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【ギガ王国:城郭都市とゴブリン兵】

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アンナは魔界の追手から逃げる様に辺境の地に流れて来てから日が浅い事もあってギガ国の王都迄来たのは初めてだった。
王都は小高い丘にあった。城壁を照らすランタンにギガ鉱石が、ふんだんに使われている様だ。
暗闇に輝く灯りが幻想的に見えた。
城壁はゴブリン(小鬼)兵が警備していた。
堀に掛かる跳ね橋は上がった状態で、行商の馬車などが来た時だけどうも橋を下ろしている様だ。
多分、僅かな光源が消えた時、闇からやって来る物の怪や魔獣の侵入を防ぐために違いない。
黒猫姿で行商の馬車に紛れて城壁の中に入る手もあったが、門では念入りに荷物の検査が行われていたので、闇に紛れる事が出来る蝙蝠(こうもり)姿で空から侵入する事にした。
ギガ城は城郭の中心部にあった。その周りを石造りの建物が立ち並んでいる。
更にそれを城壁が囲む形ので全体が城郭都市なっていた。
ギガ城にはゴブリン達が信仰していると思われる暗黒神を祀(まつ)る煌(きら)びやかな神殿がある一方、地下には冥界に来て間もないと思われる人族が囚われている牢があった。
城の中にいたのはゴブリンの上位種のゴブリンキングとホブゴブリン、それを守るゴブリン兵が殆どだった。それ以外の城下町ではゴブリンの他に少数の人族やオーク、それにコボルト達もいる様だ。
ゴブリン達は牢に繋げた人族を家畜にしているのではないかとアンナは思ったが、少数ではあるが人族も普通に住んでいるので、必ずしも人族を捕まえて食料としている訳ではなさそうだった。
ゴブリンと言えばひっそりと森や地下の下水道、炭鉱跡の洞穴などを住処としている魔物だが、ここはゴブリン達が住人の多数を形成する珍しい町だった。
アンナは昔、仲間の悪魔が我々魔族の手先になっているゴブリン達のルーツは冥界の辺境の地にどうもある様だと話していたのを思い出した。
確か、宇宙創生期の混沌とした時代、最初に、冥界辺境の地に住み付いたのはゴブリン達で、ある時、突然、神の大いなる力により全宇宙が崩壊し、それにより大地の揺れを感じない次元震が多発した事があった。それが直接の原因だったかどうかは分からないが、次元震の後、ゴブリン達が集落単位で消える事不可解な事が頻繁に起きたとの事だ。多分、その次元の綻びにゴブリン達が迷い数多の異世界に散らばったのではないかと言う話だった。
この地を見るまで、その時は根も葉もない話だと思っていたが、実はその話は真実だったのかも知れないとアンナは思った。

結局、腐界についての情報収集はできなかったが、夜明け前には部屋に戻り短い時間で知り得た情報を掻い摘み抗魔官を仕切っているカトリーヌに報告した。
同僚から聞いた話も含めてアンナは彼女に報告するとカトリーヌは長年抱いていた疑問が解けたと喜んでくれた。
彼女も何故、同種のゴブリンやオーク、コボルト達が次元の違う数多の世界にいるのかを疑問に思っていたそうだ。
彼女は報告を聞いて、少し考えを巡らせている様だった。

アンナはカトリーヌ達が、この辺境の地に来た理由は凛太朗のメンタルを強くするため腐界の竜鬼を倒し竜鬼の肝を食する事が目的だと聞いた。
チェリーから腐界に通じる穴は、この近くにあると聞いているが、必要ならゴブリンを捕まえて情報を聞き出すつもりだと話してくれた。

カトリーヌの正体を未だ知らないアンナは同じ、ちっぱい仲間として、彼女にシンパシー(sympathy:同情・共感)を何となく感じていたが、使い魔に成り下がったとはいえ悪魔である僕を恐れない風変りな姿をしたこの女は何者なんだと疑問が浮かんだ。
「時折、見せる笑顔に潜んでいる恐ろしい感じは、僕に隷属の印を付けた五月という神と同じじゃないか・・・?
悪魔である僕に恐れを感じさせる、この女も、もしかして神族なのか・・・」とアンナは思った。
その後、カトリーヌの正体を知ったのは彼女が黒のローブ姿に大鎌を持ち戦闘モードになった時だった。
冥界のアサシンとして悪魔を付け狙う死神、それも死神達を支配するマスターだと知りアンナは震えが止まらなかった。

朝食を済ませ美人女将との別れを惜しみながら凛太朗達は宿を後にした。
女将が、「うふぅん・・・」意味ありげに、「また来てね!」とウインクをして、♡(ハート)マークを飛ばして来たのが気になった。
岩風呂で裸のまま気を失って、あの後、どうなったのか・・・ベットで目を醒ましてから凛太朗はカトリーヌとチェリーに目が合わせる事が出来なくなってしまった。
起きた瞬間、頬を赤くした二人が目に入ったからだ。
「我ながら情けない・・・」と凛太朗は思った。

城郭都市に入る門は盾と剣、槍を持ったゴブリン兵達が守っていた。
カトリーヌは入城が拒否されたら余計なトラブルは避けて、何処かに口を開けている腐界への入り口を時間が掛かっても探そうと考えていたが、門を守っているゴブリン兵は袖の下に目が無く、ギガを忍ばせ渡すと、物見遊山だと告げても何も言わず検問を通してくれた。
ここはゴブリン達の城郭都市だが、各地から色んな亜人種の商人が荷馬車に産物を積み商売に訪れていた。
腐界についての情報を集めるため住人が集まる市場に行った。市場には各地の物産と多くの情報が集まるからだ。
アンナの報告では少数だが人がいるという話だったが、人が歩いている姿はみなかった。人間が珍しいのか、ゴブリン達の視線が気になった。

「凛太朗、ゴブリンは性根が悪いが、大きなオークは性格が大人しいから、そこの油がのった大きいのに聞いてみな・・・」

「おばさん、この近くに腐界へ行く入り口があると聞いたんだが、何処にあるか知らないかい」凛太朗は、カトリーヌに教えて貰った通り、ひと際大きいオークのおばさんに、ここでもギガを握らせ聞いた。

すると、おばさんはにっこり笑って、「お前さんたち、腐界の事を何処で聞いたんだい。
悪い事は言わないから、行くのを止めないかい。
誰かに腐界は別世界に繋がると聞いたんだろうが、あれは人間達をここに呼び寄せるためにゴブリンが流したデマなのさ・・・ここにやって来る人間を捕まえて、竜鬼に生贄として差し出すためにね・・・
月に一度、ゴブリン達は捕まえた生贄を差し出す儀式をするが、そうだね、明日あたり、その儀式があるんじゃないかな・・・その時に出てこなきゃ、竜鬼は気まぐれだ。腹が減ったら地面に穴を開け出てくるが、何時出てくるか誰も知らない。
腐界に行きたいのなら、竜鬼が地表に出ている間に空いた穴に入るんだ。
その時しかない。分かったかい。」

この冥界の辺境に来た目的はあくまで竜鬼を倒して肝を取る事であり腐界へ行く事が目的ではない。
それに腐界は地獄の最下層にあり汚物や臭気が流れ込んで耐え難い場所と聞いている。
奇麗好きのカトリーヌ的には出来たら行きたくない場所だ。
考えるまでも無く何処にあるか分からない奈落に繋がる穴を見つけるより、生贄に釣られてやって来る竜鬼が地表に現れるまで、この町で宿を取り待つ事にした。
部屋に入って間もなく動きがあった。
ゴブリン兵達が、予想通り宿を取り囲んだのだ。
この城郭都市に入る時、人種の凛太朗達を簡単に入城させたのは生贄にするためだったのだ。
この後、ゴブリン兵や竜鬼との壮絶な戦いが待っていた。

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