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第五章 仮面の告白
第十二話 造花の百合
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追いかけっこは数分ほど続いた。途中、教師から蘭は引き留められ、廊下を走るなと叱られていた。
その傍らで、蘭を差し置いて一冴は菊花を追いかける。
やがて、校舎の裏側で菊花と合流した。
菊花は――疲れ果てたようにベンチに坐り、ぐったりしている。
「大丈夫なの――?」
「いや――」と菊花は答える。「まさか、蘭先輩があそこまでしつこいとは思わなかった。」
「うん――そうだよね。」
一冴は菊花の隣に坐る。
菊花は横目で一冴を視た。
「分かったでしょ。蘭先輩のことは諦めなって。」
一冴も詰まる。告白したことはいい――しかし、見事に振られてしまった。たとえ一冴を同性だと思っていたとしても、結局は菊花しか見ていない。
けれども、前向きにも考えられる。
性別を偽って交際するまで――少し猶予が生まれたのだ。
「諦めない。」
なので、一冴はそう言った。
菊花はやや呆れた顔になる。
「――本気?」
「だって――蘭先輩だって諦めてない。」
「まあ――私は諦めてほしいいけどね。」
百合の花を誰もが少女は心に持つと蘭は言った。
自分にはあるのか――百合の花が。
一冴が蘭を好きでも、それは百合とは言わない――自分がレズビアンではないように。
あるとしたら――造花の百合だ。
――大切なのは、心。
梨恵の言葉が蘇る。
朝、しっとりと白百合が朝露に濡れているように、
造花の百合に――心は宿るのだろうか。
(第一部 - 終)つづく
その傍らで、蘭を差し置いて一冴は菊花を追いかける。
やがて、校舎の裏側で菊花と合流した。
菊花は――疲れ果てたようにベンチに坐り、ぐったりしている。
「大丈夫なの――?」
「いや――」と菊花は答える。「まさか、蘭先輩があそこまでしつこいとは思わなかった。」
「うん――そうだよね。」
一冴は菊花の隣に坐る。
菊花は横目で一冴を視た。
「分かったでしょ。蘭先輩のことは諦めなって。」
一冴も詰まる。告白したことはいい――しかし、見事に振られてしまった。たとえ一冴を同性だと思っていたとしても、結局は菊花しか見ていない。
けれども、前向きにも考えられる。
性別を偽って交際するまで――少し猶予が生まれたのだ。
「諦めない。」
なので、一冴はそう言った。
菊花はやや呆れた顔になる。
「――本気?」
「だって――蘭先輩だって諦めてない。」
「まあ――私は諦めてほしいいけどね。」
百合の花を誰もが少女は心に持つと蘭は言った。
自分にはあるのか――百合の花が。
一冴が蘭を好きでも、それは百合とは言わない――自分がレズビアンではないように。
あるとしたら――造花の百合だ。
――大切なのは、心。
梨恵の言葉が蘇る。
朝、しっとりと白百合が朝露に濡れているように、
造花の百合に――心は宿るのだろうか。
(第一部 - 終)つづく
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