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【虎族の勇者】

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エストランド帝国と国境を接する獣人国の森林地帯にある村に突然の災難がやって来た。
人口が千人足らずの小さな獣人の村に突如として、悪魔軍が現れて村人を殺戮(さつりく)し始めたのだ。
タイガー(虎の獣人)は、この村の虎族の長(おさ)をしていたので、村人を逃がすため数十人の力自慢の強者(つわもの)と共に悪魔軍に対して殿(しんがり:一番後ろ)を引き受け、果敢に戦った。
獣人は数が少ないが、変身すれば人間の重騎士が数十人掛かっても打ち負かす高い戦闘力を持っている。
虎の姿に変身し猛獣化して『ガルルル』と勇ましい雄叫びを上げ威嚇した。
森にいた鳥たちが雄叫びに怯えて一斉に飛び立った。
相手が人間であれば虎の声を聞いただけで、震えあがっただろう。
しかし、骨組みだけ(スケルトン)の骸骨剣士とゾンビ(腐った死体)たちである。
タイガーの声による威嚇も「馬の耳に念仏」なのか?少しも怯える様子がない。
逆に骸骨剣士が顎を『カチカチ』鳴らして、笑っているように威嚇してくる。
虎たちは敵の骸骨剣士やゾンビたちと生き残りを掛けて、熾烈なバトル(戦闘)繰り広げた。
獣人の武器は鋭い爪と相手の骨をも噛み砕く長い牙の生えた顎である。
普段は使っていない鋭い鉤爪でドンビを切り裂き、組み伏せては切り裂く、それでも起き上がって来たものは噛み付いて、顎の力でゾンビの首をもぎ捨てた。
タイガーは変身すると体長3M体重300KGを超える大虎になる。
虎族では右に出る者がいない力自慢だった。
しかも、大柄でありながら走る速度は60KM/Hを超えるスピードを持っている。
骸骨剣士に対してはスピードを活かしながら跳躍し、盾ごと体重に落下の力を掛けて押し潰す。
敵の剣は爪で受け止め、逆に太い腕を振り回し、打撃を加えるとバラバラになり吹き飛んだ。
圧倒的な力とスピードで、骸骨剣士やゾンビを圧倒した。
タイガーだけで、数百体は片付けただろうか?
辺りを見ると他の虎が倒したものも含め、千体を超える夥(おびただ)しい数の魔物が転がっていた。
だが、そこで漸く隣の家の虎が倒れているのを見て、仲間の事を忘れていたことに気が付いた。
一緒に戦っていた三軒向こうの虎も、四軒向こうの虎も、仲間の虎は殆どの者が傷だらけ、大量の血を流し、虎柄の毛を真っ赤に染めて、動かない虎も沢山いた。
タイガーは自らの力を発揮出来る喜びに酔い、仲間の虎を助ける事を忘れていたのだ。
虎には名前が無い、全てが虎の一家(血縁)で、長として、虎族の勇者として、一家を守らなければならない掟(おきて)がある。
それだけに虎一家の長として責任を痛感した。
時を置かず再び、大型魔物が数千、いや数万の魔物を引き連れて攻めて来た。
村に攻めて来た千体ほどの骸骨剣士やゾンビは、ほんの僅かな先兵だったのだ。
タイガーは敵の大将らしき5Mはありそうな双頭の牛魔を見つけると、周りにいるゾンビや骸骨剣士などの雑魚を蹴散らし、単身で牛魔に立ち向かった。
牛魔はタイガーより一回り大きく威圧感があったが、牛魔に近づき跳躍する。
高い位置から渾身(こんしん)の鉤爪攻撃を牛魔に向けて振り下ろした。
だが、爪の一撃は牛魔の大剣で簡単に受け止められてしまった。
間を置かずタイガーは着地し再度、飛び上がって、二撃、三撃と繰り出すが、これも剣で躱(かわ)されてしまう。
タイガーは既にかなり体力を消耗していたので、300kgの体重を活かした必殺の体当たりで、勝負を掛けることにした。
助走をしながら全体重を掛けて激突したが、牛魔は平然とした顔で、タイガーを簡単に跳ね返す。
逆に跳ね返された時に肋骨が何本か折れて、痛みが走り体が軋(きし)んだ。
必殺の体当たりが利かなかったことで、『こいつは俺の手に負える奴じゃない』と直感的に感じた。
タイガーは打ちひしがれたが、リベンジ(雪辱)をするために必死に逃げた。
結果的に村人も一緒に戦った仲間たちとも、見捨てることになって、その後、必要以上に自虐(じぎゃく:責めさいなむ)することになった。
タイガーはボロボロになりながらも、何とか人間の国、エストランド帝国まで落ち延びた。
帝都では獣人だという事を隠して、生活の糧(かて)を得るために、毎日、職探しをしたが、折から悪魔軍がエストランドの辺境にまで迫ったため戦禍を恐れ、沢山の流民(るみん)が帝都に流れ込んできたため、仕事に溢(あぶ)れ見つけることが出来なかった。
タイガーはその日、持ち金が底を付き、糧を得るために、エストランドから配給されるパンを目当てに広場に来ていた。
そこでガラの悪い男たちと一切れのパンの取り合いで、些細なことだったが、口喧嘩になってしまった。
タイガーはこの時、人間の男の恰好をしていたから、男たちも勝てると思って喧嘩を仕掛けたのかも知れない。
数人の男と睨みあっていると、直ぐに広場に流民の野次馬が取り囲んで、引けない状態になった。
『やれー、やれー』と面白がって、喧嘩を嗾(けし)ける声があちらこちらから上がる。
その時、一人の男が『こちらの兄さん(タイガー)が勝つ方に掛ける者はいないか?』と喧嘩を嗾けている男たちに声を掛ける者がいた。
一人が『銅貨一枚』と呼応したように声を上げた後、次々と声が上がった。
勝ち負けに掛ける者が増えて、何処にでもある喧嘩が、異常に盛り上がることとなった。
喧嘩はタイガーが手加減をしたが、男たちが広場で転がり呻(うめ)く結果となった。
この後、味を占めた「掛け師」から誘われて、復讐のことは忘れなかったが、生活のために、路上や広場での「喧嘩商売」がタイガーの仕事になった。
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