらんした。

つづいて。

潜在意識せんざいいしきる記憶をむすびつけたのは。
その時、彼がいだいた悲痛ひつうもとづく。

狂気きょうき

古家周辺こやしゅうへんきりれたのは何故なぜだろう。
ても立ってもいられず。
エルジオのうでからけ出たチェシャは二人を呼んだ。

「 シャ、マ !! ツェ、ル!!」

生憎あいにくにも。
ここに起きた事変じへん異変いへんことなるよう。

幼子おさなごの声を耳にし、カーツェルの注意がわずかにれたのをに。
黒き羽衣はごろもひるがえし、フェレンスは飛びる。

咄嗟とっさの事。

その後ろ姿を目で追ってにらむ彼の目は、冥府ノ焔めいふのほのおとせめぎ合う金剛ノ聖火こんごうのせいか宿やどした。
聞こえてくる内なる声は、真新まあたらしい記憶すらぎ落としていく。


『ずっと ... こうしてらしていきたい ... ... 』

うそだ〉

『つまり私は、お前の気持ちにこたえたい ... ... 』

〈嘘だ〉


先の会話を、二人の言葉を否定ひていするのは誰だ。


『俺は、フェレンスに受け入れられたい一心で ... ... 』

〈本当に、そんな事をのぞんでいるのか?〉


答えが見つからない。
何よりうたがわしきは、己自身おのれじしんであって。
絶望感ぜつぼうかんおそわれる。


〈ならばいっそ、おのが心ごとくだけ ... ... 

 あの御方おかたを行かせてはならない。
 しければ力づく、手に入れろ。

 そうだ。わたすんだ。

 まずは手始てはじめに、その身体からだを ... ... 〉


潜在意識せんざいいしきふちかろうじて、ぶら下がる。
彼の意識をすくい上げ、飲み込もうとしているのは誰だ。


いでクロイツが感じ取ったのは。
カーツェルに見合わぬ別格べっかく威風いふう

「下がっていろ!! チェシャ!!」

距離きょりが距離だ。
流石さすがに声はとどかない。

クロイツにわりエルジオがって事無ことなきをたが。
二の足をむ。

あれは、本当にカーツェルなのか ... ... ?

〈 ザク ッ ... ザザザッ ... 〉

あつみをしたしもたける。
彼の咆哮ほうこうを聞いた者はみな恐怖きょうふに打ちふるえたという。

〈 オォオォォ ォォォ ... ゛!! アァ ァァァ ッ ... ゛!!〉

ノシュウェルもまた、圧倒あっとうされた者の一人だ。

「あれが魔導兵 ... いや、竜騎士りゅうきし覇気はきか ... ... 」

先程さきほどまでの冷やあせが、脂汗あぶらあせに変わった気がする。
かたや元部下の二人はどうだろう。

「わぁ、すごい ... ... 」
こわぁ ... ... 」

一言で言うと。
語彙力ごいりょくなさすぎ。

ついでに言えば。
緊張感きんちょうかんも無い。

このおよんで何だ。
負けた気がして少しくやしかったりするぞと。

なので。くるまぎれだが聞いてみた。

「なぁなぁ。お前ら、もっと他に言うことないの?」

「え。ダメですか!?」
面倒めんどくさい!」

いやぁ、が元部下ながら、たいしたたましてるわぁ ... ...

ノシュウェルのあせも、干上ひあががってしまうようだった。
ところが、そうこうしているそばを飛び、行きぎたのはフェレンス。
その姿を見送ったのち、思わず息を殺したノシュウェルが、古家こやなおったところ。

重心じゅうしんふかく ... 
深く落とし込み、特攻態勢とっこうたいせいをとるカーツェルの気配けはい

「 チッ ... ... 」

クロイツは舌打したうちし、呼号こごうする。

貴様きさまもか? 足手あしでまといになるだけの役立やくたたずめ。 
 多方たほうひそ策士共さくしども足掛あしがかりとなり、つぶされるくらいなら、
 せめて ... 道連みちづれにしてけ と言うのだ!! この、おろかか者が!!」

連想れんそうされるのは、各勢力かくせいりょく主導者しゅどうしゃ密偵みってい謎多なぞおお重要じゅうよう人物達。

「ここで貴様きさまとおしては、帝国の高位貴族、及び上院議員マグナート過激派信教徒パルチザンの思うつぼ

それらうらで糸を引く者の不都合ふつごうを知らなければ、つ手が無い。
しからば、主従しゅじゅう動向どうこう制限可能せいげんかのう特権とっけんたうえ、
各方面かくほうめんからのあゆりをさそうのみ。

愚劣漢ぐれつかん意識下いしきかしず思情しじょうになど、興味きょうみはないがな。
 何が何でもやくに立ってもらわねば、わりに合わぬのだ。
 してや、面倒めんどうを見てやるつもりも更々さらさらないぞ ... ... 」

ぎ、き込む逆風ぎゃくふうあらがうかのように。
き手がわ中指なかゆび人差ひとさし指をそろえ、
視界しかい斜切はすぎり、り下ろされたのはクロイツの手。

先立さきだち、寡兵かへい鼓舞こぶはかるべくして。
当者とうしゃは声をった。

同志どうしぐ! 各々おのおの役目やくめ再認さいにんせよ!!」

たい相手あいては、両腕りょううで蒼火あおびともかかえた。
続けるクロイツの話声わせいは高く、いさましい。

「思いさだめるのだ!!
 死にたくなければ、〈相手は人〉という先入観せんにゅうかん一切いっさいれ!
 進路しんろふさぎ、緩衝壁アブソーバー展開てんかい
 標的ひょうてきとなった者は即座そくざ戦線せんせん離脱りだつすること!」

の高い集合住宅タウンハウス屋上おくじょうに立つヴォルトが、合間あいま補足ほそくした。

「クロイツの目の前より手前てまえ理想りそうだな」

くわえたのはノシュウェル。

「動きを止めるだけでいぞ」

するとエルジオが不安ふあんらす。

「いや、でも、アレ、本当にまるんですか?」

背後はいごとは言え、対象たいしょう間近まじか覇気はきびたのが彼とチェシャである。
無理むりもない。
配慮はいりょ一言ひとことずつえたのはノシュウェルの元部下、二人だった。

「止まるかもよ?」
「止めましょう!」

「止めないとねぇ」

真似まねて答えるノシュウェルは随分ずいぶんひかえめ。
だが、ありったけの魔導弾マギアブレットふところそな位置いちに付き、かまずみみである。

たんはっしたのは、危難きなん淵源えんげん
黒きりゅう見紛みまがう男。

特攻とっこう地盤じばんなき足下そっかに、
次元じげんらぎをし、めると。
あつを受けた水面みなものようにひずむ空間。

てつくほのお大気たいきから熱をうばい、
しょうじた旋風せんぷうあおられおどり上がる刹那せつなに。

一室いっしつ諸共もろとも
鳴動、瓦解めいどう がかいする古家こや半面はんめん

来るぞ ... ... ! 

面々めんめんそろって身構みがまえた。
向き合う相手はひずみの撃発げきはつを受け、爆進ばくしんする。

その動体どうたい一直線いっちょくせんはなたれたやりごとく。
避難誘導ひなんゆうどう配備はいびされた人員じんいん複数名ふくすうめい目撃もくげき
音速のかべやぶ衝波しょうはが、大気をるがす中。

衝撃圧しょうげきあつけじと息巻いきまいて。
クロイツは言いはなった。

「 止 め る の だ ――― !!」


まんして、いどかる。
面々めんめんにも、各自かくじそれなりの対抗手段たいこうしゅだんがあった。

それと言うのも、一同の処遇しょぐうまつわる。
数日前。話のもととなったのは、国家間こっかかん領土りょうど問題だ。


もりふち程近ほどちか山岳さんがくの一部は中立地帯ちゅうりつちたいとなっている。
アルシオン帝国とアイゼリア王国をふくむ、近隣複数国きんりんふくすうこく締結ていけつした条約じょうやくもとづき。
原則げんそく非武装ひぶそうさだめられていたのだ。

また。当国アイゼリアと国境侵犯こっきょうしんぱん危惧きぐする帝国との確執かくしつ根深ねぶかく。
をかけ、異端ノ魔導師に対する隠避教唆いんぴきょうさうだがわれているのだから。
険悪けんあくどころの話ではないとのはこびから。

実際問題じっさいもんだい、バレバレだよね。近隣国きんりんこくまでさぐっちゃえば分かることなんだし」
極力きょくりょくてきにしたくないからだろうって言われてるけど。
 そうと認識にんしきされる国家間こっかかん蔓延はびこるのは、贈収賄ぞうしゅうわいだ。
 どちらも利用りようされてるふりをしているだけかもしれないし。食えないな」

「アイゼリアの王党派おうとうはが、まさかの国賊こくぞく ... 帝国ノワンちゃんかー」
「それとやり合ってから帰るって、どうゆう発想なんだろう」

「え。でも、そういうの面白おもしろいじゃん」
「え。ああ、まぁね。そうだけどさ」

元部下、両名りょうめいの会話を聞きくうち。
ノシュウェルは作業をえた。

「さぁて。整備せいびんだぞぉ。
 あとは感を取りもどすまで、ひたすらリハビリだなぁ」

軍手グローブぎ、満足気まんぞくげくと。
となり合って闇雲やみくもな会話を続ける二人のうしろを、ヴォルトが通る。

「うん。頑張がんばるー」
「しかし何年ぶりなんだ? まだ上手うまく使えるといいけど」

「それがね。フフフ。おぼえてないんだー」
「わぁ。それ洒落しゃれになってないよ、おじいちゃん」

「フフ。ぶっばされたいの? キミ。
 やっぱ、いい度胸どきょうしてるよねー。
 僕よりだいぶ年下のくせにさー」

それはたしかに。そう思う。
けれど、大分だいぶと言うのは具体的ぐたいてきに、どれくらいなのだろう。

「なぁ、お前。としいくつなんだ」

もう一人にたいし、ノシュウェルがたずねてみたところ。

「二十八です。ちなみに、こいつが降格こうかくらたのは、自分が移動いどうになる十年も前で」

「は!? そんな歳で中堅ちゅうけんれるくらいなのに、どうして俺のトコなんかに!?
 いやて、それより! もう片方かたほうこそ、お前、としいくつなんだ!?」

「十八歳でーす」
「言うことがもう中年以上だから、やめなって」

かえってけて見られるぞ? と、耳打ちしているようだが、筒抜つつぬけ。

「よし。決めた! ぶっばしてあげる!」

むなぐらをつかまれてから平謝ひらあやまりしている。
そんなり取りを余所よそに。
ノシュウェルのそばまで来てヴォルトは思った。

帝国の遊撃部隊兵装ゆうげきぶたいへいそう か ... ...

先程さきほどまで整備せいびされていたしなである。
一部、機械仕掛じかけと見受みうけ、精察せいさつしていると。
帝国軍小隊をひきいた元隊長の声がかる。

飛躍腿甲ショットアップグリーブだ。
 装備そうびすると跳躍ちょうやくによる滑空かっくう可能かのうでねぇ」

場所と使い手次第しだいではあるが。
縦横無尽じゅうおうむじん機動力きどうりょくを実現するものだそう。

「しかし ... どうして、そんなもんが巡視船じゅんしせんなんかにんであったんだ?」

当然とうぜん疑問ぎもんを受け硬直こうちょくしたのは、年下の中堅ちゅうけんつかかったがわ
事情じじょうを知る一方いっぽうは、すかさず居直いなおってんで行った。

「それはですね、勿論もちろん。誰かさんがふねっ取る時、
 どさくさにまぎれて輜重兵しちょうへいから強奪してふんだくって来たからですよ」
「もちろんって何!?」

たいしブツブツ言いわけするほうも、すっかりと開きなおっている。

物資ぶっしは多いほうが心強いとか。
やられる前にやらなきゃだとか。
悪びれた様子もなく。

「だって僕、元奇襲兵もときしゅうへいなんだもの。
 したしんだ補助装備ほじょそうびを見かけちゃったらさ、っておきたいじゃん!」

はぁ。つまりアレか。降格こうかく左遷させん要因よういんは、その手癖てくせの悪さな ... ...

ヴォルトは思っても口に出さない。
ただノシュウェルを見やり、二度ほど、かたたたいた。

けれども、少しだけいて。
作業台をき、配慮はいりょしたうえささやいてみたり。

「えらい部下を押し付けられたもんだな。あんたも」

それがまた。丁度ちょうど、向かいがわに立っていたエルジオには聞こえてしまって。

〈 も 〉 ... ... !?

ちょっとショックだった模様もよう

クロイツは部屋の片隅かたすみで見聞きしているだけだった。
とは言え、確認しておきたい事が一つだけある。

遊撃部隊ゆうげきぶたいと言えば、切れ者ぞろいと聞いているが?
 自慢じまんの攻撃手数てかずおぎな包括支援設備ほうかつしえんせつびもないのに、どうするつもりなのだ」

横槍よこやりを入れてみたところ。
答えたのは、元中堅ちゅうけんだった。

「ああ、それなら元隊長が何とかしてくれるかなって思います」
「何、その無茶振むちゃぶり」

ノシュウェルは一瞬、戸惑とまどった様子。
だが、何故なぜ満更まんざらでも無さそう。

貴様きさま出来できるのか? 元の所属しょぞくを言え」

たずねると。

「ええ、そうですね。昔は兵器開発をしてたもんで。
 出来なくはないですなぁ ... もっぱら作り込むほうでしたし」

クロイツも目を見開く意外いがいな返答。
どこからか ガタガタ ... と、せきを立つ音まで聞こえてきた。

あんたが兵器開発 ... ... !?

とても信じられない。
ヴォルトとエルジオは見合わせて思う。

中堅ちゅうけんは知っていたという事か。

その場に居合いあわせた諜報員ちょうほういんの心の中では、最早もはや逸材いつざい
注目の人物はくわえて言った。

「あ! でも、クロイツさん ... それ以上は聞かないであげて下さい。
 つまり、この人 ... 規格外きかくがい改造品かいぞうひんばっか作って、あなたのもとへ飛ばされたんですよ」

「やーん。言ってる! 聞かれる前に! どういうコト!?」 

「 ... ... 」

元兵器開発技師ぎしや元奇襲兵きしゅうへいたいおくさぬどころか、クロイツまでだまらせるとは。
軍歴ぐんれきが気になる。

話は続いた。

「あと、自分。かく言う包括支援ほうかつしえん担当たんとうした元輜重兵しちょうへいなので、
 系統設備システムファシリティーが無くても最低限さいていげん装置そうちさえあれば、機動支援モビリティーサポートくらいは出来ます。
 とりあえず、手動伝送しゅどうでんそうとか、装填補助程度そうてんほじょ ていどなら ... そうだ、
 巡視船じゅんしせん主配電盤M D Fを組みなおせば使えるんじゃないかな」 ※MDF=メイン ディストリビューション フレーム

粗方あらかた前知ぜんちし言いふくめているのだ。
これにはクロイツも相好そうごうくずす。

また、くずれると言えば。
ノシュウェルの人物像じんぶつぞうあぶない。

「 ハァ ... ハァ ... つまり、何だ。
 それってのは ... 巡視船じゅんしせん、バラして良いってコトだな ... ... ?」

技術者エンジニアさがである。
思わず声をけたのはエルジオとヴォルトだった。

「え ... っ と ...  ノシュウェルさん?」
「あんた、そういうキャラだった?」

「 ククク ... 残ったのは爪弾つまはじきにされた奇人きじんのみと言うわけか。
 貴様きさまは人をなじれる立場ではないな」

とどめを刺したのはクロイツ ... かと思いきや。

「「「あなたが言う!?」」」

等々などなど。口をそろえたクロイツ以外の面々めんめんだったりして。
られたくない。なぐられたくない。けれど。

類友るいともって言うじゃんねー」
「うん。自分達なんかせられたがわ端役モブですし。
 まともなへいは、あなたとのこるなんて破滅的選択はめつてきせんたくなんかしませんよ。クロイツさん」

「おおおぉぉぉぉぉぉ ... ... 言うねぇぇぇぇ ... ... 」

飄々ひょうひょうとし言ってのける元部下、二人にられてしまったがために。
このあとり飛ばされたのは言うまでもなく。
彼、ノシュウェルだった。


アイゼリアの軍勢ぐんぜいおもに、爆撃ばくげきを受けた方面ほうめんへと派出はしゅつされたよう。
手筈てはずととのえたのは、国王、ならびに王党派おうとうは見張みは王太子おうたいしウルクアである。


弱ったカーツェルをどうしたいのか、何をさせたいのか。
敵勢力てきせいりょくねらいはあきらかになっていない。
とどめるにいたらなければ、どうなってしまうのだろう。

彼は何故なぜ利用りようされ続けるのか。
彼は何故なぜ、命をけ引きされてまで、
フェレンスのそば居続いつづけることに執着しゅうちゃくするのか。

回想かいそうまじえ、かぎにぎる男について考察こうさつするクロイツは、あらため立ちひかえる。
その手は、長い前髪まえがみかくされたひとみの上にえられ。
ノシュウェルをふく同志どうし責務せきむたす、その時をった。

初手しょてもちいられたのは捕縛弾ほばくだん

はなたれた榴弾りゅうだんは対象の撃破げきはを目的としない。
兵装へいそう作動停止さどうていし、もしくは爆発物の破片はへん弾子だんし飛散ひさんさまたげ、火力を低下させる物だ。

生活圏せいかつけんへの侵攻しんこうけた場合に、
人命じんめい設備被害せつびひがいおさえるは準則じゅんそく

まさか対魔物たいキメラ重火器じゅうかきを人に使うなんて、思ってもみなかったが。

射手しゃしゅの一人は、直後ちょくごに思い知る。
クロイツが常々つねづね口にしていた言葉の意味を。

相手あいては人の姿すがたをしているにぎない。
魔物キメラ同然どうぜんなのだと。

極低温下きょくていおんかにあっては、原子げんしの熱運動すら収束しゅうしそくしてしまうのに。
冥府ノ焔めいふのひれた同弾どうだんが、いつもと変わりなく機能きのうするわけがなかった。

彼ノ魔導兵かのまどうへいが目標点にせまり、りかぶる。

〈 ガァアァァ――ン!! ガガァアァァ――ン!! 〉

胴板どうばんをへし豪打ごうだ
次々つぎつぎたたき落されていく弾骸だんがい

宅地たくち守備しゅびに当てられた人員は、未然みぜん展開てんかいした法壁ほうへきの中。
はじかれたそれらが熱劣化ねつれっかし、くずれていくのを見た。

ある者は気取けどられ、狙撃眼鏡スコープしに目が合う。
こおるようでありながら、いかりりにちた睨視げいしを受け。
脳裏のうりよぎるは、死の一文字ひともじ

それでも役目やくめたさねば。
追い打ちをかけるしかないのだ。

無腰むごしの相手はいま無傷むきずである。
ともあれ、特攻とっこうふせぎとどめた。

いては追進ついしん阻止そしせねばならない。

向き合う集合住宅の外面壁がいめんへき交互こうごがり、塔屋とうやえ。
展望前てんぼうへと一直線いっちょくせん飛昇ひしょうしたのは、再起さいきしたての奇襲兵きしゅうへいだった。

「行くよ ... ... はちにしてやるつもりで!」

無我むがにおわせ、悠々ゆうゆうと見上げてくる相手は最早もはや別人べつじん見受みうける。
たいねらいをさだめ、斜角回転降下しゃかくかいてんこうか
り出された第一撃だいいちげきは、回転速付加で威力いりょくした手盾殴打シールドバッシュ

相手は軽々かるがると受け止めた。

無論むろんてつくほのおを前に保護ウォード持続じぞく期待きたいできない。
即座にうし遠方えんぽうまでび、距離きょりを取ったところ。

〈うん。でも、ぎっくりごしには気を付けるんだぞ?〉
うっっさいなぁ!!」

を見て受信装置レシーバーしに言葉をわす、ノシュウェルの元部下。両兵りょうへい

「て言うかさ! ルース!! キミこそ! 
 砲弾シェル充填じゅうてんミスって弾切たまぎれさせたらゆるさないから!!」

一人は、各個撃破ノ精鋭かっこげきはのせいえい。元帝国軍遊撃部隊、奇襲兵ゆうげきぶたい きしゅうへい

了解りょうかい。でも ... アルウィ、お前だって。
 俺を退屈たいくつさせたら、二度とまないからな。忘れるなよ?」

また一人は、同国軍輜重部隊しちょうぶたい機動支援特化、特殊技能兵きどうしえんとっか とくしゅぎのうへい

り取りを聞く誰もが思った事だろう。

あの二人、名前あったんだ ... ... !?

内、一人はノシュウェルだが。
彼は思う。
無いわけは無いとして。

今の今まで忘れてたなんて、言えない ... ... !!

かりにも元隊長なのに、聞くにも聞けず。
よくもまあ、二人称代名詞ににんしょうだいめいしだけでりきったなと。
われながら関心かんしんしてしまう。

かたやクロイツは目をじ。
強くき込んだ風に乗る音に、耳をかたむけた。
 
 
 
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