「LGBT」というレッテルを貼られて。

千石杏香

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何でこんなLGBTが生まれたんだろう?

1.あなたたちが何をしてきたのか?

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二〇二一年・五月三十一日――FNNプライムオンラインが次の記事を載せた。

『「何でこんな国に生まれたんだろう」LGBT差別発言に9万4千の抗議署名』
https://www.fnn.jp/articles/-/189701?display=full

当時は、山谷えり子氏の発言が炎上している最中だった。記事は、三十日から自民党本部前で行なわれた「当事者」たちの声を取材したものだ。

記事の中で、松中権というゲイ活動家(杉山文野が育てている子供の父親)はこう答えている。

「たくさんスピーチを聞きながら、何でこんなことをしなくちゃいけない国に生まれてきたのだろうと思いました。『差別は許されない』という言葉を法案に入れては駄目だと自民党はいいますが、なぜその言葉を入れては駄目なのかと思います。」

――なぜその言葉を入れてはならないのか?

きちんと山谷氏が理由を述べたではないか――「性自認に基づく差別」が拡大解釈される危険性を。ところが、真っ当なこの発言でさえ「差別」だと難癖をつけているのは誰か。

松中の発言に反撥を抱いた当事者は多い。

あるゲイはこう言った。

「『何でこんな国に生まれたんだろう』←俺はこの国に生まれて本当に嬉しく思ってるが、嫌ならどこへなりと行ったらいいよ。今の日本以上に俺らが生きやすい国が本当にあるなら…だけどね。まさか同性愛者だってだけで路上でリンチされたりする欧米とかがいいのかな?」
https://twitter.com/ostrakon191/status/1399411392675946501?s=20

ほとんどの当事者は、性的少数者である以前に日本人だ。自分の国を貶されて喜ぶ人は少ない――キリスト教諸国と日本との文化的な違いを知るならばなおさら。

それどころか、多くのゲイたちは自分の性的特質セクシュアリティと政治を結び付ける発想がない。日韓関係や日中関係、はたまたウクライナのことの方がよほど気にかかるだろう。それゆえか、「LGBT」という言葉が正確に何を意味するのか知らない人も多い。

だからこそ、長いあいだ活動家はゲイから無視されてきた。

ほとんどのゲイは、男性としての特権を何の問題もなくこの国で享受してきた。妻子を養うこともなく、女性に気に入られるための苦労もなかった――ノンケより楽な立場にいたと言える。

その証拠に、活動家たちが今まで何をしてきたのか一般的なゲイは何も知らない。

ILGAやアカーという固有名詞を聞いて、何のことか分かるゲイがどれだけいるだろうか。松中権や松岡宗嗣のことを知るゲイがどれだけいるだろうか。――ほぼいない。そういう活動をしている人が「どこか」にいるというくらいの認識である。

それは、彼らに共感するゲイが少ないからだ。

「同性愛者として差別など受けたことはない」と言うと、「今まで活動してきた人のお陰だ」と活動家は反論する。「最近になって差別がなくなってきた」と言う人さえいる。しかし、活動家が「何」をした結果、「どのような」成果があったのだろう?

活動家の言葉を、故・ジャック氏はこう一蹴する。

「冗談じゃない! お前たちがいったい、なにをやったんだよ!」

日本には存在しない同性愛者差別を作り上げ、重箱の隅をつつくように「差別」の案件を見つけ出しては大騒ぎし、ゲイパレードと称する悪趣味な仮装行列を行なって一般的なゲイの失笑を買い、それをマスコミが取り上げないからと言って抗議して無視され、挙句の果てに仲間割れしてゲイパレードを中止せざるを得なかった。

「これまでゲイリブがやったことで唯一、一般ホモから評価されたのはあの悪趣味でみっともないゲイパレードを中止したことだけだということを知らんのか!といいたいですね。」
『ジャックの談話室』「サベツなんて最初からなかった」https://jack4afric.exblog.jp/10344190/

このようなことを言う人は、LGBT活動家にもいる。

例えば、越境性差トランスジェンダーの活動家・三橋順子は次のように言っていた。

「きつい表現かもしれませんが、この間、日本のゲイやレズビアンの人たちはなにをしていたのかと言いたくもなります。メディアへ積極的にコンタクトして自分たちが社会に伝えたい情報を出すという努力を怠っていたのでは。」
https://www.huffingtonpost.jp/2017/04/25/junko-mitsuhashi_n_16222104.html

運動が日本で盛り上がらなかった理由は、同性愛者への差別が少ないからだ。つまり、運動の原動力が足りなかったのである。少なくとも、キリスト教諸国のようにはいかなかった。

もちろん、同性愛者と言ってもレズビアンとゲイでは大きく違う。

レズビアンたちは、女性として生きることの苦労を二重に強いられてきた。だからこそ、レズビアンの運動はフェミニズム運動だった。しかし、ゲイと共闘しだした途端――LGBTに絡め取られた途端――運動の道しるべは大きく狂ってしまう。

我が国においては、フェミニズムとゲイには接点はない。長い歴史を見れば、男色が男性の関係(ホモソーシャル)を作ってきたのだ。

言うまでもなく、同性愛者の運動と越境性差トランスジェンダーの運動も大きく違っていた。

それどころか、越境性差トランスジェンダーという概念は日本にはなかった――あるとすれば、「おかま」や「おなべ」だ。

だからこそ、そのような存在と切り分けてGID当事者たちは独自に戦った。自分たちは「おかま」でも「おなべ」でもない――定型性差シスジェンダーになるための医療を経たのだと主張した。そうして、相応の権利を得るための運動を起こし、成功してきた。

しかし、そんなGID当事者の存在は掻き消されようとしている――「LGBT」というレッテルを貼られて。今や、手術を望まない性別違和者や女装家まで「越境性差トランスジェンダー」を名乗り出し、GID当事者の運動とその成果に背乗りし始めた。

十年代に入るまで、「LGBT」という言葉は当事者に知られていなかった。それ以前は、「LGBT」という枠はなかったのだ。全くバラバラだった。ところが「LGBT」が登場して以来、一般的なゲイからも煙たがられるゲイ活動家が幅を利かせ、越境性差トランスジェンダーとGIDは混同され、レズビアンたちはそれに付き合わされるようになった。

一体、何が起きたのだろう?

なぜ、LGBTは不自然な盛り上がりを見せたのか?

ゆえに、今こそ問わなければならない。

何でこんなLGBTが生まれたんだろう――と。
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