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第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど
幕間:討滅者たち
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~あの頃のこと~
妖魔と呼ばれる存在は古来からこの世界に息づいていた。それとは全く異なる魔形という異界のものが現れるようになってからというもの、世界は一変した。
「この村も作物が腐ってる」
山を越えて立ち寄った小さな村を見回って来たナズサが狼の顔を歪めた。イヅメはその声を背中で聞きながら、畑のそばに膝を突いていた。
「見ろ。魔形の足跡だ」
畑の土の上に獣のものとは違う歪な指の形を物語る痕跡がはっきりと残されていた。魔形はこうして農作物を食い荒らし腐らせ、時には家畜や人を襲う。夜は彼らの時間だ。だから、日没は不吉の象徴だった。
「ここも駄目だったか」
それがイヅメの結論だった。
「村の者の話では、畑で何も採れなくなったので獣と山菜を取りに山に入らなければならなくなったそうだ。だけど、猟師たちが魔形との遭遇を恐れて働きたがらないらしい」
イヅメは腰に佩いた太刀に触れる。
──これで魔形を討滅しても、すぐに他が湧いて出る。
ナズサがイヅメの肩に手を置く。
「仕方ないけど、妾たちにできることはない。それよりもまずは白衣の連中を探さないと」
「分かってる」
***
不思議な白い出で立ちの人影がイヅメたちの住む村で目撃されるようになり、人々は彼らを恐れるようになった。なぜなら、彼らの目撃された場所では必ず魔形が確認されていたからだ。それだけではない。どうやら彼らは人を攫っているようだった。
そこで、村の中で腕の立つ二人の討滅者が選ばれた。イヅメとナズサだ。
幼い頃から討滅者としての訓練を重ね、互いに研鑽し合ってきた。
「ここは我らに任せろ」
村は地域一帯の討滅者を束ねる集団・韴祓の統括地でもあった。祓手と呼ばれる長がイヅメとナズサの背中を力強く押した。
韴祓に伝わる妖魔の霊剣・千々秋月がイヅメに託され、二人は村を発ったのだ。
***
腐った地の村を出て、山間の細道を隣り合うナズサが小さく笑みを零した。
「どうかしたのか?」
「別に。ただ、昔もこうやって獣を狩りに二人で勝手に山に入ったなぁと思ってね」
イヅメも頬を緩める。気を張っていたイヅメの眉間の皺がいくぶんか和らいだ。
「そうだな。お前も最初はわんわん泣いていたのにな」
「泣いてない」
「いや、泣いてた。だからお前は弓の名手になった」
イヅメはそう笑って、ナズサが背負う長弓に目をくれた。ナズサは頭を掻く。
「ずるい言い方をするな」
昔から褒められると露骨に照れ臭そうにもじもじとするところは変わらない。イヅメは悪戯っぽく笑った。二人だけの時に見せる表情だった。
「まあ、いいじゃないか。それで弓の腕前でお前の右に出るものはいなくなったんだから──」
「話の途中だけど」ナズサの目つきが変わって、その手が弓を素早く構えて矢筒から矢を引き抜く。「何かいる」
山間の細道は先の方で下って見えなくなっている。その向こうで草がざわざわと騒がしくなる。
下り坂の向こうから姿を現したのは、猪に無数の黒い腕が生えた異形のものだ。それも、一体、二体ではない。ひたひたと無数の腕で身体を運ぶ化物が草木を掻き分けるように次から次へと躍り出る。
「百腕か」
イヅメが太刀を抜いて歩み出る。
「妾が群れの尻から潰す」
「御意──」
抜き身の太刀を提げてイヅメが風のように駆け出すと、ナズサがつがえた矢を放った。山なりに飛んだ矢が群れの殿を歩いていた百腕の頭を撃ち抜いた。猪に寄生する百腕は頭をやられて行き場を失い、死滅した。
その死をきっかけに火蓋が落とされて、堰を切ったように百腕の一団がイヅメたちへ殺到する。
流れを迎え撃つ格好となったイヅメが太刀を薙ぐと、雪崩れ込むように接近していた百腕たちが横一線に両断される。
「伏せて!」
叫ぶと同時にナズサが放った三本の矢が屈み込むイヅメの上をかすめて速度を速めていた百腕の先頭集団を一度に沈黙させた。
仲間の死骸に躓く百腕たちを斬り伏せながら群れを牧羊犬のように追い込むイヅメと、群れから外れつつある個体を的確に撃ち抜くナズサの阿吽の呼吸で、百腕の群れが一か所に固められる。
イヅメが太刀を構えると、ナズサが尖端に火をつけた矢を群れの只中に放った。火がついて百腕のぎゃあぎゃあと喚くような鳴き声が上がるが、群れ全体を燃やすことはできていない。
イヅメが太刀に力を込めると、群れの中で上がっていた火の手がフッと掻き消えた。イヅメが百腕の群れに向かって太刀を振るうと、凄まじい炎の波が群れを飲み込んで轟々と燃え上がった。
無数の百腕たちの断末魔を背に、イヅメは太刀を鞘へと収めた。
「今回はちょっと時間がかかったね」
ナズサがさっきのお返しだと言わんばかりに悪戯っぽい笑いを向けると、イヅメは牙を見せて威嚇するような表情を返す。
「うるさい」
妖魔と呼ばれる存在は古来からこの世界に息づいていた。それとは全く異なる魔形という異界のものが現れるようになってからというもの、世界は一変した。
「この村も作物が腐ってる」
山を越えて立ち寄った小さな村を見回って来たナズサが狼の顔を歪めた。イヅメはその声を背中で聞きながら、畑のそばに膝を突いていた。
「見ろ。魔形の足跡だ」
畑の土の上に獣のものとは違う歪な指の形を物語る痕跡がはっきりと残されていた。魔形はこうして農作物を食い荒らし腐らせ、時には家畜や人を襲う。夜は彼らの時間だ。だから、日没は不吉の象徴だった。
「ここも駄目だったか」
それがイヅメの結論だった。
「村の者の話では、畑で何も採れなくなったので獣と山菜を取りに山に入らなければならなくなったそうだ。だけど、猟師たちが魔形との遭遇を恐れて働きたがらないらしい」
イヅメは腰に佩いた太刀に触れる。
──これで魔形を討滅しても、すぐに他が湧いて出る。
ナズサがイヅメの肩に手を置く。
「仕方ないけど、妾たちにできることはない。それよりもまずは白衣の連中を探さないと」
「分かってる」
***
不思議な白い出で立ちの人影がイヅメたちの住む村で目撃されるようになり、人々は彼らを恐れるようになった。なぜなら、彼らの目撃された場所では必ず魔形が確認されていたからだ。それだけではない。どうやら彼らは人を攫っているようだった。
そこで、村の中で腕の立つ二人の討滅者が選ばれた。イヅメとナズサだ。
幼い頃から討滅者としての訓練を重ね、互いに研鑽し合ってきた。
「ここは我らに任せろ」
村は地域一帯の討滅者を束ねる集団・韴祓の統括地でもあった。祓手と呼ばれる長がイヅメとナズサの背中を力強く押した。
韴祓に伝わる妖魔の霊剣・千々秋月がイヅメに託され、二人は村を発ったのだ。
***
腐った地の村を出て、山間の細道を隣り合うナズサが小さく笑みを零した。
「どうかしたのか?」
「別に。ただ、昔もこうやって獣を狩りに二人で勝手に山に入ったなぁと思ってね」
イヅメも頬を緩める。気を張っていたイヅメの眉間の皺がいくぶんか和らいだ。
「そうだな。お前も最初はわんわん泣いていたのにな」
「泣いてない」
「いや、泣いてた。だからお前は弓の名手になった」
イヅメはそう笑って、ナズサが背負う長弓に目をくれた。ナズサは頭を掻く。
「ずるい言い方をするな」
昔から褒められると露骨に照れ臭そうにもじもじとするところは変わらない。イヅメは悪戯っぽく笑った。二人だけの時に見せる表情だった。
「まあ、いいじゃないか。それで弓の腕前でお前の右に出るものはいなくなったんだから──」
「話の途中だけど」ナズサの目つきが変わって、その手が弓を素早く構えて矢筒から矢を引き抜く。「何かいる」
山間の細道は先の方で下って見えなくなっている。その向こうで草がざわざわと騒がしくなる。
下り坂の向こうから姿を現したのは、猪に無数の黒い腕が生えた異形のものだ。それも、一体、二体ではない。ひたひたと無数の腕で身体を運ぶ化物が草木を掻き分けるように次から次へと躍り出る。
「百腕か」
イヅメが太刀を抜いて歩み出る。
「妾が群れの尻から潰す」
「御意──」
抜き身の太刀を提げてイヅメが風のように駆け出すと、ナズサがつがえた矢を放った。山なりに飛んだ矢が群れの殿を歩いていた百腕の頭を撃ち抜いた。猪に寄生する百腕は頭をやられて行き場を失い、死滅した。
その死をきっかけに火蓋が落とされて、堰を切ったように百腕の一団がイヅメたちへ殺到する。
流れを迎え撃つ格好となったイヅメが太刀を薙ぐと、雪崩れ込むように接近していた百腕たちが横一線に両断される。
「伏せて!」
叫ぶと同時にナズサが放った三本の矢が屈み込むイヅメの上をかすめて速度を速めていた百腕の先頭集団を一度に沈黙させた。
仲間の死骸に躓く百腕たちを斬り伏せながら群れを牧羊犬のように追い込むイヅメと、群れから外れつつある個体を的確に撃ち抜くナズサの阿吽の呼吸で、百腕の群れが一か所に固められる。
イヅメが太刀を構えると、ナズサが尖端に火をつけた矢を群れの只中に放った。火がついて百腕のぎゃあぎゃあと喚くような鳴き声が上がるが、群れ全体を燃やすことはできていない。
イヅメが太刀に力を込めると、群れの中で上がっていた火の手がフッと掻き消えた。イヅメが百腕の群れに向かって太刀を振るうと、凄まじい炎の波が群れを飲み込んで轟々と燃え上がった。
無数の百腕たちの断末魔を背に、イヅメは太刀を鞘へと収めた。
「今回はちょっと時間がかかったね」
ナズサがさっきのお返しだと言わんばかりに悪戯っぽい笑いを向けると、イヅメは牙を見せて威嚇するような表情を返す。
「うるさい」
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