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【蟲の女王と覇道の夢】

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竜馬が蟲の通路から地上に出ると、そこには巨大な蟻塚(ありづか)を連想させる蟲の塔が幾つも立っていた。
派手な登場の仕方をしたため、瞬く間に蟲の群れに取り囲まれたが、蟲たちは直ぐに攻撃をしようとせずに、何故か、間合いを開けて対峙した形になった。
アドリーヌの城で初めて、蟲たちと戦って、この蟲は先天的な本能のみで、攻撃してくる単純な生き物ではないかと思っていたが、どうもそうではないらしい。
突然、現れた目の前の人間が、自分たちが知っている、ひ弱い人間と何かが違うと感じ取ったのか、それとも考える力を持った司令塔の役割をする蟲がいるのか?
攻撃を躊躇(ちゅちょ)したところを見ると、本能だけで生きているのではない様に思えた。
大きな胴体に「ごめんなさい」と言わんばかりに、申し訳程度についている小さな頭にも、それなりに考える力があるのかも知れない。
蟲の本拠地である巣には、新手(あらて)の中に大型の凶暴な姿形をしている蟲が混じっていた。
大多数の蟲は手が二本、足が四本、計六本持っているが、手足は発達しておらず、手も前足としての役割を担っているに過ぎない様だった。
それに対して、大型の蟲は明らかに手の構造が他の蟲と違っていた。
肘と手の関節は蟷螂(とうろう:カマキリ)の斧(おの:鎌)の様に鋭い鋸(のこぎり)状になっており、羽根には強さを誇示するかのように、鮮やかな色の模様があった。
胴は幾らか細く、その分、羽根が大きく、飛翔能力を持っていることが、充分に伺えた。
これまでの戦いでは蟲は早い動きで、タックル【tackle:体当たり】し、左右の鋭い牙のある口で噛り付いて相手を仕留める攻撃をしている様だったが、それは数が多いから通じたと言える部分もあって、一匹々の戦闘能力はそれ程に高いとは思えなかった。
だが、大型の蟲は体の構造から、今までの小型の蟲とは違う戦い方をするのではないかと思えた。
小さな蟲が餌になる人を集める「働き蟲」の役割を担っているとすれば、大型の蟲は戦闘を専門にする役割を担っている「戦闘蟲」で、ボス(指揮官)の位置にある存在に違いない。

竜馬は、この大型の蟲と妖刀「村正」で戦ってみたいと、戦いに生きる男として、少し誘惑に駆られたが、囚われているアドリーヌが心配で、一刻も早く彼女を救出しなければという思いが先に立った。
だから、竜馬は出来る限り早く蟲たちを排除するために、自らの持ちうる最強の形で戦うことに決めた。

『エル、この場はバトルアーマー(battle armor:戦闘鎧)体型で戦うことにする。
認識番号Z0814竜馬、人工知能「エルザ」に命ずる。
戦闘アーマー体型に移行せよ!』

『はい、竜馬、人口知能「エルザ」命令を受理しました。
戦闘アーマー体型に移行します。必要時間は20秒です』

エルが竜馬の命令に応えると同時に空間が裂けて、エル(AI)の本体が異次元の狭間から現れた。
竜馬の体を包み込み、眩(まば)いばかりの光とともに、全長20M程の白銀色のボディ・流線形の姿形をした戦闘アーマー(battle armor:戦闘鎧)が現れた。
竜馬はこの蟲の大群に対し、先手として重力キャノン(砲:Cannon)を使用することにした。
この兵器は重力を操作することで、惑星上に一定時間、小規模なブラックホールを発生させる事が出来るものであり、あらゆる物を異次元に吸い込み、その過程で物凄い重力で圧殺する。
重力キャノンは地球の科学力が長い戦いの歴史の中で生み出だした武器で、主に多数の敵に対した時に使われた。
いったん重力に捕らわれると、決して逃げることが出来ない恐ろしい究極の兵器だった。
竜馬が狙いを定めた空間に黒点が発生し、空間に突然、ぽっかり穴ができた。
漆黒の宇宙を思わせる穴は急激に大きくなり、周りの蟲や土砂を底なし沼のように吸い込んでいった。
ブラックホールから生き残った蟲は、それを逃がさないと言わんばかりに距離を置いて浮かんでいた竜馬が、間髪を入れずに、レーザーガンのビームの放射で薙(な:勢いよく横に払う))ぎ払った。
レーザーは蟲たちの硬そうな殻(から)も鮮やかな切り口で簡単に切断した。
直前に危険を回避して、遠くの空中にいた数匹の、あの大型蟲が、『ギーギー』と甲高く不快な声で鳴き、羽音を響かせ、殺気立ちながら向かって来た。
大きな鎌を、竜馬を目掛けて振り回して来たが、それは蟲たちの最後の足掻(あが)きにも思えた。
既に、この時点で、大半の蟲がブラックホールに吸い込まれていたし、生き残った蟲たちもビームで、屍(しかばね)となり、累々(るいるい)と横たわっていたからである。
残存した数匹の蟲は、数方向から大鎌で攻撃をして来たが、それは伝説のオリハルコンを後世の科学者で作った盾と剣(レーザーブレード)で受け流し、今度は、こちらから返す刀(剣)で、大型蟲に斬撃を加えた。
蟲の攻撃は多方向からだったが、竜馬は羽音で飛び回る蟲の位置を的確に捉えていたのだ。
大型蟲は決して弱い生き物だった訳ではないが、この場でも竜馬の強さが際立った。
竜馬は巣から出て来た蟲を粗方(あらかた)退治して、戦闘体形を解き、蟲が湧き出してきた穴に入った。
蟲の巣の中では数匹の蟲がいたが、殆ど抵抗らしき抵抗を受けることが無かった。
侵入者を排除する力は、もう残っていないのだろう。
その頃、エルを通じて連絡を取り合っていた「さつき」と死神少女が、漸く城での戦いを終えて、蟲の巣にやって来た。
竜馬たちは一つ々蟲が作った部屋の中を確認しながら、アドリーヌを探して回った。
蟲の巣には幾つもの小部屋があり、何もないところも多かったが、蟲の蛹(さなぎ)が蠢(うごめ)いている部屋は「さつき」の業火(ごうか)で焼き払った。
繭(まゆ)を置いている部屋では処理に困った。
人間の頭が繭に出た状態だったため、助けようと繭を刀で切り裂くと、人と幼虫が一体化したキメラ (chimeraとは同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること)状態の嘗(かつ)て、人間だった※物が出て来たのだ。
目を覆いたくなるような無残な状態だった。
恐らくは体に卵を植え付けられ、生かされながら徐々に幼虫の餌になり、体が蝕まれていた様に思われる。
多分、想像を絶する痛みがあり、苦しみや無念さは「筆舌に尽くし難く」早く殺して欲しい・・・「死にたい」と思ったに違いない。
中には未だ生きている者もいるかも知れないが、これ以上、生を永らえることは余りにも不憫(ふびん:かわいそう)に思えた。
だから、この場は死神少女の大鎌に頼み、現世と魂を繋いでいる紐を断ち切ってもらうことで、少しでも死へ向かう苦しみを和らげてあげるしかなかった。

アドリーヌは、その頃、城で蟲の粘液で絡め取られてから意識を失っていたが、暗闇の中で目覚めたものの、恐怖に震えていた。
彼女の周りにも繭で包まれた人たちがいて、その内、何人かは頭に穴を開けられて既に事切れていた。
傍らでは大きな腹をした蟲が、先が槍のように尖った口に生えたストローを一人の男の頭に突き刺していた。
ここは女王蟲の食事をする場所であり、まさに、今、男の人の脳みそを吸い取っていたのだ。
『キャー』アドリーヌは思わず悲鳴を上げた。
この蟲こそが、蟲巣の主、すべての蟲の母である女王だった。
竜馬たちはアドリーヌの悲鳴のする小部屋に急いで入った。
そこには今にも彼女から養分を吸い取ろうとしていた女王蟲がいた。
直ぐに竜馬の妖刀村正の斬撃で蟲の女王の腹を裂き、蟲の女王の頭を切って蟲退治した。
それでも女王蟲の腹から幼虫が這い出てきたので、「さつき」が炎で焼き殺し、二度と蟲たちが増えることがないように処置をした。
その瞬間、女王が子供を産み続けることで、この星に蟲の王国を作るという「覇道の夢」は消えることになった。
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