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第五章◆石ノ杜
石ノ杜~Ⅷ
しおりを挟む瑕疵と呼ばれる記憶ノ混濁は、日を重ねる毎に鮮明さを増し。
彼ノ竜騎士が抱いた想いと、共感の境もまた ... 曖昧になっていく。
それでいて相反するかのよう。
受け止める事は、そう難しくない。
影響されるなんて、よくある事。
頭では分かっていた。
割り切らねばならない。
それなのに。
気持ちの整理をしようとした途端に胸が軋む。
窓辺に触れ、拳を握り込むと。
意図せず蒼火が灯り、揺らめいた。
気付くと同時、手元に霜が差し。
カーツェルは咄嗟に距離を置く。
不安、苛立ち、焦燥感。
似ているようで異なる心境。
平静を保とうとするほど掻き立てられた。
冥府ノ炎は、彼の胸の内に隠れ潜む思念を啄み滅す。
それでもなお尽きる事なく、溢れてくるのだ。
一体、どこから?
焼き付いた記憶に触れるたび、情緒不安定に陥る謎。
声を聴きたい。触れて、その鼓動を確かめたい。
その衝動は、竜騎士の未練に感化され生じたものであるはず。
だが ... ...
小刻みになる呼吸の合間に。
口を衝いて出る名。
「フェレンス ... ... 」
縋る思いで発した声は、確かに自分のものだが。
意識の奥底。深く、より深く。
封じられた心想の叫びを、彼自身が聴く事は出来ないのだ。
眠り結い紡ぐ。夢、断ち切りて。
切情を孕む思い入れは、やがて呼び覚ます。
傍で声がした気がして。
フェレンスは大きく息を吸い、瞼を開いた。
まさか。その場にカーツェルの姿は無い。
胸元で握り込まれる小さな手の感触で我に返り、上体を起こすと。
小声で唸るチェシャが、ベッドの外側を向いて寝返る。
「 スンスン ... ムゥ ... 」
上掛けから転がり出てしまい肌寒さを感じたのだろう。
シーツに鼻先を埋めながら竦み、縮こまる小さな身体。
風邪を引かせてはいけない。
掛け直してやろうか。
フェレンスは静かに掛布を取った。
けれども、何が気に食わないのか蹴っ飛ばされたので。
バサッ! とチェシャの足元で跳ね返るそれを見て、フェレンスは目を丸める。
気を取り直して、もう一度。
放っておくわけにはいかないのだから。
次には自らのローブを預けてみようと考えたのだ。
なのにどうして。
広げてやっている間に シュッ! と奪い取られ更に驚く。
手元から忽然と消えたローブ。
ゆっくり 々 、目で追ってみたところ。
敷き広げたローブの端から クルクルクルッ ... !
転がり返って、器用に包まる赤毛の蓑虫。
目覚めてから既に三回。
幼子の奇行に目を見張っているが。
長いこと避けてきた触れ合いから得る温もりに、和みが加わり。
新鮮な心地がした。
部屋を見渡していると、いつの間にか装具一式、
及び外套等、脱がされている事に気付いてベッドを立つ。
枕元には寝装束が折り畳まれ用意されていた。
カーツェルが置いたものだろう。
シャツ、そしてボトムスの前留めを外す指先。
無造作に脱ぎ捨てるフェレンスは、手早くガウンを着込み。
やがて、窓辺に差した梢の影を踏み越える。
スルリ ... 素足を掠める絹の裾が、
星を散りばめるかのような艶を放った時だった。
広々とした縁台へと続く仕切りを押し開いて。
谷の緑生を一身に浴びる。
フェレンスの緩やかな瞬きは、
清浄を思わしめ、曇りを晴らすかのよう。
その姿を遠巻きに見るカーツェルは、息を呑んだ。
河の飛沫を吹き上げる風が、
雪のように白く照らし出される髪を、肌を、衣を煽り。
美しく戦ぎ立てている。
曲げ木の手法で組み編まれた外格子の手前にて。
佇む背に向かい尋ねたのはカーツェル。
「よく眠れたか?」
居間側の敷居を出て、一繋がりとなった渡りを行く彼は、
一つ、二つ、格子の影を潜り抜け。
その都度、移り変わる情景の中。
ゆっくりと顔を上げ視線を流してよこす姿を見詰めた。
対して、前置きも無く語りだす。
聞かれてもいないのに。
有耶無耶になっているカーツェルの心境を察したのだろうか。
フェレンスは遥か遠くへと想いを馳せる。
「彼が ... 私を愛してくれている事は知っていた。
だが私には、その何たるかを知る術が無い」
術とは?
《中枢の記憶》の事を言っているのだろうか。
「我々番人の理性は即自的。
対してグウィンは私を普遍化してくれる存在と言っていい」
また小難しい事を言う ... ...
「要するに?」
カーツェルは、相槌がてら意訳を求めた。
「お前の話は断片的すぎんだよ。もう少し掘り下げてくれる?」
やんわり言うと、フェレンスは僅かばかりはにかんで応じる。
「分かった。 つまり ... 当時の私は、
彼の自由意志に学び、いずれは自立するつもりだった」
聞くと、カーツェルの片眉が上向きに反っくり返った。
どう転んでも、分かり辛い。
これはもう、旨意で捉えるしかないのだろうか。
外格子に寄り掛かり、唸るカーツェルの解釈はこう。
自分には無いものを与えてくれる人だったって事かなと。
それにしても、自立とは妙だ。
瞳の奥を覗き込むように首を傾げて見せると、フェレンスは続けた。
「彼が、何を差し置いても寄り添おうとしてくれたのは何故か。
知ることが出来たなら、私も彼を守れるようになるのではと ... 」
しかし、何処か引っ掛かるのだ。
「誰かを守るのに理由が必要なのかよ」
「少なくとも、私には」
相変わらず、はっきり言うな ... ...
確かに、見ず知らずの他人と身近な人物と、選択せねばならぬ状況を仮定すれば。
何らかの理由は欠かせないのかも。
意識せずして救えるほど生易しくはないだろうし。
命を懸けて行うのであれば尚更。
カーツェルは思った。
気持ち的に漠然としているのと、
覚悟してかかるのでは力の入れようも違ってくるのだから。
それらを踏まえて考えれば至極、妥当。
「けどさ。何か、そういうのって、何かな ... 」
受け入れ難いというわけではない。
ただ、ただ ... 遣る瀬無い。
蹲るように下を向いていると、次いで窘められた。
「カーツェル。お前は既に知っているはずだ。
もう何度も彼の記憶に触れているのだから」
耳を塞いでおくべきだったのかもしれない。
フェレンスは躊躇いも無く言い連ねるだけ。
「私は《人》ではない。姿形だけ似せた模倣品だ。
生死に関わる本能や欲、何から何まで。
人から生まれ、母性等により無条件に寄せられるらしい愛情は勿論。
あらゆる情から隔絶された精神領域でなければ記憶の示顕は許可されないためだ」
「つーか! もう、いいからさ! そういうの!!」
堪らず強く言い放ち、カーツェルは唇を噛み締める。
次第に力を失う声が、切実さを物語っていた。
「わざわざ繰り返してくれなくていい。
そうでなきゃいけない理由なんて、俺にはどうでもいいんだよ。
だってさ。今のお前は全然、そんな感じしねーし。
そりゃあ、考え方とか ... ぶっ飛んでんなって思うコトはあるけど。
つか、実際ぶっ飛び過ぎなんだよな。
クロイツみたいなヤツが、メチャクチャ警戒するくらいには。
けど ... さ、そういうヤツが、一人くらい居たっていいだろ ... 」
フェレンスには未だ、相思相愛を認識するための感性が備わっていないのだと再確認する。
求め合い、愛おしむ。
慈しみ、尊ぶ。
掛け替えのない存在に対する想いを理屈として理解は出来ても。
過程と、その根拠、動機なくして処理しきれず。
喜怒哀楽といった情と結び付ける事が出来ないのだ。
生前のグウィンが力尽く分からせていたとしたら、何か変わっていたのだろうか。
一度、聞いてみたい。
カーツェルは思った。
――― なぁ、お前さ ... 幸せって感じたコトある?
するとだ。突如として脳裏を走る衝撃。
同時に引き裂かれるような心痛を覚える。
何だ。今のは ... ...
前にも同じ質問をした気がするが。
気の所為?
反射的に胸元を抑えてしまったので。
フェレンスも気が付いただろう。
だが、迂闊には言えない。
ピタリ と止めた呼吸を可能な限り自然に戻していくが。
誤魔化そうとしているのは見え 々 だ。
フェレンスの表情が曇る。
扠置いて、顔を上げようか。
秒で開き直るカーツェルは思い付きで切り返した。
「それに、俺はさ! てっきり ... お前ら二人共、
好き合ってるもんだと思ってたんだけど。何だ、違うのかよ」
挙げ句には、苦し紛れの作り笑い。
まあ、気になるっちゃ気になるわけで。
ところがフェレンスの気が逸れる事はない。
「顔が引き攣っている」
「ぇ ... だって俺、そっちの気、無ぇーからさ」
嘘じゃない。本当。
なのに胸が チクチク と痛むので。
一言だけ心中にど突き入れる。
一々、突っ掛かって来んな !!!!
そうした時だった。
襟の内側へ、そっと差し込まれる指先。
カーツェルは俄に硬直する。
柄にもなく緊張し、脈が躍り上がるのを感じた。
「もしかすれば、そうだったのかも ... 」
話を戻して、フェレンスは言葉を濁す。
「しかし、確かめる事は出来ない。
彼の魂と心は逝き別れてしまった。
お前の意識に灼き付く未練さえ、痕跡に過ぎないのだから」
嗚呼 ... 苦しい。
黒ノ竜騎士は何故、主人への愛を口にする事を避けたのか。
シャンテ一と言われる臆病者の所業には謎が多く、察しが付かない。
それでいて、強く共感してしまうのだから。
心底わけが分からないと言うか。
それに、本来であれば確かめるような事ではないはずと思うのだ。
「あーあ ... 毎度のコトながら、マジで呆れる」
不調を気に掛けたフェレンスが脈拍を診る間、微笑み合う。
「なので例えば、お前が愛しい人を慕う気持ちと、
私の彼に対する気持ち、二つを比較する事が出来るのであれば ... 」
「ちょっと待った。そういうのはな、比べられるもんじゃねーの」
「そう。そうだろう?」
言葉を交すうち、急に調子を合わせてくるものだから驚いた。
「何が言いたいんだ?」
「確かめられない、比較する事も出来ない。
私は何を手懸りに『愛しい』の正体を突き止めればいい?」
「 ア ホ カ ... 俺が知るかよ」
「だろうな」
「真顔で言うな!!」
ク ッ ソ ... 何かムカついた。
「差分を埋めるにあたっては参照する事例があれば可能だが」
コイツって、ホント ... ...
天才的頭脳の持ち主なのか、究極の馬鹿なのか。
紙一重とはよく言ったものだなと思う。
「もぉ ... 分かった。じゃさ、こっち来てみろよ」
棒立ちでこちらを見るフェレンスを、仕切りの手前で再度、呼びつける。
「早く」
訝しげな顔をしているところに向け、手招き。
窓辺の椅子に腰掛けたカーツェルは、
胸元から手帳とペンを取り出すと改めて尋ねた。
思いついた順で良いので、比較的よく接する人物の名を挙げていけと。
フェレンスは二度、瞬き。
彼の手元へ視線を落とす。
静寂に包まれた寝室の片隅にて。
やがて応じる声は、降り積もる雪が反響を縮するが如き風情を醸した。
カーツェル ... チェシャ ... ローナー ... ロージー
多くは使用人として具現した精霊の名が連なる。
中には、聞かなかった事にしようかと思う人物も含まれていたが。
アレセル ...
彼は異端ノ魔導師を影で支えた人物。
その功績だけは認めざるを得ないので。
二重線を引き抹消してしまいたい気持ちを グッ ... と抑え込むカーツェルは、
チラリ ... 淡々と答えるフェレンスを見た。
集中し、ペン先の向く紙面だけを ジッ と見据える瞳。
天板に反射する月明かりを定期に遮る瞼。
すると目が合う。
ページの片側が一杯になっていたので。
もう十分ではないかと。
次には順を変えていかねばならない。
カーツェルは告げた。
「但し、条件を付ける」
「 ... ... 何故?」
当然、理由を問われる訳だが。
「まぁいいから ... 」
彼は受け流した。
フェレンスは納得していない。
しかし黙って聞いていたところ、なるほどと思う。
話したり、一緒に過ごす上で苦にならない。
寝食を共にしてもいい。
相手に不備があったら、自分がフォローする。
以上の三点を踏まえ、当てはまると思える順に名を入れ替えよ ... との事。
何をしたいのか。
簡単に予測できた。
けれども、あえて言わない。
フェレンスは差し出された帳面のペンを取り、速やかに応じて返す。
案の定、言い出しておきながら煮詰まった様子を見せたのはカーツェルの方だった。
トン、トン、トン ... ... ペンの先で紙面を叩く音。
実に単純。診断なんて大層なものでも無し。
最上位に名を置く人物こそが今、一番、大切な人。
要するに、フェレンスの《愛する人》って事になるのではないか。
ともすれば。当然、グウィンの名が真っ先に記されるはず。
なんて ... 想定したのだ ... が。
そもそも、彼の名は挙げられていない。
代わりなんて、存在するはずもないのに。
一番に記されたのは ... ...
――― Kurzweil
自身の名。
「 ... ... 気まずそうだな」
「あぁ、うん。まぁな ... 」
だって、まさか、グウィンの名前が出て来ないなんて思わないじゃん。
すると気が付く。
そうか、わざとなのだ。
軽く睨み付けてやったところ。
察し、背もたれまで身を引いて肘掛けに両腕を預けるフェレンス。
諭すでもなく、彼は言った。
「これは私にとって当然の並び。しかし、これではまるで ...
今、私が最も愛しいと思っているのは、カーツェル、
お前であるかのように見受けられる。が、どうなんだ」
けれども、何処か他人事のよう。
カーツェルはノラリクラリと投げやりにペンを置き、頬杖をついて返した。
「それな ... ... 俺 に 聞 く ?」
分かっていてアイツの名前を外したくせに。
どういうつもりか尋ねると。
「言わなかったか?」
フェレンスは真っ直ぐに見詰めてくる。
そして続けた。
「今更なんだ。
お前を愛おしいと思うのは私にとって当然の事。
条件付きであろうが、無かろうが」
聞けば、息衝くかのよう。
全身に通じる筋を背中の一点で弾かれるような感覚に似て。
ゾクリ ... と震え上がる。血が沸く。
「なら聞くけどな!!」
居た堪れず。
遮るしかなかった。
カーツェルは一呼吸おいて問い重ねる。
「どうしてだ ... ?」
すると、黙り込むフェレンス。
彼の視点が僅かに角度を落とした時だった。
テーブルに身を乗り出し、手を伸ばすカーツェルの指先が顎を持ち上げ。
平常を装う視線を取り戻したうえで切り込む。
親愛なる友人に向けてだ。
「お前が言うからには、はっきりとした理由があるはずだろ?」
いつもより低い声。
フェレンスは ... 答えない。
堂々巡りなのだ。
彼も分かっているはず。あえて言う必要はないと考えた。
すると、数秒後に自分の言っている事の理不尽を自覚したカーツェルが、がっくりと鬱ぎ込む。
「 ... ... つか、あるはずだけど分からないから、こんなコトになってんのか」
「 ... ... そうだな」
どん詰まりだ。
気持ちもスッキリしない。そのせいだろうか。
カーツェルの口走る不満も、やや迷走する。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
何だよ! それじゃ、グウィンの時と同じじゃねーか ... !」
前髪を掻き上げ思わず立ち上がって。
そうと声に出してから ハッ! とした。
「って ... ... 待て待て待て待て、違うだろ」
そうじゃねぇ!!
自分で言っておいてビックリ。
落ち着き無く右往左往するカーツェルをフェレンスの目が追う。
「グウィンとオレとじゃ状況も意味合いも全然、違うもんな ...
同じと言やぁ〈魔導兵〉って立場だけだ ... ハハ! なぁ、フェレンス! そうだろ?」
分かりきったことを繰り返しても無意味。
なのに同意を求めずにはいられない。
何故こんなにも後ろめたい気持ちになるのか。自分でも分からなかった。
加えて、フェレンスの受け答えもまた有耶無耶。
「さあ ... ... どうだろうか」
カーツェルはテーブルに対し横を向いたまま立ち止まり、耳を傾ける。
「確かに私は、彼を護りたいと感じる理由が知りたかった。
確信が齎す心境の変化にも興味がある。
だが、愛おしむということについて深く考えた事は無い。
人や物を〈愛する〉事。それに対する他者との認識の違いも曖昧。
支え合い、互いの安定を前提とし精神的に抱く親愛と。
子孫を残すため生理的に抱く性愛と。
己が遺伝子と体験、記憶に基づき本能的に抱く情愛と。
区別する事は可能だが、割り振って認識すべき必要性を感じないからだ」
聞けば、胸がざわついた。
肌に当てられた刃を スッ ... と横に引かれたかのように張り詰め、握り込まれる拳。
「それって、つまり ... ... どうでもいいってコト?」
ただ一言、呟くと、フェレンスは即答する。
「そうではない」
カーツェルは俯いていた。
的外れな質問だと分かってはいるので黙り込む。
利き手の人差し指を唇に当てながら考えるフェレンスだったが、どうやらお手上げのよう。
彼は続けて言った。その言葉にはカーツェルへの疑問も含まれる。
「これ以上は何とも言い難いが。
対して何故お前は ... 私の〈愛する理由〉を、そう知りたがる?」
急に尋ねられ、カーツェルは赤面した。
「ば ... ! ババ バ 、バ、バ... 」
バ ... ?
フェレンスが首を傾げながら待っているのを見て、益々頭に血が登る。
「馬鹿!! お前が言う、護りたいって、気持ち? 理由とか、つまり ...
好きってコトなんじゃないかと思って、聞いただけで! ... べ、 ベベ ベ ベベ ... 」
ベ ... ?
一々、首を傾げて見てんじゃねーよと言いたいが。
「別に!! そんなんじゃ、ねーし!!」
反論するのに精一杯。
自分でも、子供かと思うような ... 嘘。
本当は、フェレンスの抱く想いの詳細を知る事で、
自分のものとも、竜騎士の未練とも区別つけ難い心境の整理がつくのではないかと。
そう思っていた節がある。
けれども、収拾がつかず思い悩んでいるなんて知られたくはない。
少しだけ意地になっていた。
パッ と背を向けるカーツェルは、
熱を持った自らの頬に片手の甲を押し当て息を殺す。
臆病者と揶揄された亡国ノ英雄。
グウィンの気持ちが、今なら分かる気がした。
フェレンスの慈愛に対し欲求不満を拗らせたに違いないのだ。
自覚もあって言えなかったのだろう。
とは言え、未だに謎な部分もある。
この共感は一体 ... 何処から沸いてくるのか。
歯痒かった。
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