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第3章 この世界が思ってた以上にやばかったんですけど
幕間:運命の太刀
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~浴場にて~
「ふむ……これは……」
真剣な表情のイヅメ。
「なかなかでしょう?」
そばにはファレルの得意げな顔がある。
「気持ちが良い……」
イヅメは緑白色の湯に身体を浮かべてうっとりと天井を見つめた。
「名だたる軍人たちもここで身体を癒したといわれているんです」
ファレルは知っていた。イヅメの毛で覆われた獣の身体には無数の傷が刻まれているということを。
「あの……、どんな戦いを経てきたんですか?」
イヅメはじっと天井を見つめながら、答えあぐねている。ファレルは取り繕うように乾いた笑いを漏らす。
「まあ、言いたくないならいいんですけどね」
彼の瞳はイヅメが腹の上に置いたままにしている太刀に向けられる。
「あの、その剣、外に出しておいた方がいいんじゃないですか? ダメになっちゃいますよ」
「お主、意外と遠慮なく間合いを詰めてくる奴だな」
ついさっきも第七魔王に同じことを言われて、ファレルは自覚があるのかないのか、首を傾げた。
イヅメは湯船の底に腰を下ろして、湯の中から太刀をザブリと持ち上げる。鞘から青銅の色をした刀身を引き抜いた。
「千々秋月は不滅の太刀だ。錆びることも折れることも朽ちることもない」
「変わった名前ですね」
「伝説によれば、世界を統べる山の頂に突き立っていたらしい」
「ずっと肌身離さず持ち歩いてるんですか?」
「祓手が儂に相応しいと託して下さったのだ。それ以来、ひとときも離したことはない」
ファレルは緩やかに湾曲する刀身に目をなぞらせると、またしても質問を繰り出した。
「それであのお二人と旅をしてきたんですか?」
「出会って長くはない。得体の知れぬ縁というものだ」
イヅメにとっては、藍綬も第七魔王も初めは敵対する相手だった。それが今では行動を共にしている。
イヅメは千々秋月を掲げてまじまじと見つめた。
──これがなければ、儂はここに辿り着くまでに息絶えていただろう。これが儂をここまで導いてきたのだ。
「僕は聖都騎士隊ってところにいたんですけど」ファレルが徐に口を開く。「そこの隊長も自分の愛剣を眺めながら夜な夜なお酒をちびちびやってましたよ」
イヅメがギロリと鋭い視線を投げつける。
「一緒にするな」
「け……、剣を向けないで下さい……!」
「ふむ……これは……」
真剣な表情のイヅメ。
「なかなかでしょう?」
そばにはファレルの得意げな顔がある。
「気持ちが良い……」
イヅメは緑白色の湯に身体を浮かべてうっとりと天井を見つめた。
「名だたる軍人たちもここで身体を癒したといわれているんです」
ファレルは知っていた。イヅメの毛で覆われた獣の身体には無数の傷が刻まれているということを。
「あの……、どんな戦いを経てきたんですか?」
イヅメはじっと天井を見つめながら、答えあぐねている。ファレルは取り繕うように乾いた笑いを漏らす。
「まあ、言いたくないならいいんですけどね」
彼の瞳はイヅメが腹の上に置いたままにしている太刀に向けられる。
「あの、その剣、外に出しておいた方がいいんじゃないですか? ダメになっちゃいますよ」
「お主、意外と遠慮なく間合いを詰めてくる奴だな」
ついさっきも第七魔王に同じことを言われて、ファレルは自覚があるのかないのか、首を傾げた。
イヅメは湯船の底に腰を下ろして、湯の中から太刀をザブリと持ち上げる。鞘から青銅の色をした刀身を引き抜いた。
「千々秋月は不滅の太刀だ。錆びることも折れることも朽ちることもない」
「変わった名前ですね」
「伝説によれば、世界を統べる山の頂に突き立っていたらしい」
「ずっと肌身離さず持ち歩いてるんですか?」
「祓手が儂に相応しいと託して下さったのだ。それ以来、ひとときも離したことはない」
ファレルは緩やかに湾曲する刀身に目をなぞらせると、またしても質問を繰り出した。
「それであのお二人と旅をしてきたんですか?」
「出会って長くはない。得体の知れぬ縁というものだ」
イヅメにとっては、藍綬も第七魔王も初めは敵対する相手だった。それが今では行動を共にしている。
イヅメは千々秋月を掲げてまじまじと見つめた。
──これがなければ、儂はここに辿り着くまでに息絶えていただろう。これが儂をここまで導いてきたのだ。
「僕は聖都騎士隊ってところにいたんですけど」ファレルが徐に口を開く。「そこの隊長も自分の愛剣を眺めながら夜な夜なお酒をちびちびやってましたよ」
イヅメがギロリと鋭い視線を投げつける。
「一緒にするな」
「け……、剣を向けないで下さい……!」
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