79 / 133
第七章 白山女子寮連続パンツ失踪事件-前編
第一話 これがゆえに恋はできない。
しおりを挟む
五月三十一日――土曜日の昼下がりのことである。
菊花の部屋へと一冴は遊びに来ていた。プラモデルを紅子と作るためだ。
季節は既に梅雨である。窓の外は暗く、雨音が聞こえる。
一冴が作っているのは日本帝国の爆撃機・彗星であり、紅子が作っているのはソヴィエト聯邦の戦鬪機・Ла-7だ。テーブルの上には、蓋を下に重ねた箱が二つと、無数のプラスチック片、接着剤などが転がっている。
ベッドの上では菊花がうつぶせになり、ミステリ小説を読んでいた。
紅子が口を開く。
「しかしまあ、こうして見てみると艦上爆撃機と戦鬪機って結構ちがうね。外見だけだと、そんな違わない? って感じなんだけどさ。――そっちは二人乗りなんだっけ?」
「うん。コックピットもそれだけ広く取ってあるし、後方が開けてるよね。爆弾も五百キロまで搭載できたっていうし。」
「あー、こっちは二百キロまでだわ。」
「けど、そっちのほうが速いんでしょ? 彗星は一二型で五百七十キロまでだから。」
「こっちは最大で六百八十キロ。まあ、用途が違うからね。」
ドアがノックされたのはそのときだ。
はい――と紅子は返事をする。
ドアが開き、ビニール袋を手にした蘭が現れた。
「すみません――菊花ちゃんに用があって参りました。」
菊花は顔を上げ、露骨に眉をひそめる。
「――何ですか?」
「いえ――実は先日、амаzоиで可愛らしいメイド服を見かけましたの。菊花ちゃんに似合ふのではないかと思って、ついポチってしまひました。それが今日とゞきましたので、よろしければ着ていたゞけませんでせうか――?」
言って、手元の袋を蘭はさしだす。
菊花は迷惑そうな顔をした。
「いや、そんな物わたされても――」
「えっ? 夕食の当番のときとか、この服で作って下さったら可愛いなと思ってゐたのですが。」
「迷惑です。」
蘭は残念そうな顔をした。
代わりに、紅子が身を乗りだす。
「ほう、メイド服ですか。」
「はい。可愛らしいふり〳〵のメイド服です。」
「菊花ちゃんがいらないなら、私が受け取ってもいいですか?」
「構ひませんよ。」
紅子は袋を受け取り、まじまじとながめる。
「着てみてもいいですか?」
「えゝ、是非とも!」
紅子は袋を開け、メイド服を取りだす。
濃紺のワンピースと白いエプロンが現れた。
紅子が服を脱ぎだしたので、一冴は目を逸らす。
代わりに、プラモデルの続きを作った。
やがて紅子の声が聞こえた。
「同志いちごー、ちょっとエプロンの後ろ縛ってくれー。」
顔を上げる。
紅子は、濃紺のワンピースの上に白いエプロンを羽織っていた。リボンは結ばれておらず、背中に垂れている。一人では確かに結びづらそうだ。
紅子の背中へと廻り、リボンを結ぶ。肩から伸びたフリルが腰に交差した。細い腰。丸い尻。一冴にはない女の身体を紅子は持っている。尻より少し上の位置に、白い羽のようなちょうちょ結びが拡がった。
メイド服を着終えた紅子は、さまざまなポーズを取り始める。
「まあ、可愛らしいですわ、紅子ちゃん。」
かすかな羨望のあとに、劣等感を覚えた。
作りかけの戦鬪機を一冴は再び手に取る。
そして、ふっと気づいた。
なぜ、菊花にばかり蘭は目を向け、一冴には振り向かないのか。しかし、これが原因ではないだろうか。根本的に一冴は男だ。そうであるがゆえに、知らず知らずのうちに何かの違いが出ているのではないか。
菊花の部屋へと一冴は遊びに来ていた。プラモデルを紅子と作るためだ。
季節は既に梅雨である。窓の外は暗く、雨音が聞こえる。
一冴が作っているのは日本帝国の爆撃機・彗星であり、紅子が作っているのはソヴィエト聯邦の戦鬪機・Ла-7だ。テーブルの上には、蓋を下に重ねた箱が二つと、無数のプラスチック片、接着剤などが転がっている。
ベッドの上では菊花がうつぶせになり、ミステリ小説を読んでいた。
紅子が口を開く。
「しかしまあ、こうして見てみると艦上爆撃機と戦鬪機って結構ちがうね。外見だけだと、そんな違わない? って感じなんだけどさ。――そっちは二人乗りなんだっけ?」
「うん。コックピットもそれだけ広く取ってあるし、後方が開けてるよね。爆弾も五百キロまで搭載できたっていうし。」
「あー、こっちは二百キロまでだわ。」
「けど、そっちのほうが速いんでしょ? 彗星は一二型で五百七十キロまでだから。」
「こっちは最大で六百八十キロ。まあ、用途が違うからね。」
ドアがノックされたのはそのときだ。
はい――と紅子は返事をする。
ドアが開き、ビニール袋を手にした蘭が現れた。
「すみません――菊花ちゃんに用があって参りました。」
菊花は顔を上げ、露骨に眉をひそめる。
「――何ですか?」
「いえ――実は先日、амаzоиで可愛らしいメイド服を見かけましたの。菊花ちゃんに似合ふのではないかと思って、ついポチってしまひました。それが今日とゞきましたので、よろしければ着ていたゞけませんでせうか――?」
言って、手元の袋を蘭はさしだす。
菊花は迷惑そうな顔をした。
「いや、そんな物わたされても――」
「えっ? 夕食の当番のときとか、この服で作って下さったら可愛いなと思ってゐたのですが。」
「迷惑です。」
蘭は残念そうな顔をした。
代わりに、紅子が身を乗りだす。
「ほう、メイド服ですか。」
「はい。可愛らしいふり〳〵のメイド服です。」
「菊花ちゃんがいらないなら、私が受け取ってもいいですか?」
「構ひませんよ。」
紅子は袋を受け取り、まじまじとながめる。
「着てみてもいいですか?」
「えゝ、是非とも!」
紅子は袋を開け、メイド服を取りだす。
濃紺のワンピースと白いエプロンが現れた。
紅子が服を脱ぎだしたので、一冴は目を逸らす。
代わりに、プラモデルの続きを作った。
やがて紅子の声が聞こえた。
「同志いちごー、ちょっとエプロンの後ろ縛ってくれー。」
顔を上げる。
紅子は、濃紺のワンピースの上に白いエプロンを羽織っていた。リボンは結ばれておらず、背中に垂れている。一人では確かに結びづらそうだ。
紅子の背中へと廻り、リボンを結ぶ。肩から伸びたフリルが腰に交差した。細い腰。丸い尻。一冴にはない女の身体を紅子は持っている。尻より少し上の位置に、白い羽のようなちょうちょ結びが拡がった。
メイド服を着終えた紅子は、さまざまなポーズを取り始める。
「まあ、可愛らしいですわ、紅子ちゃん。」
かすかな羨望のあとに、劣等感を覚えた。
作りかけの戦鬪機を一冴は再び手に取る。
そして、ふっと気づいた。
なぜ、菊花にばかり蘭は目を向け、一冴には振り向かないのか。しかし、これが原因ではないだろうか。根本的に一冴は男だ。そうであるがゆえに、知らず知らずのうちに何かの違いが出ているのではないか。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる