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第四章 いちごちゃんは告りたい!

第九話 学園一の美少女の百合的考察

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菊花の行動に、蘭は呆然と立ちつくした。

――ラブラブですよ。

その言葉が耳に残っている。

普通ならば、友人同士のたわむれでしかない。しかし、まるで自分に近づくなと言わんばかりに、その行動を菊花は見せつけた。

いや、それだけではない。

実は――菊花のことを調べている最中、ずっと引っかかっていたのだ。

「いちご」と菊花の仲は妙に近くないか。

親戚同士なのだから特に仲がいいのは変ではない。

だが、「いちご」に対する菊花の態度は妙だ。「いちご」へと時に向ける視線・微細な表情――注意深く観察すれば、何かを気にかけているらしいと判る。

――菊花ちゃん、本当にいちごさんと?

加えて、「いちご」が同性に惹かれる可能性は高いのではないかとは実は思っていた。顔立ち、素振り、女性と話すときの視線や動作など――何となくだが、自分と同じものを感じる。

二人には、百合的な関係が既にあるのだろうか。

「いちご」の腕を菊花が抱いたとき――何となく感じていたその疑惑は、急に真実味を帯びた。しかも、「ラブラブ」とまで言ったのだ。

――けど、本当に?

「いちご」は、少し戸惑った顔をしていなかったか。

ただの冗談という可能性もある。

蘭はきびすを返し、二人が去った方へ向かった。

教室棟の階段の陰に二人はいた。しかも小声で何かを話し合っている。

二人に気づかれないよう、こっそりと柱の陰から様子を伺う。

やがて、「いちご」は教室へ駆け始めた。

「私は――菊花ちゃんとはつきあえないんだから!」

ますます疑念は深まった。

――二人はつきあってゐない?

けれども――菊花は「いちご」とつきあいたいのか。

そんなことを考えつつ、蘭もまた教室へ帰った。

やがて午前中の授業は終わる。

蘭は今日も学食で昼食を摂った。しかし、いくら待っても菊花たちは来ない。

――さすがに学食は避けるやうになりましたか。

昼食を終えると、菊花の姿を探して再び歩きだした。

だが、その日に限って菊花は見つからなかった。図書室に教室に文藝部室――いそうなところにいない。あてどなく校舎をさまよい、職員室前にさしかかる。

そんなとき、失礼しました――という声と共に何者かが職員室から出てきた。

梨恵だった。

確か、「いちご」と梨恵の部屋は同じだったはずだ。何か情報を得られるかもしれない――そう思い、梨恵へと近づいた。

「伯伯伎さん。」

梨恵は小首をかしげる。

「――はい?」

「少し――お話しよろしいでせうか?」

「え――はい。」

「あまり他人には聞かれたくない話題ですので、ひとけのない処へ行きませうか。」

「はい。」

そうして二人は教室棟から出た。校舎の裏に廻り、テラスにあるベンチに腰かける。

「そんで、お話しってえのは何でしょう?」

「実は――いちごさんのことなのです。」

「――いちごちゃんの?」

「はい。最近、何やら元気がないやうな感じが致しません?」

これは口から出まかせだった。

ところが、梨恵はうなづく。

「あー、鈴宮先輩もそがにぃ思いんさる?」

――さうなの?

とりあえず、今は同意するしかない。

「はい。伯伯伎さんは、何か心当たりございますか?」

「うーん。」梨恵は少し考える。「恋の悩みっぽいですけど。」

「――恋?」蘭の身体が固まる。「いちごさん、どなたか好きな方がゐらっしゃいますの?」

「え――ええ。そうらしいです。」

「どんな方か、分かります?」

「えーっと――ここだけの話――中学の頃の先輩らしいですよ? 片思いの彼がおったみたいで――」
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