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第三章◆魔ノ香

魔ノ香~Ⅸ

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駈歩かけあしで高原を行く多頭引き馬車オムニバス

揺れをなぞらう身の側面。

明り取りから差し込む西日が、床から壁へと昇っていくあいだ
から色に染まる搭乗室キャビン内に染みた硝煙しょうえんと、
座席下の物資箱からただよう火薬のにおいがのどからむたび、小刻みにせきはらいつつ。

ノシュウェルは、遮光しゃこうシートでざされた車窓を背に沈黙する兵士と並び、
最奥で向かい合うかたちで静かに会話する上官と、魔導師の声に耳をかたむけていた。

ふっくらとしたトラウザのたわみをけ、あしを組み、うでを組み。クロイツは言う。

「定期に国内各所をおとずれる国勢こくぜい調査員が、
 民の出生と死没を記録していく過程で、新生児の血の魔力の有無も調べるはずだが。
 まぬがれたところで、検問所の往来に必須である履歴りれき審査を ...
 この少年は、一体どのようにして切り抜けてきたと言うのだ ... ... 」

出発前に少年の手足、そして体型を確認してみたが。
暴力被害にった痕跡こんせきは無く。
取り立てせ細っているわけでもない。
性格だって、れてもなくいたって素直。

警戒心さえ然程さほど、強くはないようだった。

となると ... 悪徳あくとはに取引される手前、逃げ出してきた可能性が高いわけだが。
命を軽んじる者の少なくない裏業界から、このような幼子おさなごが逃げおおせるものかどうか。
実の経緯をたずねようにも、少年は言葉を知らなすぎるのではかるより他ない。

可能であるとするなら ... ...

彼のそばには常に、一般の保護者とはかけ離れて裏状勢にくわしい何者かが付き添っていたものと思われる。

そうでもなければ、奇跡。

考えをめぐらせるクロイツの眼差しが、深々と床に突き刺さっていくようだった。
放っておいたら、そのうち煙が立ってゆかに穴がくのでは。
そう思った一人の兵士は、床とクロイツを交互こうごながめる。

かたや、その他数名は、それよりも気になる光景に視線が釘付くぎづけ。
クロイツに対するフェレンスの応答を聞きながらだった。

凝視ぎょうしする、彼等共々かれらともども
ノシュウェルもまた、同視点で声の主の手元を見つめる。

「いずれにせよ、彼の血筋を洗い出すのはほぼ不可能だろう。
 これほど逸材いつざいを何年ものあいだ、他者に気付かれぬよう隠しおおすなど ...
 一般の民に出来ることではないのだから」

たくましいでもない。だが、細くもない。
ふしの目立たぬなめらかな指のラインを影が強調していた。

会話に集中するつもりが、どうしても〈そこ〉に目が行くのだ。

つややかなつめの先で、足元にい眠る男の黒髪をいてはで。
繰り返し ... ...
時として強い揺れをおさえてやっているの魔導師の動作に。

冥府のを封じられた付き人は今、主人の法により眠らされている。
瘴気しょうきく薬を作ってやれる状況でもないために、とにかく時間を置く必要があるのだとか。

初め、搭乗室キャビンに寝かせられた彼は悪感あっかんうなされていたが。
それを見かねたフェレンスが抱き起こしてやったところ、ピタリと寝静まったのだから ...
搭乗者一同、神妙しんみょうな心持ちがした。

見ていると、フェレンスのひざに頭を乗せるカーツェルが、
毛布越し、腹部に顔をうずめ深く息を吸う。

そんな彼の寝心地や、如何いかなるものかと。
想像する者は少なくなさそうだが。
何故なぜか、気不味きまずい空気だ。

余所見よそみをすればとなりと目が合う。
別に。うらやましくなんかないけど。

俺も一度は、あんなふうにでられてみたいなぁ ... .... 

なんて。複雑な心境しんきょうを自覚するなり気分がふさぐのは、お決まりってやつだろうか。
部下達の様子をうかがっていると、考えていることが表情に出ていて面白い。
だが、笑ってはいけない。ノシュウェルはこらえた。

は口々に言う。

「早く帰りたいね ... ... 」
「だな ... ... 」

「つか、さ、仲の良い友人同士を見てるだけなはずなんだが」
「うん。分かるわ。どうしてか、こう ...  
 帰ったら本気で恋人作ろう ... とか、みじめなこと考えちゃうよね」

「それな ... マジそれ ... 」

聞こえていてもおかしくないが。
方々かたがたは無反応。

ゆっくりとカーツェルの髪をくフェレンスの指先は、
まるで ... 愛しい人の柔肌やわはだに触れるかのようだった。

そんな中。

上官と魔導師の会話を邪魔せぬようひざの上に確保した赤毛の仔猫こねこちゃんが、
ぷっくりと両頬りょうほほふくらませて、不機嫌そうにうなる。

「 ... ンムゥ ... 」

いささあつかいに悩みつつも、ノシュウェルは言った。

「俺なんかのひざで不満だろうけどな。そこを何とか、もう少し ... 我慢してくれよ」

少年のご機嫌取りに尽力じんりょくせよとの任務を遂行中。
クロイツをチラ見しても放置されっぱなしで。
少年がグズりそうになるたび、一緒に泣きたくなったものだが。
そうこうしているうち気付いた点もある。

兵士の会話が気になるのか、少年は時折ときおり
憂鬱ゆううつそうに項垂うなだれる男達を流し見て、ぷくぷくとほほを張ったりゆるめたり。
反復はんぷくして気をまぎらわせているように思われた。

そもそも理解出来ているのかどうか疑問ではあるが。
何かにつけて反応する様子を見て、もしやと考えはじめたところ。

「ただの発達障害ではなさそうだ。
 大まかな言語の聞き取りと理解は出来ているにも関わらず、
 自らの気持ちを表す言葉の選定だけ上手く行かないため、片言かたことになるのだろう」

いつのにやら少年の様子をうかがっていたらしいクロイツが、
ノシュウェルの表情を読み取って答えた。
加えてフェレンスが捕捉ほそくする。

「血に宿る魔力と瘴気しょうきの自身への影響は少なからず。
 発育や精神状態に支障をきたす例は、珍しくないので ... 」

となりの上役から、その真向かいへ。
視点をうつうなずいて返したのはノシュウェルだった。

「なるほど。初耳ですが、そういう事でしたか」

すると、自分のことを話していると気付いた少年が真後の部隊長を振り向き、
何を思ったか、ふくらませていたほっぺたを シュッ ... とすぼめて見せる。
機嫌が良くなったわけでは断じて無いが。

例によって、 (`・ω・´)キリリ  とした顔で良い子にしてるよアピール。

その後も、フェレンスとクロイツのやり取りは延々えんえんと続き。
ノシュウェルとひざの上の少年をはじめ、
兵士の何人かは、手りに寄り掛かるなどして身体からだを休ませていたが。

フェレンスのようにまぶたを閉じ、目を休ませるでもなく。
ギラギラとした眼差しでクロイツは語った。

「何はともあれ、アレセルの側をふくむ帝都の同胞どうほうと協議せぬまま、踏み込むことは出来ん。
 動けぬあいだは、せめて情報の整理をしておきたいが ... ...
 少年に対する我々われわれの格別な興味など、特にも知られては困る。
 血の判定が可能な調査員や錬金術師と引き合わせるわけにもかぬのだ」

前置きするのには理由があるようだが。

「しかし、フェレンス ... ... 貴様きさまだって曲がりなりにも
 高等錬金術師団所属の帝国魔導師なのだ。
 独自に判定を行うことくらい容易たやすかろう ... ?」

たずね方が、どこか白々しらじらしい。

「次に通過予定の宿場町しゅくばまちで宿を取ってやる。
 機材を広げられるだけの環境でさえあれば可能だな?」

丸い明り取りから降る差し日が、赤みをし。
壁面を上って天井に差し掛かる頃合い。

手脚を組んだ姿で見据えてくるクロイツに対し、
まぶたを開き視線を持ち上げるフェレンスの瞳はうつろ。

「少年の血に宿る魔力が如何程いかほどのものであろうと、興味など無いが... ... 」

無関心をあらわす彼のおも持ちは、実に冷やか。
だが、クロイツは引かなかった。

「アレセルの方は私達の狙いとはことなり、奴等やつらの動向にはまだうとい。
 貴様が協力しなければ、少年の問題性が伝わらず手打ちが遅れかねん」

フェレンスは、したがわざるをない。
そうと分かっているからこその余裕である。

「親しい人に危険が及ぶことだけは避けたい ... ... 」

すぐには答えられず。
彼は、のどからしぼり出すようにして発した。

「 ... ... ... 分かった。協力しよう」

多頭引き馬車オムニバスはやがて、山脈の彼方かなたへとぼっする日に別れを告げ、高原を下る。
カーツェルが気付いた頃には夜更け。
宿場町にて宿を取った一行が、食事を済ませ会話しながら自室に戻る足音で、彼は目覚めた。


少しのあいだ ... ぼやける視界。


大きめのランタンが置かれたテーブルを中央にして、
一方の椅子いすには少年。また一方には自身のあるじ

彼らをかこい設置された細身の燐青銅りんせいどう機器と、 
椅子に深くこしあしを交差し、末端たんまつを組み立てるフェレンスとをながめながら。
カーツェルは察する。

ところが身体からだを起こした途端とたん
前頭をつらぬく頭痛と強烈な吐き気を自覚し、胸元をおさえてシャツをにぎり込んだ。

「 ... ぅ! ... ... 」

れるうめきを聞いて、フェレンスは言う。

「点滴だけで、しばらく食していないのだから ... どうせ何も出ないだろうが。
 口に上がってきたらうつわに吐き出すといい。ソファーの下に置いた。お前のすぐ手元にある。
 それが嫌なら、横になって大人しくしていることだ」

作業中ゆえ、手元を見る視線だけは固定し水受けの位置を伝える。
すると、言われたそばから鳩尾みぞおちが波打って胃がひっくり返りそうになったので。
返事もせずに態勢を戻し、口元を手でおおった。

「 ムグ... ムグ ンム、ンン、ンム、ンムム ... 」

それでも何か言いたいようで、言葉にならない声を発しているが ... とても聴き取れない。
様子を見聞きしていた少年が、椅子を ピョンッ とはね下りてけ寄ったところ。
フェレンスの通訳が入った。

「 ... 〈いつかの二日酔いよりひでぇ... 〉 と、言いたいようだ」

ぇ 、今ので分かったの ?

目を丸めてフェレンスを振り向いた少年は、そう言いたげな顔をしている。

「 イ、ツカ?」

端的にたずねると、複数の部品を手に取り、手早く組み上げつつ答えるフェレンス。

「士官学校、卒業の日。多くは同時に成人を迎える。羽目を外して飲み過ぎたらしいな。
 遠征えんせいの任を終え、帝都収容先の修道院に居た私のもとへ
 夜、夜中、転がり込んだあと意識を失って。更に ... 丸一日、寝込んだ事があった」

それほど昔の話ではない。

明け方に手配された迎えの馬車にも乗り込めず、吐き気をもよおすなり
肩を貸す使用人のうでを振り払って引き返し、嘔吐えずく。

当時のカーツェルの青褪あおざめようが目に浮かんだ。

見ていると、フェレンスの口元がわずかにゆるむ。
その時、少年は、はたとしてカーツェルの方を見た。

すると、思った通り。

笑ってんじゃねーよ ... ... とでも言いたげにフェレンスをにらむカーツェル。

だが、そう言えば ... あの時も。
悪酔いし当て付けを言ってからんだ挙句あげくみ合いになったのだ。

思い返し、カーツェルは向き直る。
フェレンスは ... 気にしてなどいないようだが。
天井てんじょうを見つめ、何気なしにたずねてみた。

「なぁ、お前。 怪我けがはねーのかよ」
「無いな。 何故なぜそんな事を?」
「お前の ... 血の味がする ... ... 」

くちびるはししたの先でめ、再確認した。

忘れもしない魔ノ香まのか ... ...


   『てめー ... いい加減にはらくくれっつってんだよ!』
   『禁呪のなんたるかを知ってもなお、それを言うのか。あきれた奴だ ... 』


彷彿ほうふつとしてよみがえる記憶。

霧ノ病きりのやまいの発生にともない拡大する被害と混乱は、悪行に手を染めるやからの横行にも比例し。
世の中はすさむ一方。

士官学校を卒業したところで、何が出来る。
軍人として関わるだけでは力不足なのでは。

常々つねづね、思い悩んでいたのだ。

対してフェレンスは、力に執着しゅうちゃくする彼に言い聞かせてきた。
ひいでた力は関わった者の命運をも左右し。
時には悪意を植え付け、か弱き者を犠牲にする。

『十の内、一つの幸をもたらしめるに対し、九つの不幸をまねく法。
 〈制約の翠玉碑エメラルド・タブレット〉に禁忌きんきとしてしるされる由縁ゆえんだと、そう教えたはずだ』

ところが、カーツェルの考えはフェレンスの憂慮ゆうりょを打ち払った。

『世界中で魔物キメラが増殖してるって時に、何言ってんだ。
 一人を守るのに何十人、何百人と死ぬことだってある! 実際に見てきてんだろ!?
 結局、何も残らないなんてコトも ... ざらだったはずだ! なのに、まさか、お前 ... 
 不幸をう羽目になるヤツらと俺と、天秤にかけて考えてんじゃねーだろうな?』

別に、否定する気は無い。
むしろ、その通りだが何か不都合でもあるのかと、たずね返してやりたかった。
けれども意味深なふくみ笑いを見ながら、次の出方を待って一旦いったんは心にとどめておく。

修道院、敷地しきち一角いっかくもうけられた ... 古い公舎のすみとう

伝染病や精神病をわずらった者の隔離かくり施設の一つ。
それが、フェレンスに与えられた部屋だった。

一歩、ると。
彼は一歩、引き下がる。

距離を置こうとする相手を、岩積みの壁面がむき出しになった、そのそばまで追いやってでも。
言わねばならぬ。カーツェルは向き合った友人に対し、続けて、こう問い掛けた。

『なぁ、フェレンス ... 九つの不幸を恐れて、一つの幸ももたらせなかったとしたら、どうなんだ。
 何も残らなくても良い? そんな世界でも、都合よく ... ... 俺は存在してるのか?』

感情のうすかったフェレンスの心身に衝撃をあたえる言葉だった。

はるか地平線まで、白くてついた世界にただ一人。
とり残される光景が、フッ... と脳裏に浮かんで消える。

そもそも、正気を失った〈あの人〉の言う修正後の世界に、まさか自分が存在するとは思えないが。
いずれにせよ、幸福など見い出せるはずもない。

カーツェルはふところから短剣を抜き出し、
壁に当てたみずからの指のあいだに突き刺して続けざまにささやいた。

『俺ならとっくに覚悟は出来てんだ。何なら、今、証明してやろうか?』

やいば徐々じょじょに倒し、指の皮膚をわずかに切り込むと。
一筋の血が流れ、床に落ちる。
それを見て、初めて思いあらためたと言って良い。

『分かった ... ... 』

壁にせっするカーツェルの手の上を指先でなぞらえ。
てのひらおおい。彼はささやき返す。

『やって見せろ ... ... 』

意表を突く言葉だった。

自らの手と重なり合うフェレンスの手。
見ると、身体からだが小刻みにふるえだす。

手元から視線をそらし向き直れば。
ランタンの明かりを稍々やや下から受け、するどく見えてくるあおノ瞳。

を倒せば二人分の指が失われる。

まだ短かった黒髪の襟足えりあしついの手を滑り込ませ、首筋をでながら。
フェレンスは更に、こうべた。

『魔導兵としての契約をわす ... それはつまり、これと同じことを意味する。
 いいか。まだ猶予ゆうよはある。今一度、考えてみることだ。
 つるぎを折られた時、実際にくだけるのは、お前の右腕と私の精神。
 お前が命を落とせば、私の自我も崩壊するだろう。
 それでもと言うなら、後日、新月の夜に ... ... あらためて来なさい ... ... 』

硬直しきった手から短剣を抜き取ると、自身の指先を切り付け血を流す。
フェレンスの手がくちびるに触れ、口の中へ強引に指を差し込まれたところまでは覚えているが。
それ以外に記憶している事と言えば、その時、したの上に乗せられた血の香りだけ。

魔ノ香まのかい、意識を失ってしまったのだ。


明朝みょうちょういたり目が覚めるまでの記憶が一切いっさい、無いので言い切れないけれども。

症状は同じ。

あの時は、酒と魔ノ香まのかの酔いに打ちのめされ、ひどい寝覚めを経験したが。
今回なんかは自覚するなり酔がぶり返して視界が回りだすのだから、かつてのにならない。
カーツェルは昨日さくじつを思い返し、たずねた。

「あれはやっぱり、こいつの血が原因だったのか?」

ようやっとの一言。

言い切ったところで再び吐き気に襲われ、ソファーの背に向かいうずくまる。
それを見ていた少年は、ひじ置きがわから回り込んで背をではじめた。

「ツェ 、ル 、 ... ヨシ、ヨーシ ... 」 (´・ω・)ノ゛ナデナデ 

もう、これ以上しゃべると、本当に胃が引っ繰り返りそうな気がしたので。
カーツェルは黙って少年のふわふわな赤髪に手を伸ばし。
モシャモシャ とでくり回すかたちで、感謝を伝える。

 カチャ ... ...

 コツリ ... ...

 カラカラカラ ... ...

そのかんも機器の組み立てを続けていたフェレンスの手元から、
どこか聴き心地の良い ... 低めの金属音がしていて。
少年は時に、猫が目を細めるかのような表情を上に向け、耳をませた。

すると、またいくつかの器具、部品を取り付け順にテーブルに並べ終えたところで、フェレンスが答える。

「 ... その通りだ」


   第四等・柘榴石ガーネット

   第三等・薔薇輝石ロードナイト

   第二等・尖晶石スピネル

   第一等・紅玉ルベウス (ルビー)

   特等級・熾金剛石イグニス (レッドダイヤモンド)

 
「私の血を〈尖晶石スピネル〉に位置付けたなら、少年の血は〈紅玉ルベウス〉を上回る」
「だろうな ... 鼻先に感じ取っただけで意識がぶっ飛んだんだ。
 契約前の生身だったとは言え、お前の血を一滴、口にした時とは比べ物になんねーよ。
  ... ... ウプ... ゥゥ ... ォェ... 」

「無理をするんじゃない。 薬を作ってやろうにも
 必要な霊草ハーブいくつかが在庫切れだとリリィが言っていて、すぐには無理なんだ」
「 ... ウム、ムム ... !!」

「ツェ、ル、ナニ ? 」

「 ...〈分かってる〉だ、そうだ」
「 ウム、ムム ! (*・ω・*) ツェ、ル、イイコ!」

ナデナデ... ナデナデ...

「 ... ... ... 」

会話の途中に少年。そしてフェレンスの通訳。
背中をさすってくれている小さな手。
何だかくすぐったい。

カーツェルは再び黙った。
少年のあたえてくれるなごみが、酔いをまぎらわせてくれているので。
いっそこのままフェレンスの作業が済むまでのあいだ、もう一眠りしておこうかと思う。

いつまでもこんな情けない姿をさらしておくわけにはいかない。
顔向けすら出来ずにいる時点ではじ
せめて体調の悪さを顔に出さずに済むようになるまでは ... そう考えたのだ。

彼の背中にはクソ意地がにじみ出ているかのよう。
目を向け、フェレンスは微笑む。

手元に残る部品は、一つだけ。

組み込みが完了すると、カーツェルのそばに居た名も無き少年を呼ぶ。

「さて、設置は済ませた。
 これから、お前の血に秘められた魔力の判定を行う。 
 こちらへ来て、静かに席にきなさい」

自分のことだと理解して振り向いた少年は、瞳を キラキラ と輝かせフェレンスの元へ。
素足を ペタペタ とらしてけつける。
膝元ひざもとに来るのを見ながら、席はあちらだと手を差し向けるフェレンスは、
少しだけ困ったような顔をしていた。

ハッ としてぐ様に引き返す少年は、
まず椅子の手前に片膝かたひざを乗せ、じ登るようにしながら向きを変えて ペタリ と座る。

そうして顔を上げた。

温もりを感じるランタンのあかりをにじませ。
丸々と見開かれる瞳は、まるで月ノかがみ

その中に映し出されたの魔導師は、膝の上に置いた制御盤タブレットに手をかざし、すみやかに集中する。
 
 
 
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