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第94話 事の収束

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 「じゃぁ俺の方から説明すると……」とマサキが口を開くと三人の視線が一気に集まった。
(そ、そんなに注目すんなよ……照れるだろ……?)

「と、取り敢えず……かくかくしかじかでこうなった。」
 と眼を泳がせながらマサキそう言ったのである。

「ええっ~?」
「は?」
「ん?」

 ティナを始め、スチュアートとアリシアもマサキの突拍子も無い発言に呆気に取られ、皆一様に動きが止まったのだった。

 「だ、だから、かくかくしかじかでこうなった。」

 続けてマサキは冷や汗をドバドバかきながら、同じ文言を繰り返す。

 スチュアートとアリシアはそんな無謀な光景を目の当たりにして、自分等は一体どうすれば良いんだろうとアタフタするより他、術が思い付かないでいたのである。 

 「なにそれ?どういう事なの?」

 最初は、真剣にマサキの話を聞こうとして居たティナも、いつしかジト目になり、いい加減にしてと言わんばかりに、口調がワンオクターブ下がったのだった。

 「か、かかかかくかくしか…………」

 これ以上はヤバいと脳内に警報が鳴り響居ていたのだが、先の誤った情報から大抵の場合、これで通じる筈!と踏んでいたマサキの読みは甘かったのである。
(やっぱ、コレが通じるのはアニメや漫画の世界だけかよっ!)

 「マサキ……もう良いから。真面目にちゃんと話して。」

 ティナは抑揚の無い、淡々とした口調でマサキの言葉を遮った。
 そして、 ティナの口調が変わった事で、先程まで和やかだった空気が、一気に張り詰めた空気へと豹変したのであった。
(スチュアート!アリシア!良~く見とけよ!めっちゃティナ怖いだろ?嘘じゃ無かったろ?!) 

 「いや、空気読んで理解してくれよ…」

 とマサキは、敢えて能天気にとんでもない事を口にしたのだった。

 「いやいや、マサキ、おかしいでしょ何言ってんの?」

 ティナはベッドからゆっくり立ち上がり、言葉の端に怒気を含ませて話したのである。

 そんな光景を、固まりながら端で傍観しているスチュアートとアリシアは、何かを言おうとオロオロしたり、ハラハラするばかりであった。

 「いや、全部説明すると文字数ばっか増えて、話が全然進まないから!」

 とマサキは突然意味不明な事を言い出したのだった。

 「何?文字数?何それ……言いたい事があるなら、はぐらかさないでちゃんと説明してよ。」

 何かを悟ったのか、ティナは怒る訳でもなく、諭す様に言葉を選んで会話を続けたのだった。

 緊張がピークに達したのか、いよいよ見てられないと思ったのか、ハラハラしながら傍観していたスチュアートは急に席を立ち上がり、ティナとマサキのやり取りに口を挟んだのである。

 「わ、私から説明させて頂きますと、昨日はクラタナさんとティナさんの緊急招集訓練と護衛任務の訓練が予(かね)てから計画されていました。それで私は昨晩此方に伺った訳です。」

 「はい。それは護衛の方から聞いてます。」
 ティナはスチュアートの方へ向き直り話を聞く体勢を作った。

 「ははっ……本来は作戦の事は他言無用なのですが……まぁ取り敢えず、今はその話は置いて置いて、当初と言いますか、最初の予定はクラタナさんと一緒にギルドに向かい、待機中の他の隊員と昨日の訓練内容のディスカッションや、今後のモアの運用等を話し合う事になっていました。」

 スチュアートはかなり緊張した面持ちで、身振り手振りを添えて説明シている。

 「ええ、それも詳しくでは有りませんが、下に居た護衛さんから聞いたように思います。」

 「そうですか……そ、それで…ここからが違う話しになって来るんですが、私の独断と偏見で予定を変えて、クラタナさんにはギルドへは行かずホテルへ行って貰いました。」

 「は、はい。」

 予想だにしなかった言葉がスチュアートから発せられ、ティナは一瞬身体を強ばらせた。

 「クラタナさんとティナさんは昨日本屋に行かれたそうで、本屋では別行動を取られたと伺っております。」

 「はい。」

 じっと瞳を動かさずに、食い入るように耳を傾けるティナ。

 「その本屋で、クラタナさんに関するちょっとしたトラブルがあったとジェニファーから伺いました。思い当たる節がティナさんにも有るかと思います。」

 「あ!あ~……あ~……例の本……の事ですよね?」

 ティナはハッと昨日の事を思い出し、慌てる様に視線を空に泳がせた。

 「ええ、合ってます。それで午後の会議はクラタナさんが荒れていたので、どうしたんだろうと私がティナさんに聞いたの……憶えていますか?」

 とスチュアートは少し落ち着いて、確認する様にティナに問いただしたのだった。

 「ああ……憶えてます。」

 (あれ?何か端から見てると証人喚問みたいだな……)

 「一応、まだ正式な所属にはなっていませんが、クラタナさんもティナさんも会議に出ていただく以上、他の隊員の手前もあるので、クラタナさんには一度態度を正して頂く、と判断した為にある約束をしました。」

 と身体を横に向け手を後ろで組み、直立不動で淡々と説明をしているスチュアートである。

 「約束?ですか……」

 「ええ。まぁ、その約束とは、私共が例の本を用意すると言った物だったんですが、他の隊員から事前に話を聞いていた為……少々こんな事を皆さんの前で言うのはナンですが、クラタナさんは「欲求不満」なんじゃないのかと私達は思ったんです。あ、私達と言うのは自分の他にスミスとアクセルです。」

 スチュアートは超真面目に語ったのである。

 「異議ありっ!」

 と黙って聞いていたマサキは、突然手を挙げて怒鳴った。
 (な、ななななんて事言い出しやがるんだコイツ!おまっ!)

 「ぶふぉ!」
 「ぷぷぷ……」
 
 スチュアートのとんでも説明でリアクションは三者三葉である。

 「まぁそれで、三人で、あ、クラタナさん達が帰った後ですよ。話し合った結果、ティナさん以外の女性と少し話でもすれば、治まるんではないかと云う結果にその場では落ち着きました。」

 (ちょちょちょ……モウヤメテ……変な事言うのやめろし!)

 「は、はあ……」

 ティナジト目でマサキを一瞥する。
 そしてアリシアは俯き、聞いてはいけないような事を聴いてるんではないかと錯覚を起こして真っ赤になってしまったのだった。

 「そこで、その日に行われる緊急招集訓練の計画を少し変更して、クラタナさんには、本の受け渡しという名目でホテルに行って貰いました。当然、我々が勝手に行った事なので、クラタナさん本人にしてみれば、例の本を渡されると思って居たと推測できます。」

 「はぁ……そ、それで?」

 欲求不満、エ○本等の言葉が出てきた為、何となく察しが付いたのか、ティナは脱力してスチュワートの話に耳を傾けていた。

 「クラタナさんの好みは、その本の時に伺って居たので、急遽その準備と、それに見合う人材を探した所、該当するクラタナさんの好みはアリシアなんじゃないのかと、満場一致しました。あ、準備とは【 メイド服 】を手配したり、アリシアにサイズを合わせたりとかそんな感じの事です。そして、クラタナさんと私がホテルに着く前に、彼女には【 メイド服 】を着てもらって部屋で待機してもらいました。彼女に関する情報も事前に入手していたので総合的な判断からです。」

 (お、おいおいおい…スチュアートよ………そこでメイド服の説明いるか?要らんよな?しかも強調してるし……何かのプレーか?これ。)

 「え、え?よく分からないけど、欲求不満のマサキを抑えるためにアリシアさんと夜のホテルで密会させようとした、って事ですか?てかメイド服?なにそれ……」

 呆れたと言わんばかりにティナは頭を降って、スチュアートのそれに答えたのだった。

 「その通りです。が、これは私の経験不足から来た事で、そんな事をすれば、ティナさんとアリシアの関係が悪くなってしまうなんて事も、その時は気付きませんでした。申し訳ありません。コレは今朝クラタナさんに注意を受けて、身につまされる思いで教わった事です。本当に申し訳ありませんでした。以後この様な事はしませんので理解して頂けると幸いです。」
 
 と言うとスチュアートは直角に腰を曲げてティナに謝罪をしたのである。

 「…………なるほど、理解しました。」

 訝しげにスチュアートを見るティナであったが、小さくため息を吐いて目を伏せた。

 「テ、ティナさん私からもお詫びするです。申し訳ありませんでした、です。幾ら命令だからと言ってティナさんに誤解を招く様なことをしてしまって………本当にごめんなさいです。でも………ティナさんには本当に申し訳無いのですけど、クラタナさんには、色々沢山お話を聞いてもらいました。本当に感謝しているです。それに私が言うのはおかしいのですが、疚(やま)しい事は一切無かったです。絶対です!クラタナさんにも迷惑掛けてごめんなさいです。」

 アリシアは立ち上がり、ティナに向いてペコッと頭を下げたのだった。

 そんな様子を見ていたマサキは、場の収集をするべく

 「まぁ、結局は俺が原因なんだし、スチュアートは俺の為にやってくれた事で、アリシアも命令を受けて行動しただけとは云え、結果的に俺の為にやった事だから、彼等を許しては貰えないだろうか?俺も軽率な行動をして申し訳無かった。」
とティナに謝罪をした。

 「そんな事言ったって、許すも許さないも……どうも出来ないじゃない。」

 マサキは下げていた頭を上げ、スチュアートとアリシアの想いを代弁するかの様に話を続けた。

 「まぁ、そうなんだが、本当はと言うか、ティナが勘違いをしてた時点……違う情報を教えられて、それを信じていた時点で、それに乗っても良かったんだよ。そうすればこんな事にはならなかっただろうし。でも嘘をついたまま、関係を継続させるのは良くないと思ったから……自分等が苦境に立たされるのも承知で正直にティナに話したんだ。これから顔を合わす機会も増える事だろうし。負い目があるとどちらも疑心暗鬼になるだろ?だから本当の事を二人が言ったってのは評価して欲しい。気持ちじゃどうもならん事が有るのはよく理解してる。何を今更言ったってティナにとっては言い訳にしかならんのも解ってる。」
 とマサキは目を伏せて静かに言った。

 「………………マサキはズルいよ……そんなの聞いたら許すとしか言えなくなるじゃん!」

 「いや、良いんだ、もし許せないのであれば今はそれで、意図してやった訳じゃ無いにしろ、結果的にティナにそう思わせる様な事をしたのは事実だから……今後は回復に勤めるだけだよ。」

 緊張の中、マサキは齟齬が生まれないように慎重に話したので、喉がカラカラだった。そして、ティナの煎れてくれたコーヒーを飲み、少し心を落ち着かせた。

 時が止まったかの様な沈黙が支配する中で、マサキはそっと窓際に行きタバコに火をつけた。
 昨日からの懸案事項を、紆余曲折有りながらもティナにカミングアウト出来た事により、一気に緊張が解れ、大きなため息と共に外に向かって煙を吐き出したのである。

 長い沈黙の中、ティナは何かを吹っ切るように沈黙の帳を降ろしたのである。

 「もう良いよ。実際全然良くはないけど……こんな事を聞かされて、直ぐにどうこうとは出来ないし……許すも許さないも無いよ。でも、二人とも、正直に話てくれてありがとう。」

 どう云った審判が、ティナからくだされるのか、ドギマギしていたスチュアートとアリシアであったが、ティナのそれを聞いて安心したのか、大きなため息と共にヘナヘナと椅子に座り込んでしまったのだった。

 (と、取り敢えず……危機は脱した……どうなることやらと思ったけど、昨晩のアリシアの言葉、グッジョブだな……怖かったけど信じて良かったわ……)


 そして、色々な思いが交差する中、取り敢えず今回の事は一件落着して、スチュアートとアリシアはペコペコと何度もお辞儀をしてギルドに戻って行ったのであった。
    
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