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第九章 恋に先立つ失恋
第五話 舞菊
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しばらくのあいだ、一冴はその場から動けなかった。
蘭との関係は終わった。自分が男であるせいで――菊花が明かしたせいで。絶望的な現実の前で、何を考えたらいいか分からなかった。
ふらふらと歩き始める。
目の焦点が合わず、景色が歪んだ。
菊花はなぜ明かしたのだろう。梨恵に知られたのだから、蘭も知るべきだと思ったのか。あるいは別の理由か。そうでなくとも菊花は意地が悪い。幼い頃はもっと露骨だった。一冴のことを今も見下げているのだろう。
菊花を問い詰めなければならない。明かしたらどうなるかなど分かっていたはずではないか。その上で明かしたというのか――なぜなぜなぜ。
ひとまず教室へ行ってみることとする。
教室に菊花はいた。自分の席で本を読んでいる。
一冴は静かに近寄った。
「東條さん――ちょっといい?」
苗字で呼ばれ、困惑するように菊花は目を瞬かせる。
「――何?」
「ひとけのない処で話したいんだけど。」
「あ――うん。」
教室を出て、階段の陰へと移動する。
周囲に人がいないことを確認すると、男の声で一冴はささやいた。
「お前――いったい何なの?」
菊花の顔に怯えが浮かぶ。
「え――何が?」
「とぼけんな――蘭先輩に全部話したんだろが。」
菊花は沈黙する。
それを、何も答えられないためだと一冴は解釈した。
「お前――いい加減にしろよ? 蘭先輩、文藝部から出てけって言ってたぞ? 俺が出て行かなけりゃ――自分が出ていくんだってさ。転校して寮からも出ていくって言ってた。」
菊花は何かを考えたあと、恐る恐る問うた。
「あの、私が話した――って、蘭先輩が?」
「当り前だろが!」
一冴は声を荒げる。
一瞬の後、冷静さを失ったことに気づいた。
階段の陰から廊下を覗く。
男の声がしたと誰も気づいていないようだ。
一は視線を戻す。
「しょせん、お前もあの爺さんの孫だな。」
菊花の表情にひびが入った。
「お前なんかもう顔も見たくねえ。」
それだけ言うと、一冴は立ち去って行った。
蘭との関係は終わった。自分が男であるせいで――菊花が明かしたせいで。絶望的な現実の前で、何を考えたらいいか分からなかった。
ふらふらと歩き始める。
目の焦点が合わず、景色が歪んだ。
菊花はなぜ明かしたのだろう。梨恵に知られたのだから、蘭も知るべきだと思ったのか。あるいは別の理由か。そうでなくとも菊花は意地が悪い。幼い頃はもっと露骨だった。一冴のことを今も見下げているのだろう。
菊花を問い詰めなければならない。明かしたらどうなるかなど分かっていたはずではないか。その上で明かしたというのか――なぜなぜなぜ。
ひとまず教室へ行ってみることとする。
教室に菊花はいた。自分の席で本を読んでいる。
一冴は静かに近寄った。
「東條さん――ちょっといい?」
苗字で呼ばれ、困惑するように菊花は目を瞬かせる。
「――何?」
「ひとけのない処で話したいんだけど。」
「あ――うん。」
教室を出て、階段の陰へと移動する。
周囲に人がいないことを確認すると、男の声で一冴はささやいた。
「お前――いったい何なの?」
菊花の顔に怯えが浮かぶ。
「え――何が?」
「とぼけんな――蘭先輩に全部話したんだろが。」
菊花は沈黙する。
それを、何も答えられないためだと一冴は解釈した。
「お前――いい加減にしろよ? 蘭先輩、文藝部から出てけって言ってたぞ? 俺が出て行かなけりゃ――自分が出ていくんだってさ。転校して寮からも出ていくって言ってた。」
菊花は何かを考えたあと、恐る恐る問うた。
「あの、私が話した――って、蘭先輩が?」
「当り前だろが!」
一冴は声を荒げる。
一瞬の後、冷静さを失ったことに気づいた。
階段の陰から廊下を覗く。
男の声がしたと誰も気づいていないようだ。
一は視線を戻す。
「しょせん、お前もあの爺さんの孫だな。」
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「お前なんかもう顔も見たくねえ。」
それだけ言うと、一冴は立ち去って行った。
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