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運動に踏みにじられたレズビアン。
2.侵掠されるレズビアンの居場所。
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「レズビアン゠コミュニティなんて今ほとんど日本に残ってませんよ。」
LGBTの問題に関わり始めて以来、女性当事者から何度かそう言われた。
ところでレズビアン゠コミュニティとは何だろう。多くの人は分からないはずだ。私もそうだった。男性当事者は男性当事者とばかり会うので、レズビアンのことは未だ分からないことが多い。
あるレズビアンによれば、八十年代・九十年代・零年代でコミュニティの雰囲気は違っているという。
八十年代は、どちらかと言えば女性解放など社会運動的な側面が強かったように思われるという。しかし同性愛者運動の盛り上がりを受け、九十年代からは大衆的な雰囲気のものとなる――レズビアンバーが次々と生まれ、レズビアンのための団体やフリースペースができ、クラブイベントやワークショップが催された。レズビアンたちは、レズビアンだけで集まることのできる場所を作ろうとしていたのだ。
しかし、侵掠の兆しはその頃からあった。
ある両性愛女性によれば、レズビアンバーに女装男が潜り込み、トイレに精液を残すなどの嫌がらせが行なわれることはよくあったという。
また、あるFtMは、レズビアンバーを異性愛男性が荒らしに来ることは稀にあったと証言している。レズビアンに加害意識をもつ異性愛男性は多いようだ――泥酔していたのならなおさら。ただし、女装家やゲイが乱入することはなかったという。
九十年代の終わりまでは、レズビアンを自称する男は見なかった。新宿二丁目で女装家を見ることはあったが、男が好きな人ばかりだったそうだ。
しかし、FtMを装った男性は昔から潜んでいた。
コミュニティ初心者には、FtMの真贋など分からない。ゆえに、FtMとは二人で会うなと言われていた。友人や知人と一緒に会いに行き、保険証などの証拠を提示させ、本物のFtMか確認してから遊んでいたそうだ。なので、FtMは嫌われていた――と先述のFtMは語った。
性同一性障碍が認知される頃から、レズビアンを称するMtFが現れだす。
レズビアン゠コミュニティについて教えてくれた人は、次のように語ってくれた。
「女性はケア要員の背景で育ってる人が多いじゃないですか。それに、レズビアンは『気持ち悪い』と言われていましたし――。そういう人たちがコミュニティを作ろうとしていたんです。そこに、性同一性障碍の人が少しずつ来ていました。」
越境性別ではないトランスなどいないと思っていた。まさか、女装した男性が女性を自称しだすとは思ってもいなかったのだ――いたとしても来ないと思っていた。なので、最初は彼らを受け入れていたという。
「すると、そのお友達の『性同一性障碍かな?』という人が来て、さらにそのお友達の曖昧な人が来て――最後には『女かも?』くらいの人が来たんですね。いつの間にか――ですよ、本当に。」
ゲイたちは、性同一性障碍よりも先に女装というものを知っていた――性同一性障碍ではない越境性差というものの実態を。ところが、レズビアンたちはそれを知らなかったのだ。――「うそつき」はいないと思って受け入れてしまった。
レズビアン゠コミュニティに「レズビアンのMtF」を受け入れた結果、性犯罪や、それに類する出来事が起こるようになる。
当然かもしれない。何しろ、「レズビアンのMtF」には男性器のある者もいる――そんな彼らを信じて、女性専用イベントに受け入れたのだ。
このことについて書こうとして、私は関係者と交渉したのだが、難しかった――何しろ、MtFに対する配慮もあって内部で処理されていたことなのだ。
しかし、想像のつく人も多いだろう――同性゠両性愛女性だけが集まって交流する場に、「レズビアン」を称する戸籍男性を受け入れたらどうなるのか。
あるレズビアンイベントでは、こんなことがあったと聞いた――長髪のカツラを被った(しかも一人称「俺」の)男性が、参加者を羽交い絞めにして胸を揉んだり陰茎をなすりつけたりしたのだ。
この手の「レズビアンのMtF」には、一人称が「俺」の人物がなぜかいる。
あるレズビアンは、自称「レズビアンのMtF」からレズビアンバーでナンパを受けたと証言している。その男は、女性ホルモンはおろか女装さえしていない――ガチムチの肉体で金髪の長髪だった。しかも、「俺はレズビアンだ」「連絡先を交換しないのは差別だ」「俺とやれ」とまで言ってきた。挙句、「バーの店員の愛想が悪い」と怒鳴り散らし、店の看板を蹴りつけて破壊したという。
別のレズビアンは、女性オンリーのイベントの手伝いをしていた。すると、「RLE(実生活経験)が進んでいないMtFのレズビアンです」と言う人が参加を申し込んでくる。運営者の中でも意見があったが、参加を受け入れたそうだ。
ところが、やって来たのは、おじさんポロシャツを着た髪の薄い――それでいて髭の濃い――中年男だった。女らしさが全くないので、本当に女性を自認しているのかと訊いたところ、「女と思ってません」と言われた。
二十年も続いてきたある女性向けイベントは、MtFを受け入れたことについて苦慮していたようだ。そして行き詰まってしまい、活動停止となってしまったという。
他にも、ここには書き切れない様々な出来事がレズビアン゠コミュニティでは起きてきた。
そして二〇一九年―― GOLD FINGER 事件が起きる。プロローグでも述べた通り、エリン゠マクレディというトランスレズビアンが、GOLD FINGER の女性専用イベントに入ろうとして拒否されたのだ。マクレディは、「トランス差別に遭った」と全世界に英語で発信する。結果、批難が殺到し、GOLD FINGER は謝罪に追い込まれた。
この一件により、レズビアン゠コミュニティに(たとえ未手術であっても)トランスレズビアンを入れないことは「差別」だという認識が拡がってゆく。
それにしても、なぜレズビアンは狙われるのか。女装した男性は異性愛者の女性と付き合うべきだ。
やはり、男性向けポルノが作った「レズビアンへのエロい幻想」は大きいだろう。彼らは、「レズビアンになること」で昂奮しているのだ。その空想を充たすのが本物のレズビアンである。
また、「レズビアンは男の良さを分かっていないだけだ」「俺が分からせてやる」と思っている男も少なくない。そこには、「男から女を奪う女」を組み伏せてやろうという征服欲がある。
端的に言えば、彼らの本音は「俺も混ぜさせろ」なのだ。
LGBTの問題に関わり始めて以来、女性当事者から何度かそう言われた。
ところでレズビアン゠コミュニティとは何だろう。多くの人は分からないはずだ。私もそうだった。男性当事者は男性当事者とばかり会うので、レズビアンのことは未だ分からないことが多い。
あるレズビアンによれば、八十年代・九十年代・零年代でコミュニティの雰囲気は違っているという。
八十年代は、どちらかと言えば女性解放など社会運動的な側面が強かったように思われるという。しかし同性愛者運動の盛り上がりを受け、九十年代からは大衆的な雰囲気のものとなる――レズビアンバーが次々と生まれ、レズビアンのための団体やフリースペースができ、クラブイベントやワークショップが催された。レズビアンたちは、レズビアンだけで集まることのできる場所を作ろうとしていたのだ。
しかし、侵掠の兆しはその頃からあった。
ある両性愛女性によれば、レズビアンバーに女装男が潜り込み、トイレに精液を残すなどの嫌がらせが行なわれることはよくあったという。
また、あるFtMは、レズビアンバーを異性愛男性が荒らしに来ることは稀にあったと証言している。レズビアンに加害意識をもつ異性愛男性は多いようだ――泥酔していたのならなおさら。ただし、女装家やゲイが乱入することはなかったという。
九十年代の終わりまでは、レズビアンを自称する男は見なかった。新宿二丁目で女装家を見ることはあったが、男が好きな人ばかりだったそうだ。
しかし、FtMを装った男性は昔から潜んでいた。
コミュニティ初心者には、FtMの真贋など分からない。ゆえに、FtMとは二人で会うなと言われていた。友人や知人と一緒に会いに行き、保険証などの証拠を提示させ、本物のFtMか確認してから遊んでいたそうだ。なので、FtMは嫌われていた――と先述のFtMは語った。
性同一性障碍が認知される頃から、レズビアンを称するMtFが現れだす。
レズビアン゠コミュニティについて教えてくれた人は、次のように語ってくれた。
「女性はケア要員の背景で育ってる人が多いじゃないですか。それに、レズビアンは『気持ち悪い』と言われていましたし――。そういう人たちがコミュニティを作ろうとしていたんです。そこに、性同一性障碍の人が少しずつ来ていました。」
越境性別ではないトランスなどいないと思っていた。まさか、女装した男性が女性を自称しだすとは思ってもいなかったのだ――いたとしても来ないと思っていた。なので、最初は彼らを受け入れていたという。
「すると、そのお友達の『性同一性障碍かな?』という人が来て、さらにそのお友達の曖昧な人が来て――最後には『女かも?』くらいの人が来たんですね。いつの間にか――ですよ、本当に。」
ゲイたちは、性同一性障碍よりも先に女装というものを知っていた――性同一性障碍ではない越境性差というものの実態を。ところが、レズビアンたちはそれを知らなかったのだ。――「うそつき」はいないと思って受け入れてしまった。
レズビアン゠コミュニティに「レズビアンのMtF」を受け入れた結果、性犯罪や、それに類する出来事が起こるようになる。
当然かもしれない。何しろ、「レズビアンのMtF」には男性器のある者もいる――そんな彼らを信じて、女性専用イベントに受け入れたのだ。
このことについて書こうとして、私は関係者と交渉したのだが、難しかった――何しろ、MtFに対する配慮もあって内部で処理されていたことなのだ。
しかし、想像のつく人も多いだろう――同性゠両性愛女性だけが集まって交流する場に、「レズビアン」を称する戸籍男性を受け入れたらどうなるのか。
あるレズビアンイベントでは、こんなことがあったと聞いた――長髪のカツラを被った(しかも一人称「俺」の)男性が、参加者を羽交い絞めにして胸を揉んだり陰茎をなすりつけたりしたのだ。
この手の「レズビアンのMtF」には、一人称が「俺」の人物がなぜかいる。
あるレズビアンは、自称「レズビアンのMtF」からレズビアンバーでナンパを受けたと証言している。その男は、女性ホルモンはおろか女装さえしていない――ガチムチの肉体で金髪の長髪だった。しかも、「俺はレズビアンだ」「連絡先を交換しないのは差別だ」「俺とやれ」とまで言ってきた。挙句、「バーの店員の愛想が悪い」と怒鳴り散らし、店の看板を蹴りつけて破壊したという。
別のレズビアンは、女性オンリーのイベントの手伝いをしていた。すると、「RLE(実生活経験)が進んでいないMtFのレズビアンです」と言う人が参加を申し込んでくる。運営者の中でも意見があったが、参加を受け入れたそうだ。
ところが、やって来たのは、おじさんポロシャツを着た髪の薄い――それでいて髭の濃い――中年男だった。女らしさが全くないので、本当に女性を自認しているのかと訊いたところ、「女と思ってません」と言われた。
二十年も続いてきたある女性向けイベントは、MtFを受け入れたことについて苦慮していたようだ。そして行き詰まってしまい、活動停止となってしまったという。
他にも、ここには書き切れない様々な出来事がレズビアン゠コミュニティでは起きてきた。
そして二〇一九年―― GOLD FINGER 事件が起きる。プロローグでも述べた通り、エリン゠マクレディというトランスレズビアンが、GOLD FINGER の女性専用イベントに入ろうとして拒否されたのだ。マクレディは、「トランス差別に遭った」と全世界に英語で発信する。結果、批難が殺到し、GOLD FINGER は謝罪に追い込まれた。
この一件により、レズビアン゠コミュニティに(たとえ未手術であっても)トランスレズビアンを入れないことは「差別」だという認識が拡がってゆく。
それにしても、なぜレズビアンは狙われるのか。女装した男性は異性愛者の女性と付き合うべきだ。
やはり、男性向けポルノが作った「レズビアンへのエロい幻想」は大きいだろう。彼らは、「レズビアンになること」で昂奮しているのだ。その空想を充たすのが本物のレズビアンである。
また、「レズビアンは男の良さを分かっていないだけだ」「俺が分からせてやる」と思っている男も少なくない。そこには、「男から女を奪う女」を組み伏せてやろうという征服欲がある。
端的に言えば、彼らの本音は「俺も混ぜさせろ」なのだ。
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