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【金鎧の騎士:籠城戦】アーサー王に恋した男 NO2

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城内に降り立った五月に、早速、大小の魔物が襲い掛かった。
だが、目に見えないバリアが、魔物達を拒んだ。
そればかりか、魔物達は障壁に触れただけで、消滅させられる。

「凛太朗、危なかったわね・・・。
でも、私が来たからには、もう終わり、魔物達には好き勝ってにさせないわ」

「室長、お願いだ。
この人を助けてくれないか、大蜈蚣に噛まれて、毒が回っているんだ。」

「ちょっと見せて・・・凛太朗、これなら、まだ、大丈夫、
ついているわ、噛まれたのは幸い鎧の上からだから、牙は深く入ってない。
凛太朗、取り敢えず噛まれた傷から口で毒を吸い取り応急手当をしていて、私は、その間に魔物達を片付けるから・・・」
五月は、そう言うと再び上空に浮かび上がった。

『さて、どうやって片付けるかだけど、
この星、大地ごと、消してしまえば一瞬で終わって簡単なんだけど、そういう訳にはいかないわね。そうだ、ここには自然があり精霊達の声がする。
久しぶりに精霊の力を借りる事にするか・・・。
精霊達、この掌に集まって来て・・・』
この掛け声により五月の掌には小さな光が集まり、それは大きな塊になった。

「精霊さん達、力を借りるわよ!
秘奥義、『焔・風・雷の演舞』」
「火の精霊、灼熱の焔、風の精霊、トルネード(竜巻:tornado)、そして雷の精霊、雷撃」荒れ狂いなさい。
次の瞬間には五月はセーラー服姿から奇麗な花柄の着物姿に変わり、手には扇子を持っていた。
五月は空中で浮遊しながら舞を舞い歌を歌った。
すると城壁の向こうで蠢いていたモンスター達に火の豪雨が降り注いだ。
更に扇子に合わせ竜巻が火炎を巻き上げ火柱があがる。
地上には雷撃が幾つも打ち付けられた。
この場に天文学者がいたなら、太陽の表面だと見紛う程の火炎地獄だと表現した事だろう。
それには圧倒的な数で攻めて来た魔物達も抗う術は無かった。
城内に侵入した魔物達は五月を本能で危険だと察知し逃げようとするが、城外は火の海、それは叶わず五月に簡単に退治された。
彼女の登場で、今にも魔物達に城が陥落しそうになっていたのが、嘘だった様に事なきを得たが、城内には女子供を含め死屍累々、夥しい数の死体が横たわっていた。

俄かに救世主となった五月が再びセーラー服姿に戻り空中から降りてきた。
生き残った者達が彼女を仰ぎ見る。
毒により肌が黒ずみ、ぐったり横たわっているアーサー王に駆け寄り様子を見ながら慈愛を感じる表情で手をかざした。すると小さな暖かそうな光が彼女を包み、見る間にアーサーの顔に血の気が戻った。

彼女がアーサーに付与した治癒は、神通力による治癒だった。
神通力は意思の力、不可能を可能とする特殊な力であり、エナジーを必要としない力だ。
自然に存在するマナの力を利用した治癒魔法や異世界の神官達の様に神の祝福の力によるヒーリングとは根本的に系統が違うものである。

「助かったのか・・・」

「もう大丈夫、城に攻めて来た魔物達は粗方退治したわ」

「あなたは?」

「私は魔物を殺す仕事をしているエトランゼ(異国の人)、
異次元から来た抗魔執行官よ!」

「抗魔執行官、彼と同じ・・・」

「そう、凛太朗は私の部下」

「貴敬達には何と、お礼を申しあげればよいやら・・・」

「礼はいらないわ、モンスターを倒すのが私達の仕事ですもの、
それより襲って来た魔物達を退治しても未だ終わった訳じゃない。
そうだよね?」

「ああ、この最悪の事態を招いた元凶は魔樹にある。
でも、魔樹を倒そうと、多くの猛者が挑んだが、近づく事さえ出来なかった。
そればかりか逆に種を植えられて、魔物に変えられてしまった。
近づけば種子が、弓矢の様に飛んで来る。
貴敬と、いえども危険だ。行かない方がいい」

「大丈夫、それなら近づかなければいいだけの話、凛太朗、いくわよ!」
五月は凛太朗を伴わせ空高く舞い上がった。

月夜とはいえ、凛太朗の目には室長が放った超絶技の残り火が、あたりの暗闇に見えるだけだったが、彼女は既に遠くの目標、魔樹を捉えている様だった。

「そこね、あなたは、もう逃れられないわ・・・。
さあ、覚悟しなさい!」
彼女は、そう言うと掌を前方に突き出し方向を定めた。

「この辺りか、捉えたわ・・・『消滅!』と言う言葉と共に掌を握りしめた。
この瞬間、数百キロ、彼方の大地に聳え立っていた魔樹は、突然、消えて無くなった。

「凛太朗、仕事は終わったわ」

「え・・・」凛太朗は彼女の終わったという言葉に絶句した。
彼女は動作一つで、この世界を恐怖のどん底に落とした魔樹を退治したのだ。
俄かに信じる事が出来なかった。

「凛太朗、さっきカトリーヌから今迄に感じた事がない気を感じたと連絡があったわ、
彼女が、そういう程だから、余程の事が起ころうとしているに違いない。
だから凛太朗、グズグズしないで帰るわよ!」

「ちょっと室長、待って下さい。
この世界を、このままにして帰るのですか?
アーサー王を助けたとはいえ、この世界の人は彼女を含め数十人、遅かれ早かれ人がいなくなるのが目に見えている。
それを見捨てるのですか?」

「そうね、凛太朗の言う通りかも・・・。
それなら、時間を戻し今から魔樹が、この世界にやって来なかった様にするわ、凛太朗、それでいい?」

「そんな事が出来るのか?」

「凛太朗、私を誰だと思っている?
時間軸の違うこの世界からすれば異次元の神ということになるけれど、
全宇宙を創造した神なのよ! 私に出来ない事はない」

凛太朗は返事に困った。
何故ならアーサー王を自分のいた世界に連れて行くという約束が守れなくなるからだ。
だが、何故か、この時、脳裏に彼女と一緒に城壁塔に登って夜空いっぱいの輝く星を見ていた時の事が浮かんだ。
彼女の瞳は輝く星よりも美しく見えたが、同時に、その瞳は深い憂いを称えている様にも思えた。
例え、彼女と一緒に別の世界に行くとしても、この世界が滅んで、彼女は、それでいいのか?
いや、きっと悲しむに違いない。
彼女はこの世界が滅ぶ事を望んでいない筈だ。
そう考えた凛太朗は言葉を出さずに静かに五月に向かって頷いた。

「凛太朗、いいわね?
この世界の時間を魔樹が現れなかった時迄、戻す事にする」

五月がそう言った瞬間、辺りの様子が変わった。
残り火や白い煙が止まったままになる。
やがて、消え掛かっていた火が再び激しく燃え盛った。
時間が逆戻りし始めたのだ。そして早送りになり目で追えなくなった。
暫くして目で景色が分かる様になった時、焼け焦げた大地には緑が戻っていた。
畑には収穫を急ぐ農民の姿が見られた。

「凛太朗、今、気が付いた事だけど・・・。
私達のいた世界と、この世界の共通点の多さに気が付かなった。
勿論、人以外の猫耳のケットシーなど亜人種がいる事や肌の色など多少の違いはあるけれども、この世界は私達のいた世界から、ある時を境に分かれた四次元世界と並行して存在していたパラレルワールドだった気がする。
彼女、アーサー王と言ったか、伝説ではブリテンのアーサー王として語られている。
亜人種達も同様に北欧神話に登場したりするしね・・・。
本流の次元と接触し絡み合ったパラレルワールドは消滅する運命にあると言われている。
もしかしたら、この世界の最後の時は近かったのかも知れない。
それを私達は並行して存在する様に強引に元に戻してしまったかも・・・。
何故か分からないが、余程、この世界に運があったしか言いようがない。」

凛太朗は無限大の強運を彼女に与えた事を内緒にした。

「凛太朗、少し彼女への思いがあった様だけど、ごめん、諦めてね。
彼女の記憶には、もう凛太朗という人物が存在しない筈だから・・・。
もし、記憶が残っていたら奇跡だわ、余程、思いが強かったという事になる。
*******************************************************
「姫様、そろそろ起きて下さい。
今日は大切な戴冠式ですよ! 
大勢の市民達が姫様を祝うために広場に集まっております」

「分かったわ、爺、いいからもう少しだけ寝かして・・・。
あれ・・・さっきまでの事は夢だったの?
モンスター達に国が滅ぼされる寸前だったのを凛太朗達に助けられたんじゃ・・・。
え?凛太朗・・・って誰だっけ?
この胸を締め付けられる様な思いは何なの・・・。
私は夢の中の人に恋をしてしまったかも・・・?」

彼女は夢の中に大切なものを忘れて来た気がした。
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