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第1章 「世界の半分をくれてやる」と言われて魔王と契約したらとんでもないことになったんですけど
1:世界の半分、もらいました。
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「お前に世界の半分をくれてやる」
魔王はそう言った。魔王といっても、いたいけな少女に見える。そいつが身長の何倍かはあろう玉座について俺を見下ろしていた。
「ありがとうございます」
俺は思わず言ってしまった。
だって、本当は勇者になんかなりたくなかったんだもん。「お前強いから」っていう理由だけで勇者に選出されてここまで来てしまったのだ。
「お前、本当に勇者なのか?」
魔王が真ん丸な目を不可解そうに細めて俺を見つめる。
ちょうど魔王四天王が出払っている隙に玉座までやって来た奴が何の信念もなく自分の提案に乗り始めたら、俺だって怪しむ。
「残念ながら、本当に勇者です」
「世界の半分をやるということは、世界の半分を敵に回すということだぞ? それでもいいのか?」
魔王に心配されるようでは、勇者失格だ。
「お言葉ですけど、半分どころか世界中を敵に回すことになると思います」
俺がそう言うと、魔王は愉快そうに笑った。
「お前、面白い奴だな。勇者にしとくのはもったいない」
褒められているのか分からないが、一応礼を言っておいた。魔王はその魅入ってしまうほど美しい赤い瞳で俺を見つめた。
「では、それで契約をするぞ? いいな?」
緊張の一瞬だ。両親も言っていた。契約の際には慎重に、と。魔王との契約だ。魂を捧げるくらいのことは覚悟しなければならない。
俺がうなずくと、魔王は立ち上がった。華奢で、小さな身体だ。
「じゃあ、セバスチャンに契約書を持って来させるから、必要事項を記入してくれ」
「はい?」
「ん? なんだ? 何か気になるのか?」
「いや、その、ナイフで手のひらを切って血の契約とかしなくていいんですか?」
魔王は深い溜息をついて言った。
「いつの話してるんだ、お前? いいから、書類を記入しておけよ。身分証明書とハンコは持って来たか?」
魔王城に身分証明書とハンコを持って来る奴がどこの世界にいるんだ? 就活か?
「いえ、すみません。持って来てないです」
「身分証は書類持ち帰ってからでいいから。また明日、書類と一緒に持って来い。同意書は母印で大丈夫だから、帰るまでに出せ」
***
そんなこんなで、世界の半分をもらい受けるという契約の同意書にサインをしてしまった。これでいいのだろうかというやましさのようなものが込み上げてくる。
だが、あの魔王の小さな身体から発せられる凄まじい魔力を浴びてしまっては戦う気力も削がれるというものだ。
書類を確認するのは、めちゃくちゃ顔色の悪い紳士のセバスチャンだ。彼は書類をケースにしまうと、にこやかに口を開いた。
「魔王様のあんなに嬉しそうなお顔を拝見し、不肖セバスチャン、恐悦至極にございます」
「嬉しそうだったんですか? そうは見えなかったけど……」
「いえいえ。陛下は強大な力を持つゆえ、孤独な日々を過ごされてきました。勇者様の登場が陛下を孤独から救い出されたのでございます」
魔王の考えることはよく分からない。
「街の近くまでお送りしましょう」
セバスチャンがそう申し出たが、俺は速攻で拒否した。魔王の臣下と親しくしているのを見られたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
残念そうな表情を浮かべるセバスチャンに別れを告げて、俺は魔王城を後にした。
***
俺の住む街・シルディアは魔王城に最も近い城塞都市だ。城門を入ると、
「おかえりなさい!」
と兵士たちに出迎えられる。誰もがみんな、俺が魔王を倒すために少しずつ魔王城への道を切り拓いていると思っている。
青い屋根の家が見えてくる。俺の家だ。途端に気が重くなる。
どうしよう。世界の半分もらったよ~なんて家族に報告できるわけがない。
暗い気持ちで家のドアを開いた。
魔王はそう言った。魔王といっても、いたいけな少女に見える。そいつが身長の何倍かはあろう玉座について俺を見下ろしていた。
「ありがとうございます」
俺は思わず言ってしまった。
だって、本当は勇者になんかなりたくなかったんだもん。「お前強いから」っていう理由だけで勇者に選出されてここまで来てしまったのだ。
「お前、本当に勇者なのか?」
魔王が真ん丸な目を不可解そうに細めて俺を見つめる。
ちょうど魔王四天王が出払っている隙に玉座までやって来た奴が何の信念もなく自分の提案に乗り始めたら、俺だって怪しむ。
「残念ながら、本当に勇者です」
「世界の半分をやるということは、世界の半分を敵に回すということだぞ? それでもいいのか?」
魔王に心配されるようでは、勇者失格だ。
「お言葉ですけど、半分どころか世界中を敵に回すことになると思います」
俺がそう言うと、魔王は愉快そうに笑った。
「お前、面白い奴だな。勇者にしとくのはもったいない」
褒められているのか分からないが、一応礼を言っておいた。魔王はその魅入ってしまうほど美しい赤い瞳で俺を見つめた。
「では、それで契約をするぞ? いいな?」
緊張の一瞬だ。両親も言っていた。契約の際には慎重に、と。魔王との契約だ。魂を捧げるくらいのことは覚悟しなければならない。
俺がうなずくと、魔王は立ち上がった。華奢で、小さな身体だ。
「じゃあ、セバスチャンに契約書を持って来させるから、必要事項を記入してくれ」
「はい?」
「ん? なんだ? 何か気になるのか?」
「いや、その、ナイフで手のひらを切って血の契約とかしなくていいんですか?」
魔王は深い溜息をついて言った。
「いつの話してるんだ、お前? いいから、書類を記入しておけよ。身分証明書とハンコは持って来たか?」
魔王城に身分証明書とハンコを持って来る奴がどこの世界にいるんだ? 就活か?
「いえ、すみません。持って来てないです」
「身分証は書類持ち帰ってからでいいから。また明日、書類と一緒に持って来い。同意書は母印で大丈夫だから、帰るまでに出せ」
***
そんなこんなで、世界の半分をもらい受けるという契約の同意書にサインをしてしまった。これでいいのだろうかというやましさのようなものが込み上げてくる。
だが、あの魔王の小さな身体から発せられる凄まじい魔力を浴びてしまっては戦う気力も削がれるというものだ。
書類を確認するのは、めちゃくちゃ顔色の悪い紳士のセバスチャンだ。彼は書類をケースにしまうと、にこやかに口を開いた。
「魔王様のあんなに嬉しそうなお顔を拝見し、不肖セバスチャン、恐悦至極にございます」
「嬉しそうだったんですか? そうは見えなかったけど……」
「いえいえ。陛下は強大な力を持つゆえ、孤独な日々を過ごされてきました。勇者様の登場が陛下を孤独から救い出されたのでございます」
魔王の考えることはよく分からない。
「街の近くまでお送りしましょう」
セバスチャンがそう申し出たが、俺は速攻で拒否した。魔王の臣下と親しくしているのを見られたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
残念そうな表情を浮かべるセバスチャンに別れを告げて、俺は魔王城を後にした。
***
俺の住む街・シルディアは魔王城に最も近い城塞都市だ。城門を入ると、
「おかえりなさい!」
と兵士たちに出迎えられる。誰もがみんな、俺が魔王を倒すために少しずつ魔王城への道を切り拓いていると思っている。
青い屋根の家が見えてくる。俺の家だ。途端に気が重くなる。
どうしよう。世界の半分もらったよ~なんて家族に報告できるわけがない。
暗い気持ちで家のドアを開いた。
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