神送りの夜

千石杏香

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第五章 霜降

7 現れる死の数

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「ああ――はい。お忙しいなか、時間を取らせました。ありがとうございます。それでは――失礼いたします。」

慇懃に礼を述べ、冬樹は電話を切る。

溜め息をつき、スマートフォンを机に置いた。そして、思い切り伸びをする。

日曜日の夕方なのに、疲れは溜まっていた。

少し休み、居間へと降りた。

パソコンの電源を入れる。パスワードを入力し、自分のアカウントにログインした。同時に、不気味なデスクトップが広がる。

思わず眉をひそめた。

正直、快い画像ではない。なぜ変わったかも分からない。だが、そのままにしていた――妙に気にかかっているからだ。

LIИEを開く。トップには、グループトークの「放課後探偵団」が来ていた。アイコンは、何かのキャラクターがホームズの格好をしたものだ。当然、設定したのは由香だった。

愛らしい絵柄に切なくなる。

由香が失踪して五日――何の続報もない。

今まで何度も繰り返されてきたことだ――防災無線や噂を通じ、一年に二度ほど、不吉な報せが入る。失踪者の中で、帰ってきた者を冬樹は知らない。

どうあれ――今は、自分のできることをするしかない。

ゆえに、土日を通じて電話をかけ続けたのだ。

キーボードを叩き、メッセージを入れる。

「自治会長さんの家に電話をかけてきた。」
「入江1区2区、平坂1~5区、伊吹1~3区、上里1区2区・園部・別所の。」
「あと、郷土誌の編纂者にも。」

そこまで送信したとき、幸子からのメッセージが表示された。

「え、みんな?」
「すごい!」

美邦から、「おつかれさまでした」と書かれた犬のイラストのスタンプが送信される。

既読が「3」と表示された。この五日間、三つしか常につかない。

「ひとまず、」
「郷土誌を読んでみたら、荒神様の宮司は『大原糺』って書いてあった。」
「元は、あそこは大原家の所有地だったみたい。」
「けど、市役所に訊いてみたら、荒神様は市有地だっていう。今は、入江2区の自治会が管理しとるだって。」

ポンと、幸子のメッセージが表示される。

「自治会長さん何て言っとんなった?」

通話の内容を思い出しながらキーボードを打つ。

「入江2区の自治会長さんは、平坂神社そのものは知っとんなった。けど、詳しいことは知らんって。」
「潰れたって噂を十年前に聞いただけだとか。」
「ほかの自治会長さんや、郷土誌の編纂者さんも同じ。」
「上里・園部・別所の自治会長さんに至っては、潰れたっていう噂さえ知らなんだ。」

美邦のメッセージが表示される。

「神社を管理しているのに、詳しい事情を知らないってどういうこと?」
「それに、そこ、もともとは、私の家の土地じゃ」

内心同意しつつも冬樹は返信した。

「十年前と今じゃ、自治会の人が違うに。」
「十年前まで自治会長だった人は、みんな亡くなられとった。15区、全て。」
「それどころか、郷土誌の、平坂神社の部分を編纂した人も。」

「みんな?」

「ああ。」
「しかも、十年前の伊吹2区の自治会長は、
9年前の10月、腐乱死体になって発見されたあの人だ。」

芳賀のメッセージが表示された。

「光川秀樹さん?」

キーボードを叩く。

「それだ。」「そして、郷土誌の編纂者は――」

冬樹は、市役所から聞いた何人かの名前を挙げる。その全てが、八年から七年前に亡くなっていた。

「今回の調査で分かったのはそこまでだ。」

土日を潰しても――そこまでしか分からなかった。

――まるで粛清のようだ。

祭りを管理していた当事者が全て亡くなっている。ひょっとしたら、十年と九年前の不審死は、新聞に載っていたものだけではないかもしれない。一見して自然死ならば、事件として報じられないだろう。

芳賀からのメッセージが表示される。

「これからどう調べてゆくつもり?」

冬樹は考え込む。

そして、正直に述べた。

「行き詰まってる。」
「やっぱり、十年前に亡くなったかたのことを調べるところかなあ、とは思うけど。」

幸子から、「無理のない範囲でね」とメッセージが表示される。美邦からは、「ゆっくりやすんでね」と書かれたスタンプが送られた。

LIИEを閉じ、少し考える。

――この町で、何が起きているのか。

菅野の話を信じる限り、十年前まで神社はあったはずなのだ。しかし、知らないと誰もが言う。それどころか、意図的に隠した痕跡さえある。

ふと、郷土誌の黒塗りを思い出す。

目次を開いたとき、「平坂神社」と美邦はつぶやいたのだ――そこにない文字を見ていた。鉄鐸の画像を目にしたときも、こう言ったのを覚えている。

――この、六角形の模様は何ですか?

それが冬樹は忘れられない。

――六角形の模様。

中学校を建設するときに出土した銅鐸を思い出す。あれは――やはり鉄鐸と関係があるのだろう。

――大原さんは何を見たんだ?

平坂神社の神は一つ目だという。それは何を意味しているのか。冬樹の知る限り、大物主が一つ目だという伝承はない。

――社家の生き残りが隻眼。

失明したのは、いつなのだろう。それは、神社が火事になる前なのか――あるいは後なのか。

再び引っかかった。

参道の石段を登った先に神社はある。

山の上に、宮司の一家が住んでいたとは考え難い。恐らく、ふもとに家はあったはずで――焼けたのはそこなのだ。だとしたら、神社は類焼していない。

山の中の神社はどうなったのか。少なくとも、取り壊されたという話は聞かない。

――ひょっとしてまだあるのか。

もし社務所があるならば、何かの手がかりも残っている可能性が高い。

平坂神社跡地をまだ訪れていないことに気づいた。資料を探したり、電話で聴き込みをしていたりして忘れていたのだ。しかし、空き地を見ても何も分からない。

――山の中に這入ったほうがいい。
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