女装男子は百合乙女の夢を見るか? ✿【男の娘の女子校生活】学園一の美少女に付きまとわれて幼なじみの貞操が危なくなった。

千石杏香

文字の大きさ
上 下
26 / 133
第二章 男の娘と百合の園

第十三話 百合ほど難しいものはない

しおりを挟む
その日以来、プロットに一冴は悩んだ。

一応、百合を書くと言った――しかし何のイメージも湧かない。

蘭に近づこうと思って文藝部に入った。だが、思わぬ難関に当たる。しかも、半年間も何も書かなければ文藝部を追放されてしまうのだ。

木曜の夜も、プロットについて考え続けていた。

やがて入浴の時間となる。

浴室で体を洗い、温かい湯船に浸かった。一日の疲れが、じわじわと全身から取れてゆく。

好きなものを書け――と早月は言った。

――自分が好きなもの。

最初に思い浮かぶのは戦闘機や戦車などだ。プラモデルを作っていたとき、その機関部や武装は様々な情景を浮かばせた。結果、随分と知識を蓄える。これならば、様々なことを語ることができるのだ。

では、それと百合を合わせたらどうなるのか。

――女の子が戦鬪機に乗って戦うとか?

似たようなアニメはもうあったような気がする。

そもそも、少女が戦争をする話は作者が男ばかりだ。

同年代の少女が思いつきそうなものを作らなければならない。しかし、百合を書くと言ってしまった。その時点で既に一般的な女子らしくないのではないか。

では何を書けばいいのか――自分が好きなもので、詳しいもので。

戦争は泥臭く、男臭い――百合と合うはずもない。

――そもそも、十代の女の子が戦争に出るわけない。

むしろ、戦争で犠牲になる側ではないか。

そこまで考え、ふと気づいた。

――悪くない。

戦争で犠牲になる少女の話なら、あまり男らしくないはずだ。

頭の中に光景が浮かぶ。

敵国の侵攻を受けた廃墟の街が拡がっている。恐らく第二次世界大戦ごろか。場所は欧州だ。

燃え残る戦火と雪。絶望の底で、途切れそうな友情を結ぶ二人の少女がいる。

――これだ。

これならば、男の臭いを遠ざけつつ、自分が詳しいものを書けるのではないか。

他の寮生との交代の時間が近づいて来たので、湯船から上がる。

そして、鏡に映る自分の身体が目に入った。平たい胸。股間についた物。そんな中、顔だけが女に見える。

男の臭いどころか――自分は男なのだ。

風呂から上がり、着替え、髪を乾かす。

やがて就寝時間となった。

一冴も梨恵も眠りにつく。同じ部屋で少女と寝ているという点では、幼い頃に戻ったかのようだ。同居人も、自分のことは女だと思っている。


夜が明けた。


今日は朝食当番だ。

朝食当番は、他の寮生より一時間早く起きなければならない。

スマートフォンの振動で一冴は目を覚ます。部屋はまだ暗い。眠かったが、当番のことを思い出して起き上がる。人工乳房の位置を直し、顔を洗い、制服に着替えた。

窓の外が白くなってきた頃、梨恵のスマートフォンがアラームを鳴らした。

梨恵は手を伸ばし、アラームを止め、画面へ目をやる。

「なんだまだ五時だが。」

布団をかぶり、再び寝始めた。

梨恵に近づき、耳元で声をかける。

「駄目でしょ、梨恵ちゃん! 朝食当番!」

「うあ? ああ――ああ。」

ようやく気づいたらしく、梨恵は起き上がる。

「おはよ、いちごちゃん。」

「うん、おはよう。」

「てか、いつも早いだな? 何でそがな早ぁ起きとるう?」

「り――梨恵ちゃんが遅いだけだよ。」

「ほんにー。」

ベッドから降り、梨恵は準備を始める。

それから、一〇五号室から一〇八号室までの生徒たちが厨房に集まった。朝美の指示に従い、エプロンと三角巾をつけ、朝食を作る。

一冴と梨恵は鮭を焼く当番を命じられた。

その隣では、菊花と紅子が卵焼きを焼いている。

ジュージューという音と共に、鮭や卵が香ばしい匂いを立てる。

鼻歌が聞こえてきたのはそのときだ。

振り返った。

卵焼きを作りながら、紅子が鼻歌を歌っている。

「ふふふ、ふーふふーん、ふふふふーふふーん、ふふふふーふふーふーふふーん。」

それは一冴にとって聴き覚えのある調べだった。

――マジか?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...