女装男子は百合乙女の夢を見るか? ✿【男の娘の女子校生活】学園一の美少女に付きまとわれて幼なじみの貞操が危なくなった。

千石杏香

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第五章 仮面の告白

第四話 クラスメイトは引きこもり

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四月二十九日――火曜日。

朝食を摂ったあと、一冴は外出の準備をした。

生成り色のフリルつきカットソーの上に、桜色のワンピースをまとう。

一か月以上、男の服を着ていない。女子の姿にも慣れ、動作や声も自然になった。そこに安心を覚える。お洒落には気をつかっていた。外見は気になるし、できれば蘭から振り向かれたい。

まるで造花の百合が、本物の百合になりたがって無駄な努力をしているようだ。

――本当に?

本当に――自分の全ては男子なのだろうか。

ノートや筆記用具、学生証などをバッグに入れた。

洗面台では、理容師が使うようなはさみを使って梨恵が自分の髪を切っている。

ドアがノックされたのはそのときだ。

「いちごちゃーん、もう準備できたー?」

紅子の声だ。

「うん、今いく!」

一冴はバッグを手に取る。

「じゃ、梨恵ちゃん、お先に。」

「うん、行ってらっしゃい。」

寮を出ると、涼しい風が肌をなでた。

入寮したときは満開だった桜は散り、蒼々とした葉がしげっていた。斑点を散らしたような木漏れ日が石畳へ落ち、桜の樹々の枝葉とともにゆれる。

「それにしても」と紅子は言う。「私、街に出るのって実は初めて。」

「そうなの?」

「自慢じゃないけど、入寮してから引きこもりだったから。」

「確かに自慢にならないね。」

「だから、街の様子とか全然分かんないんだ。」

「そう。――けど、私は梨恵ちゃんと何度か出てるし、案内なら任せて。」

よかった――と紅子は言う。

「図書館にも、もう行ったの?」

「ううん――まだ。」

――嘘だけど。

本当は――この街の図書館は何度も利用している。

上原一冴はこの街にいない。古い知人と街ですれ違っても一冴だと気づかれない。自分も彼らを他人と思わなければならない。

ここにいるのは、女子の「上原いちご」だ。

「――でも、安心して。行き方は分かるよ。」

「まあ――そりゃさすがに分かってなきゃね。」

学園を出る。

徒歩で高台を下り、ふもとで路面電車に乗る予定だ。

「「貴様と俺とーはー、同期の桜ー♪」」

坂を下りながら、二人で歌を歌う。

「「おーなじ兵学校のー、にーわーにーさーくー♪」」

一冴のスマートフォンが鳴ったのはその時だ。
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