女装男子は百合乙女の夢を見るか? ✿【男の娘の女子校生活】学園一の美少女に付きまとわれて幼なじみの貞操が危なくなった。

千石杏香

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第一章 初めてのスカート

第五話 怪しくなる雲ゆき

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不幸中の幸いと言うべきか、一冴の女装を菊花は黙ってくれた。しかし、そのとき撮った写真を出汁だしに、しばらく菊花は一冴を下僕として遣う。

一冴の女装は、母親と菊花以外に知られず済んだ。

そうこうするうちに春がきた。

蘭は白山女学院へ進む。一冴の恋は終わったように見えた。将来、どこかの男性と蘭も結ばれ、結婚するのかもしれない。そう考えると苦しくなった。

父の貿易業が怪しくなったのもこの頃からだ。

その頃、父の帰宅は遅いものとなっていた。帰るたびに、苦い顔で晩酌を始める。そして、従業員の解雇や赤字決算について口にし始めるのだ。

その日の晩もそうだった。

夜中のことである。一冴が一階へ降りると、居間では父が晩酌をしていた。

「六千万ほど足りんな。」

ショットグラスの氷が音を立てる。

「なんやかんやで新型ウィルス騒動も終わったというのに――終わった後が大変だ。とにかく金を返さにゃならん。このままでは社がもたん。閉業して、この家も売り払うしかなかろう。一冴を黒森学園に入れられん。」

一冴はそれを遠巻きに聞いていた。

黒森学園は、一冴が進学する予定の男子校だ。白山女学院と同じように、全国から集まった良家の男子が通っている。

――けど、黒森には入りたくないな。

不安そうな顔で母は問う。

「何とか――ならないんですの?」

「とにかく、借金を返すことだ。金を返すために金を借りるというのもよくはないが、今はそれしかない。――麦彦の爺さんを頼ろうと思う。」

麦彦とは、親戚の資産家である。大地主であり、不動産や有価証券も数多く所有している。

ただ――麦彦は酷い変わり者だ。

親戚が集まる場で、これからの挨拶は逆にしようと言いだす。朝はこんばんはと言い、夜はおはようと言おう――と。そうして、猫の丸焼きを親戚にふるまうのだ。親戚たちは、ごちそうさまと言わされたあとにそれを食べさせられた。

一冴などは、お年玉だと言われて、無理やり股間を触らされたことがある。

母は苦い顔をする。

「伯父さんでしたら助けてくれましょうけど――いいんですの? 『あの』麦彦伯父さんに。」

「今はそれしかなかろう――『あの』麦彦伯父さんにでも。明日にでも頼んでくる。」

居間がしんと静まり返った。
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