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第十章 仮面のキス
第十五話 夢を叶える人
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スマートフォンを切り、菊花は顔を上げる。
「いちごちゃん――蘭先輩がこっち向かってるって。」
一冴は身構える。
「――本当?」
「うん。予想外のトラブルが祝賀会で起きていたみたい。けれど、蘭先輩を連れ出すことには成功したって。――いきなりで申し訳ないけど。」
トラブルというのが何か少し気になった。しかし、今はそれどころではない。
「――分かった。」
スマートフォンを一冴は手に取り、紅子にメッセージを送る。
「朝美先生はどう?」
事前に打ち合わせていただけあり、返信はすぐに来た。
「懐中電灯を探してるところ。」
「大丈夫。外は気にかけてない。」
一冴は返信した。
「分かった。ありがとう。」
スマートフォンをしまい、覚悟を決める。今から――蘭に対する気持ちを再び伝えに行くのだ。
部屋は暗い。しかし、少しだけ目が慣れてきて、菊花と梨恵の顔が薄っすらと浮かぶ。二人へと、別れの言葉を一冴はかけた。
「じゃあ――行ってくるね。」
行ってらっしゃい――と梨恵は言う。
気をつけて――と菊花もうなづいた。
窓辺に寄り、靴を履く。
窓を開けると、やや涼しい初夏の夜の空気がほほをなでた。メイド服のまま外を歩くのはためらわれる。しかし、行くしかない。
窓から出た。夜の学院を、一歩、二歩と歩きだす。
暗闇の中、徐々に足を速める。
そして鎮守の杜を駆け始めた。
*
窓から出てゆく一冴を菊花は見守る。
その姿が暗闇へ消えると同時に、胸がうずいた。
麦彦の悪だくらみをあえて見過ごしたと、一冴に知られたくなかった。ましてや、メイド服を着る手伝いをするために一冴と外へ出たくもなかった――どうしても独りで行かせたかったのだ。
そのことに強い罪悪感を覚える。
しかし――今は成功を祈るしかない。
――女装男子は百合乙女の夢を見るか?
賽は投げられた。
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一冴は身構える。
「――本当?」
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「――分かった。」
スマートフォンを一冴は手に取り、紅子にメッセージを送る。
「朝美先生はどう?」
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「懐中電灯を探してるところ。」
「大丈夫。外は気にかけてない。」
一冴は返信した。
「分かった。ありがとう。」
スマートフォンをしまい、覚悟を決める。今から――蘭に対する気持ちを再び伝えに行くのだ。
部屋は暗い。しかし、少しだけ目が慣れてきて、菊花と梨恵の顔が薄っすらと浮かぶ。二人へと、別れの言葉を一冴はかけた。
「じゃあ――行ってくるね。」
行ってらっしゃい――と梨恵は言う。
気をつけて――と菊花もうなづいた。
窓辺に寄り、靴を履く。
窓を開けると、やや涼しい初夏の夜の空気がほほをなでた。メイド服のまま外を歩くのはためらわれる。しかし、行くしかない。
窓から出た。夜の学院を、一歩、二歩と歩きだす。
暗闇の中、徐々に足を速める。
そして鎮守の杜を駆け始めた。
*
窓から出てゆく一冴を菊花は見守る。
その姿が暗闇へ消えると同時に、胸がうずいた。
麦彦の悪だくらみをあえて見過ごしたと、一冴に知られたくなかった。ましてや、メイド服を着る手伝いをするために一冴と外へ出たくもなかった――どうしても独りで行かせたかったのだ。
そのことに強い罪悪感を覚える。
しかし――今は成功を祈るしかない。
――女装男子は百合乙女の夢を見るか?
賽は投げられた。
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