93 / 133
第八章 白山女子寮連続パンツ失踪事件-後編
第五話 むぢな
しおりを挟む
放課後のことである。
文藝部での活動を一冴は終え、紅子と共に玄関へ向かった。菊花はいない。どこへ行っているのか、最近は放課後に姿を見せないのだ。
雨は激しい。時として稲妻が奔り、ぱっと空が明るくなる。
玄関へ着き、傘立てから傘を探した。
ところが、傘はどこにもない。
紅子が情けない声を上げる。
「どうしよう――同志いちご。傘が――ないんだが。」
「あの――私も。」
紅子はぽかんと口を開ける。
「まさか――盗まれた?」
「かもしれない。」
外を見やる。相変わらず雨は激しい。
「どうしよう」と紅子は言う。「傘を貸してくれそうな人は――」
「いないだろうねえ。」
雨は激しい。このまま待ち続けることはできない。
梨恵はもう帰っただろうか。この時間ならば、恐らくは部屋には着いていない。だが――ぐずぐずしていたら、濡れて帰るばかりか、梨恵の前で着替えることとなる。
紅子は不安そうな顔をする。
「このままでは門限になってしまうぞ? しかも、私たちは今日、夕食当番ではないか? もしも濡れて帰ったとして――身体を拭いていたら、当番に遅れてしまうぞ?」
「――そうだねえ。」
一冴は歯がみをする。
「どうする? 吶喊する?」
「そうだな。」紅子は顔を引き締める。「吶喊しよう。」
「じゃ――行こか。」
勢いをつけ、二人は玄関から飛び出た。
雨の中を駆ける。
冷たい雫が髪や服に染み込んだ。
梨恵より先に寮へ着かなければならない。しかし、もしも梨恵が先に帰っていたら、どうしたらいいのだろう。背中を向けて着替えればぎりぎり誤魔化せるだろうか。
桜の葉のトンネルを駆ける。鎮守の杜は暗い。樹々にさえぎられて雨は少し弱まったような気がした。しかし、ふりしたたる雫は一回り大きくなる。
このとき、梨恵とすれ違っていたことに一冴は気づかなかった。
寮まで駆け、玄関へと飛び込む。
ずぶ濡れの紅子が声を上げる。
「ひー! もう、びしょびしょだ。」
「ともかくも、早く帰って着替えなきゃ。」
「そうだな!」
それから、それぞれの部屋へと駆けこんだ。
梨恵はまだ戻っていなかった。そのことに一冴は安心する。
備え付けのタオルで水滴をさっと拭く。制服を脱ぎ、キャミソールを脱ぎ、クローゼットを開いた。下着をしまっている箪笥を開け――そして凍りつく。
キャミソールが――ない。
慌てて他の箪笥も空ける。
当然のように、キャミソールは全て消えていた。
何が起きているのかは分からないが、上着を羽織らなければならない。
そう思い、ハンガーにかけられた服を手にしたときだ。
ドアノブを開ける音がした。
心臓が高鳴る。
そして、明かりがふっと消えた。
文藝部での活動を一冴は終え、紅子と共に玄関へ向かった。菊花はいない。どこへ行っているのか、最近は放課後に姿を見せないのだ。
雨は激しい。時として稲妻が奔り、ぱっと空が明るくなる。
玄関へ着き、傘立てから傘を探した。
ところが、傘はどこにもない。
紅子が情けない声を上げる。
「どうしよう――同志いちご。傘が――ないんだが。」
「あの――私も。」
紅子はぽかんと口を開ける。
「まさか――盗まれた?」
「かもしれない。」
外を見やる。相変わらず雨は激しい。
「どうしよう」と紅子は言う。「傘を貸してくれそうな人は――」
「いないだろうねえ。」
雨は激しい。このまま待ち続けることはできない。
梨恵はもう帰っただろうか。この時間ならば、恐らくは部屋には着いていない。だが――ぐずぐずしていたら、濡れて帰るばかりか、梨恵の前で着替えることとなる。
紅子は不安そうな顔をする。
「このままでは門限になってしまうぞ? しかも、私たちは今日、夕食当番ではないか? もしも濡れて帰ったとして――身体を拭いていたら、当番に遅れてしまうぞ?」
「――そうだねえ。」
一冴は歯がみをする。
「どうする? 吶喊する?」
「そうだな。」紅子は顔を引き締める。「吶喊しよう。」
「じゃ――行こか。」
勢いをつけ、二人は玄関から飛び出た。
雨の中を駆ける。
冷たい雫が髪や服に染み込んだ。
梨恵より先に寮へ着かなければならない。しかし、もしも梨恵が先に帰っていたら、どうしたらいいのだろう。背中を向けて着替えればぎりぎり誤魔化せるだろうか。
桜の葉のトンネルを駆ける。鎮守の杜は暗い。樹々にさえぎられて雨は少し弱まったような気がした。しかし、ふりしたたる雫は一回り大きくなる。
このとき、梨恵とすれ違っていたことに一冴は気づかなかった。
寮まで駆け、玄関へと飛び込む。
ずぶ濡れの紅子が声を上げる。
「ひー! もう、びしょびしょだ。」
「ともかくも、早く帰って着替えなきゃ。」
「そうだな!」
それから、それぞれの部屋へと駆けこんだ。
梨恵はまだ戻っていなかった。そのことに一冴は安心する。
備え付けのタオルで水滴をさっと拭く。制服を脱ぎ、キャミソールを脱ぎ、クローゼットを開いた。下着をしまっている箪笥を開け――そして凍りつく。
キャミソールが――ない。
慌てて他の箪笥も空ける。
当然のように、キャミソールは全て消えていた。
何が起きているのかは分からないが、上着を羽織らなければならない。
そう思い、ハンガーにかけられた服を手にしたときだ。
ドアノブを開ける音がした。
心臓が高鳴る。
そして、明かりがふっと消えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる