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女装男が女湯に入っても合法になる日

4.「性同一性障碍」が消えた日。

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世界中のLGBT活動家が目指していることは、性別違和の脱病理化だ。

すなわち、「性別違和は病気でも障碍でもない」ことにしたいのである。理由は、「自認する性別へと身体を変えたいだけなのに、それを『病気』や『障碍』と呼ぶのは可哀そう」だからだという。

何を言ってるんだ――という読者の声が聞こえてきそうである。

だが、これは、こういうことだ。

欧米諸国では、手術をせずとも性別を変えられる。しかし、「今日から女になる」と言っただけで性別を変えられる国は実は少ない。すなわち、医師の診断が必要な国も依然として多いのだ。

例えばイギリスの場合、二〇〇四年に性別の変更が認められた。この時点で、手術要件は既になかった。だが、性別適合手術を受けずに性別を変更する場合、その理由について医学的に説明しなければならない。加えて、性別違和に悩まされていること・「新しい性別」として二年間生活してきたこと・その性別で生涯を全うすることを証明する必要がある。

性別変更について、手術こそ不要なものの医師の診断が必要な国は、イギリス・ドイツ・スウェーデンなどである。医師の診断が不要な国は、フランス・ベルギー・ノルウェー・スペインなどだ。アメリカやカナダのような国は州によってバラバラである。

では、もしも性別違和が「病気」でも「障碍」でもないことになったら、どうなるのか?

性別変更のために、医師の診断を得る必要はなくなるのだ。診断が必要だった国も、制度が変わるか形骸化するだろう。

二〇二二年――「脱病理化」は部分的に実現する。

つまり、「性同一性障碍」という病気がなくなった。

この決定は、二〇一八年、スイスのジュネーヴで開催されたWHO(世界保健機関)の総会で行なわれた。総会では、疾病の国際的な統計基準である「国際疾病分類」が二十九年ぶりに改訂される。そこで、「性同一性障碍」は精神障碍から外され、「性別不合/性別違和」へ変更された。

ただし、まだ「脱病理化」はされていない。「精神障碍」から「性の健康に関する状態」へ移されたのである。精神的・身体的な障碍ではないが、健康ではない状態だ。「性同一性障碍」という名前が変えられたのは、「障碍」という言葉にLGBT団体が反撥し続けていたからだ。

「性同一性障碍」は、「正反対の性別へと身体を変えたがる障碍」だった。一方で、「性別不合/性別違和」には、正反対の性別を求めるわけではないXジェンダーも含まれている。

「国際疾病分類」を担当したWHOのロバート゠ヤコブはこう述べた。

「性同一性障碍は精神的な病気でも身体的な病気でもないと我々が考えるようになることは、社会にとって強いサインとなるだろう。――『障碍』という項目から外すことによって、『性別不合』とこれからは呼ばれる人々が着せられてきた汚名を返上することにつながる。」

この決定が効力を持ったのは、二〇二二年からだ。

当然、この決定は日本にも影響を与える。性別変更を可能とさせる日本の法律は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というのだ。「性同一性障碍」が国際的に消滅した今、特例法は変更を迫られるかもしれない。

しかし、私は首を捻らざるを得ない。

WHOがこの決定をしたとき、日本のLGBT活動家たちは、「性同一性障碍は病気でも障碍でもなくなった」と欣喜雀躍した。だが、私の周りの越境性別トランスセクシュアルは逆の反応を見せている。

性同一性障碍の当事者たちは、「病気」や「障碍」として認められたことによって、それに伴う権利(保険適用や特例法)を勝ち取ってきた。なので、病気でも障碍でもないことになると、その権利が奪われるかもしれないというのだ。

また、越境性差トランスジェンダーにされる子供たちと脱病理化の関係について、LGBT活動家はどう考えているのだろう。

自分を越境性差トランスジェンダーだと考える子供が増えていることについては先に述べた。危険な医療を未成年に制限する法案も提出されている。それに対し、LGBT活動家たちは、「受けたい医療を受ける権利を制限している」と批判する。

しかし、性別が自己認識で変わるものであり、性別違和が病気でも障碍でもないならば、越境性差トランスジェンダーの子供を病院に連れてゆく必要はない。「身体を変えなくても、君がそう思っただけで既に性別は変わってる」と言えばいいだけの話なのだから。
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