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第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど

幕間:聖都の戦い その後①

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~戦いを続ける第四魔王とクラウス~


 第四魔王の振るった剣の直撃を受けて、クラウスは吹き飛んだ。周囲は戦いの被害をもろに受けて、聖都の白亜の建造物が破壊されている。
 汗にまみれた顔を上げたクラウスは赤い眼を揺らせた。金色の髪は汗と血に汚れて力なく風に流れる。

 ──さすがに力の差が……。

「いい加減、消えろ!」

 顕現けんげんした第四魔王が迫って、魔力の刃を飛ばした。
 満身創痍の身体を動かして、クラウスが防護魔法をぶつけると、魔力の刃が四散する。次の一手で、クラウスの足が後ろ足を踏んだ。その機を第四魔王が逃すはずもなく、巨大な鈍色にびいろの身体が切っ先を向けて突進した。
 一歩後退したクラウスが手にした剣に魔力を乗せて斬撃を飛ばす。第四魔王の剣と右腕の一部が切断されて弾け飛んだ。

「しつこい!」

 第四魔王が叫びながら、急速に腕を回復させて剣の破片を投げつける。身体を仰け反らせてそれを回避すると、クラウスは防護魔法を何重にも重ねて第四魔王を取り囲んだ。その隙にクラウスは簡易転移魔法で距離を取った。

 一瞬だけ戦いの領域から離脱したクラウスがひと息ついたその瞬間に、天高くから石柱が降り注いで柵のように彼を取り囲んだ。すぐに勢いよく地面に降り立ったのは龍王ダレンサランだった。

   ***

 エラトゥとボルボリがメスタ周囲の森林地帯に逃げ込んだのを見送って、ダレンサランは追うのをやめてメスタの方へ顔を向けた。

「メスタへ行け。上空で侵入者を排除するんだ」

 シグニのその言葉がダレンサランの魂に刻み込まれていた。
 シグニの化物として造り出されたダレンサランは、彼の手足となって忠実に動き続けてきた。だから、聖都から遠ざかる二人の狼藉者ろうぜきものを追う意味などなかった。

 予期しなかった攻撃で翼をひとつもぎ取られてしまったが、魔力で飛翔できるダレンサランにとっては翼は飾りのようなものだった。

 聖都の塔群の方で爆発音が響き渡る。煙が立って、いつの間にか聖都を覆う隠蔽魔法も消失していた。
 ダレンサランはギリリと歯を噛み締めて聖都へ舞い戻った。

   ***

 クラウスの斬撃が石柱の牢獄を破壊したのと、第四魔王が飛来してきたのは同時だった。

「目障りな奴が増えたな」

 第四魔王がそう呟いてダレンサランを睨みつける。クラウスは剣を構えながらも、隙を見て、いかにしてこの場を退却するかに頭を働かせていた。
 突然、クラウスの身体を囲むように複数の光の輪が現れる。ダレンサランが拳を作ると、光の輪がギュッとクラウスの身体を締めつける。咄嗟のことで反応が遅れたクラウスは自由を奪われてしまった。

「くそっ……!!」

 思い切り力を込めて拘束を解こうとするクラウスだったが、ダレンサランが腕を振るうと魔力によってクラウスの身体は第四魔王に向かって急加速する。そのまま投擲とうてきされたクラウスが第四魔王にぶち当たった。第四魔王も予期せぬことに回避できなかったのだ。
 折り重なるように倒れる二人へ向かってダレンサランが手を伸ばすと、破滅的な魔力の流れが無数のつぶてはらんで襲いかかる。破砕魔法だ。

「邪魔だ!」

 第四魔王はクラウスを蹴飛ばして破砕魔法の奔流ほんりゅうを回避して、ダレンサランへ向けて天空から巨剣を飛ばした。轟音がして剣が着弾する。突風と土煙が上がるが、その中心でダレンサランが巨剣の切っ先を片手で受け止めていた。

「なんなんだ、お前っ!」

 ダレンサランへ怒りに燃えた眼を向ける第四魔王だったが、ハッと我に返ったようにクラウスがいた場所に鋭い視線を投げた。
 すでにクラウスの姿はなかった。

「お前が邪魔するから、あいつ逃げただろ!」

 子どもっぽい怒号をダレンサランへぶつける第四魔王だったが、相手は明後日あさっての方向を見つめていた。

「おい、聞いてんのか!」

 手のひらに魔力を集中させる第四魔王を一瞥すると、ダレンサランは彼方の空へ向かって飛び立ってしまった。

「なんなんだよ……」

 第四魔王は顕現を解いて溜息をついた。急に訪れた静かな時間に、彼女は冷静さを取り戻す。ハッと聖都の塔群へ目を向ける。壁に大穴の開いた場所を見上げて、第四魔王は現実に引き戻される。

 ──アーガイルが、死んだ。
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