神送りの夜

千石杏香

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第六章 霜月

7 火災と死

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漆黒の闇の中、白い火の手が上がった。朱色に、そして真紅まっかに変化しながら、遠くで焔はゆらめく。一軒家のシルエットが中に浮かび上がった。

遠くから美邦はそれを眺める。

焔以外、墨で塗り潰されたような闇だ。

身動きができない。

あそこに住む人たちは、もう逃げたのだろうか。いや――まだ残っているのではないか。

サイレン音が遠くから聞こえる。やがて四方に木霊こだました。音は多いのに車は見えない。

糸のような影が焔の中で動く。それは、ぐにゃぐにゃと揺れる棒人間のようでもあり、線蟲のようでもあった。

     *

日曜日の八時ごろ、美邦は目を覚ました。

――今度は火事。

冷たい空気の中、胸騒ぎを覚える。

震えつつ、ベッドから降りた。

同時に、学習机の上のノートが目に入る。竹下のアドバイスに基づいて用意した物だった。先日から、見たものや感じたことをそこに綴っている。

先ほどの内容を書き留めた。

同時に、酷く憂鬱になる。あの夢は、自分の過去のことかもしれないと思ったからだ。

――それとも。

先日の幸子の言葉を思い出す。

――また何か起きたら。

続いて、下駄箱に置かれた紙が目に浮かんだ。

――お前のせいで実相寺由香は死んだ。

ノートを閉じ、一階へ降りる。

居間では、平日より遅めの朝食が始まっていた。

おはようございます――と声をかけると、千秋も啓も、おはようと異口同音に応えた。詠歌だけが、無言のまま台所で朝食を作っている。

洗面所で顔を洗い、歯を磨き、居間へ戻った。

点けっぱなしにされたテレビからニュースが流れる――米国大統領の動向や、関東で起きた殺人事件の報道。続いて、次のニュースが読み上げられた。

「今朝未明、■■市平坂町の民家で火災があり、住民とみられる男性が死亡しました。」

刹那、画面から目が離せなくなる。

火災現場の空撮が映った。

「火災があったのは、■■市平坂町大字上里園部の民家です。午前三時ごろ、民家が燃えているという通報が近所の住民からあり、地元の消防団が駆けつけました。焼け跡からは、住民の菅野文太さんとみられる男性が発見され、間もなく死亡が確認されました。■■県内では住宅火災が相次いでおり――」

アナウンサーの声が淡々と流れる中、詠歌が嘆いた。

「あら――厭だわ――」
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