【異端ノ魔導師と血ノ奴隷】

嵩都 靖一朗

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第一章◆異端ノ魔導師

異端ノ魔導師~Ⅰ

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の国は、滅ぼされた。


王族の多くは学者でもあったと伝えられる。
渓谷より大地を裂き。まるで彫刻でもほどこすかのように、白岩しらいわり出しては積み。
繊細で美しい都と城をきずき上げた彼のたみは... それを、はるか天空へはなったという。

当時の様子と思わしき、絵画かいが文献ぶんけんも数多い。
おだやかでありながら、栄華えいがを極めた国とも記された。

この世界において。

おそらく、その名を知らぬ者はいないだろう。

故国・シャンテ ... ... 
錬金術における禁を犯した、罪深き一族 ... ...


彼は、その子孫である。




しなやかな曲線を描きながら、銀色の髪をで、毛先をね上げる ... 風。
薄闇の降りはじめた空と、赤く燃えるような夕日にまる ... 雲。
赤と黒のコントラストを一面にたたえた荒野。

その中心に佇むシルエットは、たけよりも随分ずいぶんと長い杖を振るい下ろした。

例えるなら、死神のかま

黒檀こくたんの柄にアラベスクをまとう彫り。
禍々まがまがしい装飾など一切ないが、
銀の宝冠の一部がなかばまで至り刃を立てているようにも見受けられる。
形状に付す印象。

戦地を巡る日々。

仮にも彼は、帝国魔導師。

その名と功績を記録され、報奨金までられる身分だが。
彼のあつかう魔術は特殊であるがため。
こうして、死霊しりょうなおも去らぬ土地をおとずれては、定期に儀式をり行うのだ。

「カーツェル。 すまないが、陣を踏んでいる。 もう少しだけ向こうへ」
「ん?  ああ ... これはこれは、失礼いたしました ... ...  と」

足元を見たところで陣など確認できない ... が、まぁ、こんなものか。
カーツェルは数歩、余分に後ろへ下がり。
棒きれを地面について両の手のひらを掛ける。
後ろで束ねた癖のある黒髪が風に揺らいだ。

杖で地を指したまま身動みじろぎ一つせぬシルエットは、
対の手に携えた一枚の古紙を風に託し。
魔法陣の描かれたそれは操られた風に乗って、ふわり ... ひらり ... 空へと昇る。

すると、あいた手の人差し指。
黒手袋の上に通された指輪が煌めいて、一定量の魔力が解き放たれた。

むらさきあおあか... 妖艶ようえんな色彩をびて入り組む閃光。

輝きをまとった銀髪を振るいなびかせ、杖を掲げる.. 彼の一挙一動はりんとして美しく。
深く伏せていたロイヤルブルーの瞳が見開かれると、
上等のサファイアと見紛みまがう瞳の光彩が、魔力の荒ぶりただちにしずめた。

そして力強く大地に杖を立て、彼はささく。
光に呪文を読み聞かせるようにして。

またたく間の出来事である。
古紙をとららえた光が、幾重いくえもの輪と幾何学きかがく文様もんよう
更には法語、印文をかたどりながら広がり、
たちまち同図形を展開していった。

見上げれば、それはまるでオーロラ ... ...
奇怪な文様が、ゆらゆらとからみ、踊るよう。
宵闇よいやみと虹色を合わせ、星を透かす魔法陣だ。

彼に聞くところの魔法陣それとは、所謂いわゆる... 方程式や図面。
錬金術の手順書、あるいは実行基盤きばんのようなものらしい。
他にも、支援的効力をその場に残す宿印しゅくいんとする用途もあるとか何とか。

感覚的にしか飲み込めないが。
理解など出来ずとも、この美しさだ ... 眺めていてきない。

しかし、完美な演出はここまで。

カーツェルは一歩、二歩、更に距離を置き、わずかにうれう瞳を、そっと伏せた。


   魔術と錬金術は部類が異なる。
   万物、生命、精神、神秘、
   それぞれに属する基質エリクシールを解き、変成することで、
   より完全なもの、新しきを生み出す。それが錬金術であり。

   魔術とは、変成した物や現象に魔力を注ぎ足すことにより、効果や質量を増幅させ、
   破壊、もしくは支援的作用をもたらしめる法である。

   錬金術を扱える者、皆が皆、魔導師になれるわけではない。

   戦闘、および支援にる魔力を、その血に宿した者のみ。
   魔導師としての資格をることが可能であるのだと。

   彼は言う。

 
美しかった陣が、表を返して赤黒く燃え上がった。
神秘の基質エリクシールを解いた彼が、光跡に炎を宿したのだ。

高い丘を登り、振り返るカーツェルは、
丁度 目の前に燃え広がるそれが、大地に叩きつけられる様子を眺めていた。
黒髪をなびかせる風にあおられ、火の粉が舞う。

目の前を過ぎる間。
灰と化し、ちりとなり、やがて消え。

大地に黒く焼き付いた魔法陣は、一時いっときの静寂の後。 
青白い冷気を漂わせはじめた。

   無念の死をげた魂の ... ... 尽いぬ悲痛の声が聴こえるか ... ... 

大地に染みた血をあぶり、浮きあらわれた魔力。杖を振るい束ねる彼の呪文詠唱うたよみ
足元までおおうローブをひるがえし、かざされる左手。
銀の指輪にめ込まれた赤い魔石に集約されていくそれは、膨大な質量だった。

複合錬金による、魔力採取の儀。

それは、本来ならば錬金術における制約に反するものである。
現在は特別に認可されることもあって、彼がその一例だが。
いまだ異端審問会の議題にがり、認可を取り消すべきとの反論はえない。

 
彼は、 異端ノ魔導師  であると ... ...


儀式を終える頃ともなると。日はもう、西の彼方にぼっしている。
ランタンに火をともし、丘を降りたカーツェルは、新月の夜下よもと
わずかな星明かりの中、焼け跡の中心で杖うつろにたたずむシルエットを照らし出した。

「いつまでそうしてるんだ。さっさと宿を探しに行こうぜ... フェレンス」
「ああ ... そうだな ... 」

名を呼ばれ、シルエットは答えた。
しかし、その時だ。
旋律せんりつが走る。

カーツェルの瞳に、音もなく忍び寄った巨大な影が映り込み、
フェレンスに襲いかかろうとしていたのだ。

   そもそも、技能、知識、血の魔力、
   共に優れていて魔導師の称号まで得る彼が、
   異端に問われてまで余分に魔力を確保する ...
   その必要性とは何なのか ... ...

理由はそう。ただ一つ。
先にもべている。

彼の扱う魔術は ... 特殊なのだ ... ...

魔物キメラのご登場だ! フェレンス!!」

叫び放ち即座にこぶしを握り構えるカーツェルに対して、フェレンスは視線を伏せた。        
指輪を杖に添えるようにして、魔力を込めるあいだ
喰らいつこうと大口を開け、裂けた魔物の口元からグチャグチャと飛び散った腐肉が、たちまち凍りつく。

   それに触れた者は凍傷を負い、打ち砕かれるのだ。
   術者の周囲は真冬のようにてつく寒さに包まれ、雪さえ漂うだろう。

    シャンテの奇術に触れた文献ぶんけんの、とある下りである。

魂魄ファントム召喚 ... ...

「シャンテの死霊の中でも彼は特に気が短い... 
 竜騎士団の英雄だった男の一撃、受けてみるか?」

 それは、フェレンスが異端ノ魔導師として審問にけられ、
人々にみ嫌われる ... もう一つの要因であった。


蒼き死霊の槍が、形もさだまらぬ魔物をつらぬく。
 
 
 
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