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第一章 初めてのスカート
第九話 幼なじみの秘めた想い
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自分にとって一冴は何なのだろう――と菊花はよく考える。
幼いころから菊花は一冴とよく遊んでいた――というより、無理やり遊びにつきあわせていた。
佳倫がいるため、口実はいくらでもある。おままごとでは犬の役をやらせ、魔法少女ごっこでは敵役をやらせた。菊花の行動は時に逸脱し、おはぎだと騙して泥だんごを食べさせたり、砂場に組み伏せて頭から砂をかけたりした。
一冴はだまされやすく、からかえば面白い。
しかし、小学校になれば距離が開く。特に二年生の時はクラスが違い、それぞれに新しい友達ができた。それが菊花は不満だった。お気に入りのおもちゃが、自分から離れたような気がする。
――かずさ、女の子とばっか遊んでて超きもい。
不満を晴らすように菊花は一冴にちょっかいを出した。男子たちの苛めに加わったり、雪が降ると雪玉を投げつけたり、当番では厭な役割を無理やりやらせたりした。
結果――むしろ距離は開いてゆくこととなる。
それに気づいた後は菊花もおとなしくなった。
代わりに、佳倫との親交を深めることとなる。
佳倫と遊ぶという理由で、菊花はよく上原家を訪れた。
結果、一冴とは一定の距離をたもっている。しかし、それだけだ。菊花と佳倫が居間でゲームをしていても、一冴は無視する。どうせならば、僕も仲間に入れてと言うべきではないか。もちろん、そうなったらなったで揶揄っただろうが。
その感情は、時として罵声となった。
中学に入り、一冴は露骨に蘭を気にかけ始める。そのたびに苛立った。自分の物であるはずのものが、どんどんと自分の物ではなくなってゆく。
一冴のことなど自分は好き「ではない」のだと思った。
ただ、一冴は自分の思い通りにならなければならないのだ。
二月初旬のこと、チョコレートを作った。中には、唐辛子の粉を大量に入れる。これを食べれば、一冴は辛さでむせび泣くに違いない。自分は、それを面白がるために作るのだ。
しかし、二月十四日――菊花はそれを渡せなかった。
大好きだよ――と言うのでもいい。義理だよ――と言うのでもいい。こんなものはどうせ悪戯なのだから。ともかくも渡せばよかったのだ。しかし、それができなかった。
家に帰り、そのチョコレートを自分で食べた。
普通のチョコレートの甘みのあとに、酷い辛さが襲ってくる。
仮初の言葉であっても、やはり恥ずかしかったのか。いや――このチョコレートは酷く辛い。たとえ仮初の言葉であっても、こんなものを渡した途端、その気もちまで本当に仮初になるからではないのか。
チョコレートが辛すぎたため、涙が出た。
やがて自分は白山女学院へ入る。東條家に生まれた以上、それは定められている。しかしそうなれば、一冴とはさらに離れてしまう。小学生の時、中学生の時――やがて入る高校と、段階を踏みながら一冴は離れてゆく。
一冴の女装を知った時はうれしかった。バラされては最もまずい秘密を握ったのだ。しかも、まるで着せ替え人形のように一冴の女装は似合っていた。
それから半年ほど経ち、一冴の父が麦彦に融資を頼んだ。
ひらめいたのはそのときだ。
一冴の女装姿を麦彦に見せればいい。そして、白山女学園へ入学させるのだ。成功するかどうかは分からない――しかし、こういう非常識なことが麦彦は好きだ。そのうえ、麦彦は菊花を猫かわいがりしている。
そうして、菊花が一冴と相部屋になればいい。
――女が女を好きになるわけがない。
もはや一冴は誰にも盗られないのである。
幼いころから菊花は一冴とよく遊んでいた――というより、無理やり遊びにつきあわせていた。
佳倫がいるため、口実はいくらでもある。おままごとでは犬の役をやらせ、魔法少女ごっこでは敵役をやらせた。菊花の行動は時に逸脱し、おはぎだと騙して泥だんごを食べさせたり、砂場に組み伏せて頭から砂をかけたりした。
一冴はだまされやすく、からかえば面白い。
しかし、小学校になれば距離が開く。特に二年生の時はクラスが違い、それぞれに新しい友達ができた。それが菊花は不満だった。お気に入りのおもちゃが、自分から離れたような気がする。
――かずさ、女の子とばっか遊んでて超きもい。
不満を晴らすように菊花は一冴にちょっかいを出した。男子たちの苛めに加わったり、雪が降ると雪玉を投げつけたり、当番では厭な役割を無理やりやらせたりした。
結果――むしろ距離は開いてゆくこととなる。
それに気づいた後は菊花もおとなしくなった。
代わりに、佳倫との親交を深めることとなる。
佳倫と遊ぶという理由で、菊花はよく上原家を訪れた。
結果、一冴とは一定の距離をたもっている。しかし、それだけだ。菊花と佳倫が居間でゲームをしていても、一冴は無視する。どうせならば、僕も仲間に入れてと言うべきではないか。もちろん、そうなったらなったで揶揄っただろうが。
その感情は、時として罵声となった。
中学に入り、一冴は露骨に蘭を気にかけ始める。そのたびに苛立った。自分の物であるはずのものが、どんどんと自分の物ではなくなってゆく。
一冴のことなど自分は好き「ではない」のだと思った。
ただ、一冴は自分の思い通りにならなければならないのだ。
二月初旬のこと、チョコレートを作った。中には、唐辛子の粉を大量に入れる。これを食べれば、一冴は辛さでむせび泣くに違いない。自分は、それを面白がるために作るのだ。
しかし、二月十四日――菊花はそれを渡せなかった。
大好きだよ――と言うのでもいい。義理だよ――と言うのでもいい。こんなものはどうせ悪戯なのだから。ともかくも渡せばよかったのだ。しかし、それができなかった。
家に帰り、そのチョコレートを自分で食べた。
普通のチョコレートの甘みのあとに、酷い辛さが襲ってくる。
仮初の言葉であっても、やはり恥ずかしかったのか。いや――このチョコレートは酷く辛い。たとえ仮初の言葉であっても、こんなものを渡した途端、その気もちまで本当に仮初になるからではないのか。
チョコレートが辛すぎたため、涙が出た。
やがて自分は白山女学院へ入る。東條家に生まれた以上、それは定められている。しかしそうなれば、一冴とはさらに離れてしまう。小学生の時、中学生の時――やがて入る高校と、段階を踏みながら一冴は離れてゆく。
一冴の女装を知った時はうれしかった。バラされては最もまずい秘密を握ったのだ。しかも、まるで着せ替え人形のように一冴の女装は似合っていた。
それから半年ほど経ち、一冴の父が麦彦に融資を頼んだ。
ひらめいたのはそのときだ。
一冴の女装姿を麦彦に見せればいい。そして、白山女学園へ入学させるのだ。成功するかどうかは分からない――しかし、こういう非常識なことが麦彦は好きだ。そのうえ、麦彦は菊花を猫かわいがりしている。
そうして、菊花が一冴と相部屋になればいい。
――女が女を好きになるわけがない。
もはや一冴は誰にも盗られないのである。
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