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第2章 いきなりロボットアニメみたいな世界に放り込まれたんですけど

幕間:日常的な襲撃の景②

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~鎮守府における異獣いじゅう対応~


『異獣発生確率の規定値超過を確認。総員第2種戦闘配置へ移行せよ』

 鎮守府にアラートが鳴り響いた。

 ──来たか。

 葦原鎮守府あしわらのちんじゅふ司令官・御料ごりょうのみや宮健邦たけくにはジャケットを羽織りながら、執務室を出て大股歩きで作戦指令室へ向かった。
 執務室ではあるが、御料宮にとっては生活の場でもあった。異獣討滅に人生をかけると誓った日から、鎮守府は彼の家になった。もちろん、彼の帰るべき家はあるのだが、今ではただ家賃を払うだけの場所になってしまっている。

「状況報告してくれ」

 作戦指令室に入るなり、御料宮はオペレーターに声を飛ばした。すぐに返答がある。

0634マルロクサンヨン、東京湾内に確率偏向を確認しました」

「各所へ通達は?」

「すでにしてあります」

朝霧あさぎりは?」

殯森もがりもりさんが呼び出しに行きました」

   ***

 鎮守府からの呼び出しで飛び起きた殯森は、メイクをする暇もなく、パンツスーツに着替えて家を出た。こんなことは鎮守府に居れば珍しいことではない。舌打ちをして目を覚ます日々はもう彼女にとっては過去のものだ。

 鎮守府に到着すると、朝霧が過ごす医療棟へ直行する。身寄りのない朝霧は医療棟の病室の一室を勝手に私室にしていたが、鎮守府はそれを黙認していた。

 朝霧の私室のドアをノックしたが、返事はない。すぐにドアの施錠を解いて中に入る。
 ノートパソコンやスマホなどが雑多に置かれたベッドの中で朝霧は身体を折り曲げて胎児のような格好で眠りに落ちていた。その寝顔は年頃の少女そのものだ。
 殯森は忍びなさを感じながらも医療班を呼んで、朝霧の肩をすった。

「起きて、朝霧。待機よ」

 寝ぼけまなこが開いて、殯森を見つめる。

「はい」

 まだ夢を引きずっているのか、かすれた声だ。

「顔でも洗ってきて。すぐに汚染値をチェックする」

 言われるがままに部屋を出ていく朝霧の背中を見送って、殯森はベッドの上で起動し続けるノートパソコンをシャットダウンして他のデバイスと共にデスクに移動させた。

 ──母親みたい。

 殯森は心の中に呟いた。

   ***

 ドライバースーツに身を包んだ朝霧が殯森と共に作戦指令室に姿を現した。すぐにブリーフィングが始まる。

「現状、確率偏向は海上に確認されている。建御名方タケミナカタじゃ、海中での戦闘は不利だ。上陸してきたところを叩く」

 ブリーフィングとは名ばかりの御料宮の指示。朝霧が伏し目がちにうなずいた。なぜすぐに出撃しないのかという食い下がりを見せた数年前とは様変わりした。

「補償予算節減のために異獣出現を確認してからじゃないと建御名方タケミナカタは出せない」

 というあの頃の御料宮の説明に朝霧は不服を訴えたものだ。

『海上に異獣出現を関知。総員第1種戦闘配備』

 警告音がして、作戦指令室はますます色めき立つ。その空気の変化に朝霧が作戦指令室を出ていく。

「汚染値は問題ねえな?」

 御料宮が殯森にく。

諸々もろもろの状態も問題ありません」

 オペレーターが粛々と声を上げる。

「映像、出ます」

 ドローンからの映像がモニターに映し出される。

「また気持ちわりぃのが出てきたな」

 蛇のように長い四本の頭に、首から下は馬のような身体……異形のものだ。

「周辺の封鎖と民間人の避難は完了しています。損害予測を出します──」

「出さなくていい! 異獣をぶっ殺すことに集中しろ」

「また勝手なことを……」

 殯森が小言を挟む。損害を最小限に、というのは上からのお達しだ。もっとも、異獣の暴れ具合をコントロールできるはずもないのだが。
 別のオペレーターが口を開く。

「朝霧の搭乗確認、できました」

 建御名方タケミナカタのコックピットと通信を繋いで御料宮が叫ぶように言った。

「朝霧、行けるな?!」

『いつでも』

 御料宮は命じた。

建御名方タケミナカタ、出撃!」

 オペレーターが呼応する。

建御名方タケミナカタ、システムオールグリーン。第七ドックから射出します」

 御料宮の熱のこもる声が朝霧に届けられる。

「行け、朝霧。奴をぶっ潰せ!」
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