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【序  章】惑星奪還作戦&ハロウィンの魔法に掛かった夜

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「さあこい、魔族ども!  人間は一度は死ぬもんだ」。

何時だって大気圏外からの降下は体に震えがやって来る。
それは小隊軍曹になった今も、新兵の頃、初めて降下した時と同じだ。
バトルアーマー(battle armor:戦闘鎧)を着ちゃいるが、魔族が放つ強力なサイコビーム(破壊光線)に当たれば紙屑が発火する様に燃え上がる。
そうなれば名も知れぬ英霊として名を連ねる事になる。
魔族の巣窟になっている星に降下するぐらいだったら、死を掛けたロシアンルーレットをする方がいい。
何せ小隊のアーマー隊が一度の降下で半数は地上に付く前に塵に帰るのだから・・・。
ロシアンルーレットで、死神を引く確率は六分の一だが、この大気圏外からのダイブは二分の一、確率は50%だ。
小隊の半数は一度の降下で命を落とす事になる。

「アーマー隊の戦士達よ!
これよりM305惑星奪還作戦を開始する。
我らアーマー隊は銀河連合のエリート集団だ!
戦士としての誇りを忘れることなく、名を高めよ!
銀河に生きる同胞のために、この奪還作戦で魔族の拠点を破壊する!
命を惜しむな! いいか、お前達、死を恐れるな!
貴様らの名は、この俺が必ず墓標に刻んでやる!
よいか、我に続け!」

大隊長が士気を鼓舞し、宇宙揚陸艦の降下口から飛び出した。
それを合図に、この奪還作戦に参加した無数の揚陸艦からもバトルアーマー達がダイブ(dive:飛び込む)を始めた。それはさながら、この星の夜空に降り注ぐ流星群の様だ。
だが、それを魔族陣営の防空用サイコビームが、次々と狙い撃ち塵に変えていく。
俺の隣の新兵から小刻みに震えが伝わってくる。
彼女は体こそ大人だが、クローン戦士として培養する試験管から出て間もないから無理もない。
小隊長の俺でさえ、震えが止まらないのだから・・・。
俺の小隊の順番が回って来た。

「Good luck(幸運を祈る)」


*********************************************************
【ハロウィンの魔法に掛かった夜】

「・・・」俺は夢から醒めた。
何故か、このところ同じ夢を見ていた。
降下兵の少女の顔が、頭から離れない。
夢とは何時も不可解なものだが、まるで本当に現実に体験している様にリアルに感じた。
それも当然の事かも知れない。何故なら自身が、前世で体験した事だから・・・。
しかし、当然の事ながらその事を知る由もない。
この夢は、これから彼の身に起こる出来事を暗示していた。

始まりとも言える事件は大都会東京が、ハロウィンの魔法に掛かった夜に起こった。
この日、昼過ぎから東京センター街では学校帰りの学生が目立ち始め、やがて、ごった返った人込みに、それぞれが好き勝手なコスプレをした若者や露出の多いバニーガール姿に仮装をした女の子たち、それに上半身裸になって酒を飲み、大声で騒ぐ外国人達も散見される様になった。
夜が深まるにつれ、渋谷のスクランブル交差点でも、仮装した大勢の若者らが集まり熱気に包まれた。
渋谷やハチ公前のナンパスポットでは顔が普通レベルのナンパ男子でも、あしらわれるのを承知で、女の子を狙って蠢く姿が目に付いた。
そんな賑やかな大通りから少し路地裏に入ると、円山町エリアに入り、雰囲気がガラリと変わる。
そこはラブホテル街になり怪しげな雰囲気が漂うネオン街が広がる。
ハロウィンの魔法に掛かり浮かれ盛り上がったカップル達は、一夜限りの愛の逢瀬を楽しむため、路地裏のホテルに吸い込まれる姿が多く見受けられた。

「村主(すぐり)ちゃん、大丈夫かい?
少し飲み過ぎたのかな・・・この先で休んでいこう・・・♡」

「うふふ・・・何処に、いくのかな?」

「ほんの少し先、ネオンの奇麗なところさ」

「いゃ~ね私達、まだ知り合ったばかりじゃないの・・・」

「ねえ、そんなこと言わずに、いいだろう、今夜、二人の思い出を作りたいんだ」

男は茶髪で耳にピアスをしているが、スラリとした体形で、スーツ映えしている。
歌舞伎町で働くホストの様にも見える。
如何にも軽そう男はショットバーで知り合ったナイスバディの彼女が、飲んでいるカクテルに媚薬(びやく:惚れ薬)を入れ、巧みに口説きホテルに連れ込もうとしていた。
「うひひ・・・今日は上玉GETだ、この子は、いいオッパイしてそうだ」チャラ男が、ほくそ笑んだ。
その時だった。
突然、外灯の光から外れた目の前の暗闇が、裂けた様に見えた。

「ギギィ ギギィー 」

「ちょっと待って、あれ何なの・・・?」

「え・・・何が? ん・・・何だ?何だ? うわ~化け物だ」

「誰か、助けてくれ・・・」

「ぎゃー」

後にハロウイン猟奇殺人と呼ばれた殺人事件は、こうして何の前触れもなく唐突に起こった。
死体は未明、夜が明けきらない頃、偶々近くを通り掛かったホテルの従業員によって発見された。
通報を受けて、警視庁捜査隊、通称、機捜が、初動捜査を行うため犯罪現場に急行したが、そこには頭部がない男女が不自然に重なり合っていた。
死体は手足の肉が欠損、胴体には深い傷跡があり、切断部は鋭利な刃物ではなく、何かの大きな力で引き抜いたとしか考えられないものだった。
場慣れしている捜査員も思わず顔を背ける様な凄惨な殺人である。

本事件は殺人や強盗など凶悪犯を担当する捜査一課が、機捜からの連絡を受け動きだしたが、この事件の猟奇的と言える異常性から、一課を応援する形で、隠密裏に結城凛太朗(ゆうきりんたろう)が所属する特殊捜査班に出動命令が下されることになった。
凛太朗達特殊班が現場に到着した時には既に害者は検死に回されていたが、鑑識から提供を受けた現場写真は事件の凄惨さを物語っていた。

「やまさん、凶器は何でしょうか・・・どんな刃物を使ったら、こんな傷口になるんですかね?
明らかに人間離れした力で、首根っこを引き抜いたとしか思えないんですが・・・それに肉が欠損している」

「何を言っている。人間じゃないとしたら、何だと言うんだ・・・あれこれ憶測でものを言うんじゃない。
そんなことより現場を、もう一度、徹底的に調べて、手掛かりを探すんだ。
いいか、事件は会議室で起こるんじゃない、現場で起こるんだ。
必ず現場は何かを語り掛けてくれる筈だ・・・それに猟奇殺人と決まった訳ではない、怨恨の筋もある。地道な聞き込みが捜査の鉄則だ。分かったか・・・」

やまさんと呼ばれたベテランの捜査官は凄惨な殺人現場を見て、苛立ちを隠さず若手の刑事の質問を遮った。

年配の刑事は名前を山岡良治と言い、交番勤務から人一倍努力して念願のデカになった苦労人である。
彼の性格は生真面目で曲がった事がめっぽう嫌い、どちらかと言えば足で稼ぐデカ根性の持ち主だ。
特殊捜査班はハイジャック、爆破事件、それに新な任務として、このところ頻繫に起こっている猟奇殺人などに対処するために最近、新設された部署である。
従って、高度な科学知識・捜査技術に精通し、また格闘技に優れたエキスパートの役割を求められる部署なので、彼の様な昔ながらの気質を持ったデカは、どちらかと言えばミスマッチの人事に違いない。
彼は元々、強行犯を扱う捜査一課に所属していている刑事だったが、経験を買われ新設された特殊捜査班に班長補佐として、若手刑事の指導役として引き抜かれたのだ。
そんな昔ながらの気質を持つベテラン刑事とペアを組んでいるのが結城凛太朗だった。
老刑事が、よれよれのコートが似合うデカだとすれば、彼は、それとは対象的に背が高く、すらりとした体型に高級ブランドスーツをさり気なく着こなすスマートタイプの刑事だ。
だから、署内の若い婦人警官には秘かに彼を慕う者も多かった。
彼は名のある財閥の御曹司であり、親の後を継ぐという道もあったが、小さい時から好きだったアニメの名探偵コナンにあこがれて、敢えて親の反対を押し切り勘当同然になりながらも刑事になる道を選んだのだ。
とは言え成ろうと思ってデカになれるものではない。
通常刑事になるには交番勤務から始まり、五つの難関があると言われる。
『犯人の検挙数が多い・警察学校の成績が優秀である・拳銃の腕と格闘技に優れている。犯人を見抜く動物的な感がある。そして何よりも情熱ある』これらの条件が満たされなければ刑事にはなれない。
それが刑事は難関であるという所以であり、簡単に成ろうとしてなれないのだ。
だが、彼は若くして、花形の刑事に成れたのだから、やっかみを跳ね除けるだけの恵まれた才能と少しばかりの運があったに違いない。
刑事のタイプとしては相反する二人であったが、凛太朗は、熱血感の指導役としての先輩を尊敬していたし、老刑事もまた死に別れた息子の面影を見ているのか、見た目不釣り合いなコンビではあるが、意外と相棒と呼べる位、息が合って上手くいっている様である。

彼の所属する特殊捜査班は特殊事件捜査の秘匿性を保つために制服ではなく、スーツという出で立ちである。
当然、彼ら警察官は職務執行法に基づき執行権限に制約を受けるが、凶悪犯に対処するため、法で裁けない事件も彼らには隠密裏に対処することが許されている。
従って、脇には制服警官が標準的に携帯する38口径拳銃(リボルバー)とは違い、凶悪犯に対処するため対人用としては殺傷能力が高い軍用の9MM自動式拳銃をショルダーホルスターに収めていた。


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