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真の悪役令嬢になります! ペーター②
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屋敷に戻ったフィリップは、父親であるカイザーに事の顛末を報告した。
「聖女の死により、聖堂内には入れず、ルルの安否は不明か……」
コツコツとカイザーの指が机を鳴らす。
「で、埋められていた遺体はアビゲイル嬢で間違いないのか?」
「おそらくは。腐敗が進んでいるのと、本人とは面識がなく、見掛けたことがある程度であるだけなので確信は得られませんが、妹のアンジェラ嬢とよく似ていました」
「そうか。で、遺体の方は?」
「布で包み、持ち帰ってきております」
「わかった。後はこちらで何とかしよう」
フィリップは頭を下げ、執務室から退室した。
(ルルは本当にどこへ行ってしまったんだ……)
御者は確かにルルが死んでいたと言うし、だからといって死体が勝手に動き出すわけない。持ち去られたことも考えられるが、理由が見当たらない。それに御者がルルの死体を放り出した理由を「嬢ちゃんがしゃべった」と言っていた。気のせいだと思うが、もし生きていたとしたらどこへ向かったのか。
ふと、町で見掛けたアビゲイル嬢を思い出した。
フィリップは頭を振る。
あの時、すでにアビゲイル嬢は土のなかにいた。他人の空似というやつだ。だが、雰囲気はルルそのものだった。
(いや、まさか……。でも、待てよ……)
ルルは面倒なことに巻き込まれやすい。ましてや思い切りがよすぎて、突拍子のない行動をすることがある。しかも、それを止めてくれる人がいない。
フィリップの背中にイヤな汗が流れた。
本当に面倒な妹分を持ったと思う。
重要な点は『聖女の死』
聖女が現れる要因のひとつとして、聖女の死がある。もし、ルルが次の聖女となったとしても、死んだ聖女と同じ治癒の力を授かったとは思えない。ルルならば、アビゲイル嬢のことも鑑みると……
(死んだ人の生き写しになれる力とか、か?)
そんな神聖力など聞いたことも見たこともない。だが、ルルならばあり得るのではないかと思ってしまうところが怖い。
(だとしたら!!)
フィリップは執務室へ駆け戻った。先の報告で省いた、町で見かけたアビゲイル嬢の事と、ルルが神聖力を授かった仮定の話を聞いてもらう。
「もし、ルルがアビゲイル嬢になりすましていたとしたら、ウィリアム殿はいい気がしないだろうな」
「ええ、そうだと思います。もしかしたらルルがキャンベル家に潜り込んでいる可能性も……」
「ありそうなのか……」
「たぶん……」
カイザーは頭を抱えた。
「早くアビゲイル嬢の遺体を引き渡したいところだが、下手をするとルルが遺体となって返されるかもしれないな……」
執務室に沈黙が訪れた。
「アビゲイル嬢の引き渡しは少し延ばそう。その間に、キャンベル家にルルが潜んでいないか調べてこい」
「はい!」
フィリップは返事をして出掛けると、真っ直ぐキャンベル家の近くまでやってきた。だが何の連絡も、理由もなしに突然訪問するわけにはいかない。アビゲイルとは面識がないし、だからといって何かにつけて接触してくるアンジェラには会いたくない。
困ったフィリップは、数人の使用人にキャンベル家の様子を監視しておくよう指示し、自分はキャンベル家にほど近い喫茶店で情報を集めることにした。もしかしたらキャンベル家に仕える者が休憩がてら立ち寄って、ポロリと家の中のことを話すかもしれないからだ。
(あれは……)
入ろうとした喫茶店の窓から、見覚えのある色が見える。プラチナ色のウェーブかかった髪、アンジェラだ。向かいの席に座るのは、
(ラッセル家の嫡男か? 確かサイラス……)
ふたりは笑みを交わしながら、おしゃべりを楽しんでいる。
(姉の婚約者に襲われて、貞操の危機ねぇ……)
呆れ返ったフィリップだったが、あることに気がついた。
(彼はアビゲイル嬢の婚約者だ。もし、ルルが仮説通り、アビゲイル嬢と入れ代わっていたら、ルルは彼と結婚するのか!?)
フィリップはなぜか胸騒ぎを覚えた。胃の辺りがムカムカしてイライラする。
フィリップは付き添ってくれていた使用人に会話の内容を探っておくよう伝え、自分は屋敷へとんぼ返りした。
「聖女の死により、聖堂内には入れず、ルルの安否は不明か……」
コツコツとカイザーの指が机を鳴らす。
「で、埋められていた遺体はアビゲイル嬢で間違いないのか?」
「おそらくは。腐敗が進んでいるのと、本人とは面識がなく、見掛けたことがある程度であるだけなので確信は得られませんが、妹のアンジェラ嬢とよく似ていました」
「そうか。で、遺体の方は?」
「布で包み、持ち帰ってきております」
「わかった。後はこちらで何とかしよう」
フィリップは頭を下げ、執務室から退室した。
(ルルは本当にどこへ行ってしまったんだ……)
御者は確かにルルが死んでいたと言うし、だからといって死体が勝手に動き出すわけない。持ち去られたことも考えられるが、理由が見当たらない。それに御者がルルの死体を放り出した理由を「嬢ちゃんがしゃべった」と言っていた。気のせいだと思うが、もし生きていたとしたらどこへ向かったのか。
ふと、町で見掛けたアビゲイル嬢を思い出した。
フィリップは頭を振る。
あの時、すでにアビゲイル嬢は土のなかにいた。他人の空似というやつだ。だが、雰囲気はルルそのものだった。
(いや、まさか……。でも、待てよ……)
ルルは面倒なことに巻き込まれやすい。ましてや思い切りがよすぎて、突拍子のない行動をすることがある。しかも、それを止めてくれる人がいない。
フィリップの背中にイヤな汗が流れた。
本当に面倒な妹分を持ったと思う。
重要な点は『聖女の死』
聖女が現れる要因のひとつとして、聖女の死がある。もし、ルルが次の聖女となったとしても、死んだ聖女と同じ治癒の力を授かったとは思えない。ルルならば、アビゲイル嬢のことも鑑みると……
(死んだ人の生き写しになれる力とか、か?)
そんな神聖力など聞いたことも見たこともない。だが、ルルならばあり得るのではないかと思ってしまうところが怖い。
(だとしたら!!)
フィリップは執務室へ駆け戻った。先の報告で省いた、町で見かけたアビゲイル嬢の事と、ルルが神聖力を授かった仮定の話を聞いてもらう。
「もし、ルルがアビゲイル嬢になりすましていたとしたら、ウィリアム殿はいい気がしないだろうな」
「ええ、そうだと思います。もしかしたらルルがキャンベル家に潜り込んでいる可能性も……」
「ありそうなのか……」
「たぶん……」
カイザーは頭を抱えた。
「早くアビゲイル嬢の遺体を引き渡したいところだが、下手をするとルルが遺体となって返されるかもしれないな……」
執務室に沈黙が訪れた。
「アビゲイル嬢の引き渡しは少し延ばそう。その間に、キャンベル家にルルが潜んでいないか調べてこい」
「はい!」
フィリップは返事をして出掛けると、真っ直ぐキャンベル家の近くまでやってきた。だが何の連絡も、理由もなしに突然訪問するわけにはいかない。アビゲイルとは面識がないし、だからといって何かにつけて接触してくるアンジェラには会いたくない。
困ったフィリップは、数人の使用人にキャンベル家の様子を監視しておくよう指示し、自分はキャンベル家にほど近い喫茶店で情報を集めることにした。もしかしたらキャンベル家に仕える者が休憩がてら立ち寄って、ポロリと家の中のことを話すかもしれないからだ。
(あれは……)
入ろうとした喫茶店の窓から、見覚えのある色が見える。プラチナ色のウェーブかかった髪、アンジェラだ。向かいの席に座るのは、
(ラッセル家の嫡男か? 確かサイラス……)
ふたりは笑みを交わしながら、おしゃべりを楽しんでいる。
(姉の婚約者に襲われて、貞操の危機ねぇ……)
呆れ返ったフィリップだったが、あることに気がついた。
(彼はアビゲイル嬢の婚約者だ。もし、ルルが仮説通り、アビゲイル嬢と入れ代わっていたら、ルルは彼と結婚するのか!?)
フィリップはなぜか胸騒ぎを覚えた。胃の辺りがムカムカしてイライラする。
フィリップは付き添ってくれていた使用人に会話の内容を探っておくよう伝え、自分は屋敷へとんぼ返りした。
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