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【ダンジョン:土蛙 原初の火を宿す魔物】

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五層に入ると、その階の空洞は「むんむん」とした熱気が立ち込めていた。
暗闇の中に真っ赤に燃える溶岩の湯溜まりがあった。
用心をしながら進んで行くと、突然、溶岩が盛り上がり、その溶岩から異様に大きな頭と下顎を持った土蛙(ツチガエル)、人面顔(ゴブリン似)の魔物が現れた。
頭と口の大きさに比べて、手足は小さく、二頭身に満たない不格好な生き物だ。
その魔物は溶岩の中、限られた場所でしか、動くことが適わない体形に思われた。
魔物は侵入者を確認すると、大きな口に岩石を含み、頬を膨らまし、まるで機関銃の銃弾のように真っ赤に焼けた礫(つぶて)を飛ばして来た。
魔物は口の中で、一瞬にして岩石を真っ赤に焼く能力を持っているようだ。
長盾を持っている騎士は真っ赤な岩石を辛うじて防いだが、丸盾の弓兵などは盾が小さいため、防ぎ切れなかった。
鎧の中に溶けた岩石が入り「かちかち山の狸」のように走りまわる者もいた。
ブルーノ騎士長の装備も丸盾だが、この大漢(おとこ)は焼けた岩石が肌にあたっても、少々の火傷は傷にはならないのか?平然とした顔で騎士たちに指示を飛ばした。

『よいか、長盾を持っている者は姫を守るんだ!
まだ、弓が使える者は弓を放て、そうでないものは岩陰に隠れよ』

イレーネ姫は長盾の騎士に守られながら、けが人をヒール魔法で治療するが、火傷をした者が多く、姫の顔には疲労の色が濃く見えた。
そこに少し遅れて来たヴァルガー老師が、魔法の呪文の詠唱を終え、火炎魔法を放った。
竜の形をした火炎が魔物を襲い、焼き尽くすかと思われた。
だが、何も無かったように、平然とした顔で、ツチガエルの魔物が火炎の中から現れた。

『やはり、火炎魔法では効かぬか、ここに水魔法が使える者がいたなら、助かるんじゃがな』ヴァルガー老師が呟いた。
老師は火の属性を使う魔法使いである。
高位の魔法使いであっても、彼の得意とする火以外、強力な魔法を使うことは出来なかった。

『奴の口の中にある岩石の温度は?』竜馬はエルに聞いた。
『はい、竜馬、あの石の溶け具合、色から推定して、口の中は900度~1100度と思われます』

『エル、何か手はあるか?』

『あの魔物は岩石の礫(つぶて)を吐き出した後、新たに岩石を補給するまで、少し隙があります。
その隙を見逃さず、できるだけ近づいて、仕留めるのがよいかと』

『分かった』竜馬は再び、体に力を入れ闘気を高めた。
体から立ち上る赤い闘気から更に力を求めて、青い闘気を纏った。
火炎の色は赤・黄・白・青の順に温度が高いと言われている。
竜馬が纏う闘気は、体内で滾(たぎる)る力が闘気として現れたもの、パワーはMAXになる時、赤い闘気が青い闘気に変化する。
闘気を流した愛刀の村正を上段に構え、一気に燃える溶岩の礫をサイコキネシス(念動力)で避けながら進んだ。
魔物が岩石を補給しようとする時を、見逃さずに跳躍し太刀を振り下ろした。
『ぎゃ~』土蛙は大きな悲鳴を上げた。
竜馬は燃え盛る石礫をもろともせず、土蛙を肩から袈裟懸けに体を真っ二つにした。
魔物をいとも簡単に瞬殺した様に見えたが、竜馬は何かを避ける様に後方に飛び距離を取った。
この時、倒した魔物以上の禍々しい気を感じ取っていたのだ。
危険を知らせる内なる警笛が鳴り響いた。
少しの時を置いて、死んだ魔物から揺らめくように赤い火が立ち上った。

『サマンダー(火の精霊)だ!』ヴァルガー老師が叫んだ。
老師はサラマンダーと契約する魔術師だったが、それは精霊の力を借りて、魔術を使うのであって、サラマンダーの姿を見たのは契約の時以来だった。
特にサラマンダーは精霊の中でも、禍々しい存在であり、契約に失敗すると死が待っているといわれる存在だった。
サラマンダーは竜馬を見るや、突然、原初の業火(ごうか)を浴びせかけてきた。
竜馬は瞬間的に闘気を高めることで、障壁を作り業火を防いだが、火に触れれば、それだけで死に至るような凄まじい火炎だった。

『ほほう・・・我が宿主を殺(や)り、さらに我が火を受け止めるとは・・・人間では初めてだ』サラマンダーが語り掛けてきた。
そして人を焼き殺すような鋭い眼光で竜馬を見つめた。
これに対し、竜馬もサラマンダーに、たじろぐことなく、眼光を返した。
少しの間、睨み合いが続いた。

『はっはっははは、面白い、覚えておこう』とサラマンダーは言葉を残して姿を消した。
この時、サラマンダーは何故、襲ってこなかったのか?
それは自らの精霊の力とは違う異質な力が、竜馬の中にあるのを感じ取ったからに違いない。
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